第5眼 女神を姉妹にさせて下さい! の2つ目
「ち、違うのですよー。…え、なにそのかわいそうな者を見る目はやめて欲しいのです。なんですか?は?ソロプレイヤー!?馬鹿にしているのですね!!ムッキー!そろそろ怒りますよ!?」
おっと、唐突に心を読み始めた。自重しなければ。
本来の勇者召喚は、もっとオートでシステマティックなのだそうで、ここに来た人間は初めてだー、と言う話を聞いていて、ふとそんな結論を出してしまっても仕方ない。私は悪くないと思う。
あと、ソロプレイヤーについてはすみません。でもこれも私、そんなに悪くない。
「人と話した事くらいあるのですよ!」
「へー。」
「なんですか。その、納得してませんよーって返事は、なんなんですか。」
えー?だってー。
それにしては、話し相手ができて随分嬉しそうなご様子の女神様。
ほら、さっきまで浮かれていたじゃないですか。色んな意味で。
「神様が人と話す機会が、そもそもそんなにあったんだなーって、驚いてたんですよー。」
「うっ…そそりゃ、あ、ありますのですよー?だ、だって私、神ですしー?って!って言うか、真似しないで欲しいのですが!?」
「へー。あ、じゃあ、私がそっちに行った後も気軽に話せるわけですね。いやー、良かった。クエストの事とか後から確認できなかったらどうしようかと。」
「え…」
「ヨカッター。」
「…無理、なのですけれども。」
おいこら、女神。目線を逸らすな。
そんな貴方に、私の熱視線をプレゼント。
どうだ、喋りたくなって来ただろう?
「うぅぅ…」
「で?そろそろ、観念したら?」
「ひ、人と話したのは本当なのですよー!人がたまに、向こうから話しかけて来るのです!」
え!?神から人へ、じゃなくて?それもそれで凄いけど。人から神へ話しかける…?
「信心深い者が話しかけて来るのですよ!私、大人気の、神ですしー?」
「………へぇ。」
「…今の間で考えてた事については聞かないでおいてやるのですよ…。一応、緊急事態には人間に呼びかけたりする事もあるのですよ?とは言っても、全く気がつかないか、破裂するかのほぼ二択なので…」
「は、破裂…」
「神託は聞こえる聞こえないの二種類だけです、なのでその中で、神託に耐えられる者にしなければ悲惨な結果しか生まないのです…敬虔な信徒だし大丈夫かなーって声をかけたらパーン。とか。もう試す気も起きないと言うか。…同じ過ちを、三度は繰り返さないのです。」
ぽそっと聞こえた施行回数が生々しい。
「もうちょっと頻繁に話しかけてくれる人が出てくれば、依り代への神降ろしの儀でも教えて準備させるのですが、こう、そんな機会もそうそうなくてですねー…」
「で、ただひたすら、それができる人が話しかけて来る受身な体制でいるわけだ?」
「はいぃ…もうかれこれ、100年以上…だから、あんまり…話した、事は…」
「ないのですよー」が、どれだけ待っても出てこない。女神様は心が折れたみたいだ。
どうやら、随分と話相手に飢えていたみたい。
『一神悲愴の孤独想者』。やっぱり、悪くなくない?
あ、これは別に、私にお試しで最初につけたスキルに「孤独」とか言う単語を入れた事への意趣返しでは決してない。信じて欲しい。ちょっと根に持ってた程度だし。
それに何より、「孤独想者」って、一人で考える人って意味だろうし。ソロプレイヤー、しっくり来るってだけだし。だから、あんまり睨まないで欲しい。あと、心を読まないで欲しい。
「…ま、私がここに居る間くらいは、好きに話しかけると良いよ」
ほら。こんな一言で、華のように華やいだ素敵な笑顔が見れたのだ。
片手間に雑談する程度、安い安い。
そう思っていたら、突然両手で顔を覆い隠してしまった。
さっきご立腹の際に出ていた、「ハンっ!ハンっ!」と言う謎の言葉がもれる。
続いて、「なんだか偉そうですー」とか、「間に合ってますー」とか、出てきて出てきて止まらない。
楽しくなって声を出して笑ってしまう私を見て、彼女のそれはまた勢いを増すのだった。
あ。あと、異世界に降り立つ前にクエスト表を一通り目を通しておかなければ。
不明点は今のうちに全て解消しておかなければならない。
「…ここでだけでは、足りないのです…」
そんな事を無言で考えていたら、女神様は無視されていると思ったのだろうか?軽く睨むように、しかし怒っているというより甘えるようにぽつりと呟く。
「愛と、もっと、お話…したいのです」
ストレート過ぎる!
まるで体に電流が流れたような衝撃。世の中の幸せを全て手に入れたような気分。ああ、我が世の春とはこういう事か!成程納得、世のバカップルが自分たちが世界で一番幸せだと疑いもせず信じてアホ面下げながら有頂天になるのもわかる。
あああかわいいなあ、妹にしたいくらいだ。
私の顔が緩んだのを好機と見たらしく、突然畳み掛けてきた。
「も、もし、愛さんが良ければ、最後のスキルをこう、ちょっと変えて…クエスト完了の暁には、神様体験コースにご招待!ってな感じです!」
「んー…」
『神話世界の職業体験』
…なお私は現在、「スキル名を考える」作業をしている。
それに引っ張られたのだろう、ルビと一緒に頭に思い浮かんだ。
やめて欲しい。
…いや、もう少し冷静になろう。
決して嫌なわけではない。
ただ、本当に、神様スケールの話を突然決定しろと言われても、人間の心ではバッサバッサと問題を切って捨てていけるようにはできていないのだ。
少なくとも私には、まだ答えが出せそうにない。
「…保留にできない?しばらく考えたいって言うか…とりあえず、人間やめて、クエスト進めながら考えていきたいって言うか…」
言いながら、もう自分の中では殆ど答えは出ているような気がしないでもない。
だが、考えられる時間があるならそちらの方が良いに決まっている。
例えそれで答えが変わらなかろうが。
「…つまり、その時が来たら選べるように、ですか?」
「駄目、かな?」
「いえ、十分なのですよー!なら、スキルはもうちょっと、こんな感じにしておくとして…。まあつまり、何が言いたいかと言いますと、そういう名目の元、これで神様候補になっちゃうわけですし、その、私のお友達とか、友人とか、親友的な、そういう風に、名乗ったりもできる特典もつけちゃったり!お墨付きにもできるのですよー!ヨーホー!よーほほー!」
そうなるかもしれない、と言うだけで舞い上がってしまったらしい。
いや、女神様。あんたも冷静になろう。
「友達、ね。」
「あっ………い、嫌、です?」
「んー、別に嫌じゃあないけどさ。」
なので、そんな顔しないで欲しい。
妹みたいで可愛いな、とはさっきからちょくちょく思っていたわけだし。
でも、ほら?自称、神の友達。信用度って、どれだけだろうって不安が拭いきれない。
あ…?そうだね。妹とか良いんじゃない?
「布教を確実にしたいってなら、もう少し近くできない?親戚、従姉妹、家族。姉妹とか、妹とかシスターとか。説得力が抜群に上がるし」
「姉妹…おねえちゃん。」
「!?おお、妹よ!!」
「え、いや、私の方がどう考えたって年上なのですよ!?」
ぽつり、と呟くように聞こえた「おねえちゃん」に、反射的に抱きついてしまった。
私を呼んでくれたわけではなく、「姉妹?え、私、おねえちゃんになるとか超素敵!」って呟きだったらしい。
で、なんだって?年上?そりゃそうか。神様だもの。
しょんぼり。げんなり
「そっか…でも、素敵で素敵な神様なら、そんな細かい事は気にならないよね」
「えへへ、わ、私はどっちでも良いのですよ!」
「おお、妹よ!!」
「あ、あ、愛おねぇちゃんー!」
この世界で一番偉い、神様。その上。
今日から私、魔族兼、神様の姉になりました。
と言う事で、スキルの内容とスキル名は一つ作り直しになった。