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邪眼は正しく使って下さい!  作者: たかはし?
邪眼勇者の冒険者譚編
146/162

第37眼 騎士の理解を促して下さい! の2つ目

※第37眼のサブタイトルを修正しました。


(2020/04/17)

「………はあ!?貴女は、この期に及んで!まだはぐらかすつもりですか!」

「ええー?ちゃんと言ったじゃーん。」

「『今は』とはどういう意味ですか!答えて下さい!!」

「嫌でーす。もう答えたもーん、これ以上は何聞かれてもなんにも出ません言いませーん。」

「アイ様!!」



 だーいせーいこーう!!!!


 この回答をするにあたって大切な事が二つ!

 一つ目は、神様かどうかと言う質問に対して『否定した』と言う印象でとどまらせず、『まだ何か言っていない事がある』と言うイメージを彼女に植え付ける事。

 この場合ムースが抱く違和感は、かなり強く残ってくれる方が望ましい。ここをさらっと流されたりすると、いずれ忘れ去られて、私が今回答を濁した意味が失われてしまうだろう。しっかりとムースが覚えてくれれば、その強烈な違和感と共に報告先のハクやキーロちゃんにも伝わり、それぞれの記憶にも残る。この先、もしも私が神様になるような時が来たら、「ああ、言ってなかったのはこれだったんだな」と思い出して貰える位には、たっぷり疑問に思って記憶に残しておいて貰う必要がある。


 二つ目は、実は自分が魔族であるという重大な事実を隠しているのに、一見すれば「これからどうなるかは未定」と言ったように聞こえる事。未来的な情報を黙秘した代わりに『現段階についての情報は全て包み隠さず言ったように見える』という錯覚の効果を生み出す事だ。

 本当は求められている最低限の回答すらしていないにも関わらず、ムースが一番聞きたかった部分だけはしっかり回答したように見せて、これ以上問い詰める意味が薄いように見せる事ができるんじゃないか、と思っている。


 勿論、わざわざ思わせぶりに言ったのだから、その直後こそ色々質問される事は予想の範疇。しかし、既に重要な部分の答えは貰って居る(と錯覚する)ムースとその背後の方々は、後は私が強く拒み続けてさえしまえば勝手に諦めてくれるだろう。


 ムースの立場になって考えてみた。

 聞きたい事は聞けたとなれば、もう質問をする大義名分が無くなる。

 大義が無いのにそれ以上相手が答えたがらない質問を続ける…と言うのは、良心の呵責とか罪悪感に訴える物があるだろう。

  結果、プライベートな質問を興味本位でするみたいな構図になって、質問し辛い気分になるはず!と言う作戦なのだ!

 決して、ただそれっぽい事言っておけばカッコイイかなとか、適当に流せば諦めてくれるんじゃとか、そんなてきとーな回答ではない。


 加えて言えば、任務は完了したのに余計な事をして私の機嫌を損ねたとなれば、それはもうハクあたりから大目玉を喰らう事間違い無しだ。

 なのでこれは、全て計算の上でのゆるふわ回答なのだ。…我ながら、冴えたやり方だぜ!


 尚、ムースは既に現在進行形で詰問してはいるものの、私はやりきった気分に浸っていて全く聞いていない。全くだ。何度か「聞いてますか!?」と言われた時だけ聞いていると答えてはいるが、それどころではない。なにせ私は今、人生で一番の達成感で満ち溢れているんだから。内定貰った時より清々しい気分だ。



「って言うかそんだけ喋ってて疲れない?座れば?」

「やっぱり聞いていないではないですか!」

「だって答える気ないんだもん。あ、じゃあもしくはもう向かう?アオモリ。いつまで立ち話してんのって話だし。それにしても誰も人通んねぇな…」

「少しは聞いて下さい…」

「ぶっちゃけさ、この話アオモリでしても良くね?」

「それは…人に聞かれたくない事もあるでしょう。そこは、お互いにと言うか…」

「ああー…じゃあ話はここでおしまいにして」

「そうなるからここで話しているんですよ!」

「うぇー。もうしつこいよほんと…早くアオモリ行きたーい。」

「私も行きたいです…」



 私の言葉に一喜一憂一怒一泣する姿を見て感心する。よくこれだけ感情を発露していて体力が尽きないな。私ならとっくの昔に諦めて会話を放り出しているだろう。

 だがついに観念したらしく、私が出した椅子に脱力気味に座った。



「ああ、そう言えば。最初もう一つなんか言ってなかったっけ。」

「最初っていつですか…」

「私に、『神様ですかー!?』って聞く前。」

「ああ、あれは………いや、忘れて下さい。あれはもう良いです。」

「気になるんだけど。言えよ。」

「いや、今となっては意味がないと言うか、まあその…それだけの力があるのに、何故キーロ様を王にされなかったのだろうと。貴女であればできたはずなのに…」

「ああ、んな事言ってたね。割と意味わかんないけど。そもそも王様をアッカーにしたのはお前らじゃん。どうやって決めたのかも知らないけどさ。それはダメなの?」

「駄目と言うわけでは…」

「って言うか、どうしてじゃあキーロちゃんじゃなくてアッカーになったのさ。」

「…アイ様は、スキルの有無、それどころかその強弱や特性まで遺伝すると言う事はご存知ですか?」

「あー…あれ?なんか聞いた気がする。」



 確かに、元王様のスキルとその子供達のスキルは、名前や効果に共通点が多かったように思う。



「では、母親の力の方がより濃く受け継がれやすいと言うのも?」

「そっちは初めて聞いたかも?」

「そうですか…男親より女親。確実ではないですが、それでも傾向としては確かにあります。」

「へぇ…」

「どの国でも強力なスキルは権力と密接に繋がっていると聞きますが、我が国では王位継承においても例外ではありません。なので基本的には強力なスキルを持って居る者で、更に女性である方が王を継ぐに相応しいと言われています。スキル、性別。その2点から…フーカ様を次期王とみる者も少なくはありませんでした。」

「はあ!?フーカって、…ミドリーが!?王様最有力候補?」



 ミドリーが王!?

 …何言ってんだコイツ、冗談か?

 いや、しかし。語るムースの顔は真剣そのものだ。



「え…何、お前ら。スキルで王様決めるって事?」

「それが全てではありませんが、大きな一要素になっているそうです。その為……スキルのランクが低いキーロ様はもともと不利な争いでした。対して、同じ女性であり、尚且つスキルのランクが高かったフーカ様が有力視されるのは、ある意味では当然の流れかとは思います。現状の性格に難はあれど未だ子供。成長につれて落ち着きを持って下されば…と言う所ですかね。もしもその通りになって、この国も平穏に時が経っていれば、やはり一番可能性が高かったのはフーカ様、次いでミズー様でしょう。納得は出来兼ねますが。」

「そういう意見が多数派だった…って事?」

「勿論、実際に調べて回ったわけではないので正確にはわかりません。ただ、そう言う噂は良く聞いていた、と言う話です。私は完全に姫様の側なので、直接聞くのは稀でしたし。」

「はぁ…」



 色々意味不明だ。意味不明過ぎる。

 そもそも、生まれ持って備わるスキルが王位継承を大きく左右するって考えも私の理解できる範疇ではない。んならもう、スキルの強弱で王位継承の順位でもつけてしまえば良いだろうに。

 まあその辺の理解不能な部分は、今私が考えてどうこうなる問題ではないだろう…

 いずれ機会があれば、本人であるキーロちゃんに詳しく聞いてみようかな。



「で、結局じゃあなんでミドリーじゃなくてアッカーになったのよ。」

「できるはずないでしょう!?」

「え、なんで。幼すぎるとか?」

「…アイ様にあれだけ敵視されていたフーカ様は、真っ先に候補から除外されますよ。と言うより、姫様から聞いた話では、あの場に居なかった事もあり、フーカ様の名前は一切出なかったそうです。」

「あー…」

「まあ、アイ様が仰った通り年齢もあるでしょう。それに、他の部分を見ても過不足が無かったからではないでしょうか。スキルもフーカ様には劣りはしますが申し分なく、アイ様との関係にも問題がない。何より実務を既に経験された事もあると言うのも大きいでしょう。私は、その場におりませんでした…」

「ふーん。」



 まあ、結局理解不能な部分は殆どそのままだけど、ミドリーが王様候補から外れた理由はわかった。

 まだ数日しか経ってないけど、そう言えば王様変わったのって私がミドリーの腕チョッキンした直後だったもんね。そりゃ、私のご機嫌取りを考えたらミドリーは無いわ。



「で、私に文句言うのはあれか?お前もニールみたいに、ヤタになりたかったのにーって事?」



 王様になった人の相談役がヤタになれるみたいな話、どこで聞いたかと思っていたが、思い出した。ヒゲおじさんニールがしていた気がする。

 王様を決める時はアイテムボックスの中に居た彼だが、出て来てアッカーが王様になったと聞いて錯乱していた。あの時に聞いたんだっけかな?まあ彼は、その後すぐに正気を取り戻していたが。



「そんな事ではありません!私の事はどうでも良いんです!」

「どうでも良いって…じゃあどういう事よ。」

「あの方が…姫様が報われないではないですか。」

「報われない?…何が?」

「ミズー様になるのなら、キーロ様でも良かったはずなんです!スキルが弱い、ただそれだけの事で…姫であったにも関わらず、年齢も問題にならないはずなのに!ずっと、ずっと努力されていたんです…!私は近くで見て来たから、それを…ずっと耐えて、王に必要な事を覚えようと必死に…キーロ様にとって、ハズレ扱いされていたあの方にとって、最大の好機だった…そのはずなんです…」

「報われない、ねぇ。でもさっきも言ったけど、そう言う諸々も含めて、王様に相応しいのはアッカーだって、決めたのは君らでしょうに。」

「アイ様も、王になるのはキーロ様が望ましいと言っていたではないですか!」



 覚えていないけど、言ったらしい。



「だとしてもねー…」

「…アイ様は、できたのに、何故しなかったのですか。」

「いや、だって理由無いし。」

「理由なら!我が国が今の体制になるよりも、キーロ様を主軸にする方が余程アイ様に協力的になったはずです!」

「そこまで魅力を感じないかなぁ。」

「魅力!?…魅力ですか!?」



 わけがわからないと言う顔をして、黙ってしまった。

 …そんなに変か?



「そもそも私は、君らの国の王様が代わろうが代わるまいが、どーでも良かったんだよ。」

「そんなはずは!あんな大掛かりな事をしてまで、王の交代を要求されていたではありませんか!」

「ん?って言うか、お前あの時広間に居たよね?聞いてなかった?」

「え、広間…?あ、居りましたよ。大謁見の…珠玉の間の事ですね。」

「それそれ。あそこで言わなかった?私からすればさ、私は今の王様嫌いだから、『仲良くなりたいんだったら誠意を見せて王様変えてみろや』って言いたかっただけなのよ。」

「…そう、ですね。ですがその時、合わせて新しい王は姫様にと、そう言うだけの事です。そしてアイ様が言えば、その要求はかなっていたはずです…それは、今からでも。」



 うーん…。

 確かに、どちらかと聞かれればキーロちゃんの方が良かった。それは認めよう。でもそれって私のわがままだし、別にアッカーでも問題なかったしなぁ。

 しかし成程。ついでに要求通せるんなら通せば良かったじゃんって言うのは、一理ある。ハクの事だ、多分本当にそう要求したら通してくれただろう。

 何故、私は、そうしなかったのか?

 うーん…………………



「……ああ。多分キーロちゃんが王様になったら忙しくなっちゃうじゃん?そしたらミドリーと仲直りしても一緒に遊ぶ時間なくて可哀想だから…じゃないかな?」

「…………は?それ、だけ…?」

「それ以上に大事な事とか無くね?大好きな妹と遊ぶ時間と、王様と。なら普通妹選ぶよね?キーロちゃんの意思も聞かずに、勝手に王様にーなんて言ったら、私。絶対恨まれると思うんだけど。」

「……」



 多分あの温厚なキーロちゃんだって奇声を発する大激怒なはずだ。

 ムースも、納得いった…らしい顔を…してる?

 …静かになったと思ったら、なんか魂が抜けたみたいな顔をしてる。そろそろ話し疲れて来たんだろうか。

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