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邪眼は正しく使って下さい!  作者: たかはし?
邪眼勇者の冒険者譚編
151/162

第二章EX 第38.5眼 移動効率の本末転倒(ロストリーズン) の1つ目

今週本編おやすみです、ごめんなさい。

次週、本編はアオモリへ。お楽しみに。



※本稿は番外編であり、読み飛ばしても本筋へはあまり影響が無い(予定)です。



「んんんんんんんーーー!!!」

「何かありましたか!?」



 効率が悪い!

 …間違いなく、効率が悪い。



 ここは東京から青森への道中、東北自動車道。

 間違えた。違う違う今の無し。

 ここはトーキヨからアオモリへの道中、トーホクドー。

 何も考えずにつけた感が否めない、なんともエセジャパニーズなネーミングセンスに脱帽する異世界召喚数日目の今日この頃。

 まだまだトーキヨ寄り…だと思われる位置。ムース談。

 アオモリ方向へ三式跳躍…邪眼三点式空間跳躍(邪眼アイテムボックス+イーグルアイを同時活用した移動方法)を数度繰り返した私の心が、ある一つの問題を提起していた。

 それが、そう。『効率が悪い』だ。



「なんでもない…」

「そ、そうですか?何かあれば言ってくださいね?」



 そしてまた、私は次の移動用扉を、集中し、邪眼を使い、最大距離に展開させてそれを潜った。



 一度でわからない問題も、複数回も試行すればその欠点が浮き彫りになろうと言う物だ。どうやら私の側に問題があるらしい、と言うのはなんとなく理解できてきた。

 何せアイテムボックスと言うスキルは、それだけで集中力を必要とするスキルだ。

 ステータス画面と同じように、ゲームさながらのウィンドウが目の前に表示してこの異能の補助をしてくれては居る。だが、これは物の出し入れやセキュリティに関する設定変更に相当する部分。あくまで補助だ。アイテムボックスの難しさと言うのはもっと別の所にある。


 アイテムボックスを使う際、必ず物の出し入れをする扉を開く事になるが、この扉が非常に問題なのである。実はこれ、『アイテムボックスを開こう』と念じるだけでは開かない。当然の事ではある。開こうとして、しかし全く意図しない位置や方向に扉が開いてしまうと、最悪の場合中に入っているモノが全部出てしまう。おもちゃ箱をひっくり返すみたいに、無造作に。ドバっと。

 故にアイテムボックスを使う際、『何処にどちら向きで扉を開くか』とか、『この扉を何処に移動させるか』とかを頭の中で具体的に指定する必要がある。これにはある程度の集中力を必要とする。

 普通ならもう少し簡単なんだろう。手を突っ込んでモノを取り出す時、当たり前のように目の前に、それも手が一番侵入しやすい方向を無意識に指定できるだろうから。しかし私の場合は違う。自分から離れたらその分、その距離分の空間を私が把握している必要がある。これが億劫になる程難しいのだ。


 「空間を把握?見えてるのに何を把握するの?バカなの?」と思った奴。

 居るだろ。絶対に居る。

 そう言う奴らには是非とも3Dモデリングの作業をやってみる事をオススメする。最初から完璧に思った通りのモノを作れたのならお前は天才だ。しかもそれがプロ並みの速さなら、君はきっと人類屈指の映像技術者になれるだろう。おめでとう、君の未来は開かれた。だが残念ながら私は凡人なので、そんな特殊能力は持っていない。


 人間の視界は二点一方向からの情報しか取得できない。殆ど2次元な所を、目を二つにする事で、ギリギリ一方向からでも3次元を認識できるできるようになっている。片目を閉じてみれば、奥行きを把握する能力が極端に落ちる事がわかるだろう。経験測からある程度憶測できたとしても、その状態で意識もせず慣れも無く、十全な生活ができる人間はそう居ない。世の中の大多数の動物に目が複数あるのは理由があるからだ。二つある目玉は、決して予備なんかではない。

 だがしかし。二つあった所で結局一方向。瞬時に、かつ完璧にその距離を、空間を認識するだけの能力はやはり人間の目には備わっていない。

 これが、同じ作業を繰り返せばある程度、精度を上げる事はできるだろうと思う。

 野球のピッチャーがバッターのストライクゾーンに合わせて高低を変化させるように。

 バスケットボールの選手がフリースローでの精度を練習を繰り返してあげるように。

 テニスで相手コートの端を狙ってボールを叩きこむ技能を身に着けるように。

 だが、これはあくまで慣れあってこそだ。

 初めて立った場所から、はじめて見る建物までの距離を瞬時に認識する事なんて、そんな球界のプロたちにだってできないだろう。精々自分の記憶の中から、似た距離感の状況を思い出す位だ。寸分たがわずそんな事ができる人間が居れば、それは間違いなく普通の人間ではない。脳の異常発達が原因の、先進的な一部の次世代人類さんだけだろう。つまり結論に戻ると、私には無理。


 しかし、私はアイテムボックスの扉を瞬時に展開する方法を会得している。理由は、絶対鑑定の遠望透過イーグルアイ。空中から自分を俯瞰で見る事が出来る能力と、簡単な工夫一つでだ。

 人間の目で見る1方向ではなく、自分の位置を俯瞰で見られるこの能力を使い、つまり、高い視点から自地点Aと、アイテムボックスを展開したい地点Bを同時に視界に捉える事で、相対的な距離を瞬時に把握できているわけだ。この時のイーグルアイは別に、そこまで高く視点でなくても良い。自視点と同時に、もう少しだけ高い視点があれば、距離のあたりをつけるまでの速さが極端に上がる。

 またこの時、空間で認識するのではなく、アイテムボックスを展開したい部分の地面を発動の起点にする事で、高さ指定の問題を省き少しでも早く展開できるようにしている。

 地面を発動起点にする方法は自視点からも勿論可能だが、やはりイーグルアイを使った高い視点からの方が尚早い。

 アイテムボックスでの一番煩わしい部分をイーグルアイで代用している感じ、と言えばわかりやすいかもしれない。アイテムボックスに割く意識はほぼ無意識、『開く』だけに限定し、本来は展開と同時にしなければいけない面倒な空間把握を全て、イーグルアイの俯瞰視点で簡略化しつつ丸投げ。結果、処理速度を上げていると言う事だのだ。


 さて、ここまで言えばもうお気づきだろうか。

 今回の三式跳躍。問題は、アイテムボックス本来の座標指定込みの能力使用が必要不可欠で、更に三式の場合はイーグルアイは距離を稼ぐために使っている為、アイテムボックスの座標指定を自力で、しかも二つ目の能力を同時起動していなければならない。これが辛い。

 今まで楽してたのに。それを本来の形でやりつつ、尚且つ並行作業。ちょっと脳がオーバーワークなのだ。

 勿論アイテムボックスの展開起点は、空間認識に必要な脳のリソースを極力使わないよう、地面を指定しているが、それでも難航している。可能ではあるんだが、時間がかかり過ぎてるんだ。


 これは良くない。よろしくない。優雅ではない。正着ではない。もっといい方法があるはず。

 一回目の跳躍で既にそんな予感がしていたわけだが、三式跳躍は集中力が必要なのは前述の通り。考え事をしながらできる作業ではない。立ち止まって考えても良いが、結局それで答えが見つからなかった時は、完全に時間の無駄だ。会社努めだった時は、歩いたり電車に乗ると言う移動時間は考え事に使う事が多かったせいで、集中しなければ移動できないこの状況に追いつけていないとも言える。

 作業に慣れがあるのか、繰り返す毎に展開速度が速くなった気はするが、劇的に早くなったかと言われればそうでもない。現状でもかなりの速度、多分新幹線位の速度は出ているだろうが、それで満足しているわけでもない。これだったらまだ、ムースが最初に言っていたように、身体能力だけのごり押し移動の方が良いかもしれない位だ。

 もう2・3度繰り返して大きな改善が見られない場合は、少し休みながら別の方策を考えてみよう、そうしよう。



 扉からムースが完全に出て来たのを確認して、即座にその扉を閉じる。

 カー・ラ・アスノート王都、トーキヨを囲む巨大な壁は、私の超視力ですらとっくに見えない程の距離になっている。


 そしてまたアオモリに向けて向き直り、三式跳躍用の入口・出口を展開…するつもりだった。

 おかしい。



「壁…」

「?…はい?」

「壁がある。でかい壁。」



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