第37眼 騎士の理解を促して下さい! の1つ目
※第37眼のサブタイトルを修正しました。
(2020/04/17)
「居るよ。神様は居る。私が保証する。」
「言ってる事が、さっきと…」
「変わってないよ。主観の問題だ。私は、居る事を知ってる。姿を見たし、声も聞いた。だから言える、神は居ると。」
それに。
私が地球からこの異世界へと連れて来られた事と、その道中の出来事。世界遷移と、肉体改変の、奇跡。そしてこの世界に残るミリアンガーの名前の神様伝承。
これが壮大な夢オチの可能性を除けば、私にとって状況証拠も物的証拠も充分。
私にとっては、私がここに居る事こそが、彼女が神である証左でもあった。
「でも違う。お前は自分で、姿を見る事も声を聞く事も無く、それなのに神様が居ると確信してる。なんでだ?」
「意味が解りません…私が見て居なくとも、貴女が、実際に見ているなら…」
「私が嘘をついてるかもしれないのに?」
「…いえ、他の勇者様も…!」
「全員、口裏合わせてるだけかも知れないでしょ。」
「だとしても!巫女様や、聖女様の事は…!?」
「胡散臭いわぁ。神様の名を騙る詐欺集団の可能性とか考えた事ない?」
「そんな無礼な…!それに、しっかり聖書や、聖典にも…!」
「書いた人間が狂信的だったり、勘違いしていたーなんてケースも考えられるよね。ね?」
「…それでも、信じている人が…大勢います。居るんです…」
「お前はさぁ…世界中の人間が『居る』って言えば、お前は根拠も証拠もなくても居るって言えるのか?」
「……」
「バカみたいな話だけどさ。結局、信じたい事を、より信じられる方を信じるってだけだろ。って言っても、まだ納得できなさそうだな。」
「……」
「ならここでクイズ!」
「は?」
よっし。おバカさんは頭の回りが遅いから、超わかりやす-い例え話を出してあげよう。
雰囲気作りの為に机とイスを2つずつ、アイテムボックスから出す。
遥か遠く、地平線まで続くような道の真ん中に、あまりにも場違いな上質素なクイズ会場が完成した。
これは決して、長話に疲れた私が座りたくなったから出したわけではない。
現に私、立ってるし。
「ある日ミドリーが突然言いました。『神様のお告げを聞いたの!私が王様になるべきだって!さあ脳無し共、さっさとひれ伏して私を王にしなさい!』…さて、君はどう思うね。」
「何かを企てているとしか思えません。…そうでなければ、頭を病んだのではないですか。」
「良い線行ってると思う!で、だ。同じ事を、キーロちゃんが言ったら?」
「え…」
「『ムース、聞いてください。私は今日、神様からのお告げをお聞きしました。私が王にならなければ近い未来、国が、人類が滅んでしまうのだと…とても信じられない話だと思いますが、それでも、力を貸してくれますか?』…ほら、悩んだね?」
「…」
「鵜呑みにはしなくてもさ…『多分寝ぼけてるんだ、何かの間違いだ』、と口では否定するかもしれないけど………考えるんじゃないの?もしかしたら、もしかしたら本当に本当の事を言っているかもしれないって。」
「…確かに、その通りです。」
「誰だって一人や二人は居るんじゃない。あの人の事は信じられるーって思う相手。」
私は思い当たる人物、地球には居なかったけど。
一応、地球での知り合いを思い浮かべようとしたけれど。もはや顔も殆ど覚えてない奴らばかりだ。最近顔を見た相手なんて、仕事関係の人間だけだったしなぁ。大して興味も無かったので、忘れたと言うより元々覚えて居なかった可能性もある。
あ。……そう言えば私、会社は無断欠勤扱いになってるんだろうか。今となってはどうでも良いけど。
「言った事全部とまではいかずとも、他の人よりはまだ信じられる。他の人が言ったなら疑うけど、この人が言うならもしかしたら…って。ましてや社会的に地位のある人間、例えば、巫女だの聖女だのと崇められてる雲の上の人が言えばあら不思議、信じる人も多いでしょうよ。そうじゃない奴でも、もっと近しい家族とか、恩師とか?そう言う人間同士の間でバイアスかけた伝言ゲームを続けていけば、ありえない事があり得る事に、いつの間にやら変わってる。今は存在しない神の生誕祭が、1000年未来では誰もが当たり前みたいな顔して祝ってたって不思議じゃあない。」
「そんな事は、…あり得ない!人間は、そこまで愚かではありません!」
「じゃあお前、さっき聞いた、この世界に伝わってるミリアンちゃんの話は本当にあったと思うか?語り継がれるその話は絶対正しいと?いつの間にか内容がねじ曲がっている可能性は絶対にないと?もしくは本当は語り継がれるべきだった内容が過去の権力者に都合が悪いせいで消されたり改変されたりしている可能性は確実にないと言えるのか!?」
「あ、あり得ません、有るはずが…」
「ミリアンの名前すら満足に伝わってないこの、ゴミみたいな情報保存技術の世界で。」
「!?」
「断言しましたか。あり得ないとまで言いますか、君は。」
「…」
「…なら、命、かけれるか?」
小学生男児がいかにも言いそうな、チープな煽りだと我ながら思う。
だが、相手からも同じように思われないよう、どこまでも真面目を装って問いかける。
答えを間違ったなら、本当に殺しかねない。そう感じさせるように、冷静に。
「い、命…?」
「…足りないか?ああなら、大好きなお姫様、キーロちゃんの命にしよう。」
「何を言っているのですか!?あの方は関係ないでしょう!?」
「黙れよ。自信がなかったら、答えなくても良いんだ。なんならこの問題、正解したらお前の望みを何でも一つ叶えてやろう。ほら、答えたくなったか?でもお前が間違ったらキーロを殺す。」
こいつには一番効果的な言葉だろう。勿論、実際にするつもりはない。ただの脅しのつもりだけどね。
「さあ、語り継がれている伝承に間違いはない。〇か×か、どっち?」
「…わ、…私…」
「なら質問を変えようか?神様は居る、居ない。どっち?」
「……」
「ほーら。自分でもわかってるから、答えないんだろう。多分間違いないだろう、きっとそうだと思っていても、万が一にも間違えられないとなったら…答えられないのは、確信できる根拠がないからだ。絶対なんて、言い切れないからだ。」
「…私は…」
「んー…」
…流石に、少しへこませすぎたかもしれない。
これから一緒に旅をしよう、と言う相手とこの空気。正直、辛い。
そろそろ話をまとめつつ、ムースに機嫌を治して頂きたい所だ。
イスに腰かけると、少しだけ心が落ち着いた。。
「まあ、ごめん。許せよ。あんまり頑なに言われたんで私も少しムキになった。…今のは答えないのが正解だ、賢い選択だ。何もそこまでリスクを背負う必要は無い。だからさっきので正解、正しいよ。お前があり得ないだの確実だの言った事は全部、実は有りえなくも無いし確実でもない…私が言いたかったのはつまり、そういう事。今言ったリスクって奴の正体を、お前が本当は目をそらしてるだけで自覚してるんだろって事なんだよ。…本当はあり得るし、不確実なんだと自覚してる。間違っている可能性があるとわかってるから、万に一つも間違えられない状況で、キーロちゃんの命がかかると言われたら…言葉が詰まるんだ。そうだろ?ずっとその違和感から目をそらして来たのを、今ようやく認めて、ちゃんと考えたんだ。」
「…なら、どうしろと言うのですか、貴女は!」
「いや……話聞いてた?人の言葉を鵜呑みにするなって事だよ、要約すると。」
「人を、信じるなと?全ての言葉を疑えと言うのですか?そんなの…」
「違う。他人より、自分を、自分の頭を信じろって。考えろって言ってんの。相手の言葉を聞く時は飲み込む前に、自分の脳で良く噛んでから、飲み込むか吐き出すか決めろ。ったく…だから最初に言っただろ。もっと頭使えって。」
「頭…」
「そだよ。頭を使わないからそうなる。」
「…考える?」
「そうだよ。」
「神様が、居るかも?…自分で、考える?」
「そうさ。疑うんじゃあなくて、考える。自分の中で納得行くまで、どんだけでも考えれば良いさ。な?神様がどんな奇跡を起こせるかとかより、もっとずっと最初の方の話だろーが。」
「…」
「まあどうしても答えが出ないなら、しばらく私の近くに居れば良い。運が良ければ、神様の一人や二人会えたりしてな?」
「はい…?」
「まあ本当、運が良ければの話だけどさ。」
さて。
ここまでは時間稼ぎの延長線上。
ついでに、この世界にとって神様とか宗教がどういう位置にあるのかも確認したかったので、一石二鳥と言うわけだ。
いずれこの世界の、ミリアンの名を世界に広めている存在と…もしかしたら、巫女さんとやらも含めた宗教家たちと、もっと踏み込んだ話をする必要が出てくるだろう。
その下準備と言うか、事前調査としては満足いく結果だと感じている。
そして、この痴呆淑女を適当に言いくるめながら、時間はたっぷり貰ったわけです。
その間思考はフル回転してたよ!考えを1から組み立て直した。
「さて、私の話をちゃんと聞いて頭を働かせようと思ったそこのムース君、君にご褒美をあげましょう。」
「ごほうび?」
「…ってかまあ、そもそもそう言う約束だし?私が神様か…君はそう聞いたよね。」
私にとって大事なのは?ミリアンちゃんのクエストを完遂する事。これは大前提。
次にカー・ラ・アスノート。この国の力に頼るのは唯一の手段ではない。けれど、都合の良いケースではあると思う。私に友好的であろうとするなら、そのまま利用するのが得策だろう。信用されておく方が勿論良い。
将来嘘が露見するリスクを恐れて、今正体を打ち明けて信用を落とす?却下。信用を失うのは惜しい。真実は話せない。
今問題をやり過ごす為に嘘をつき、将来嘘が露見するリスクを背負う?却下。無用なリスクはごめん被る。嘘は避けたい。
現在未来のリスク回避として黙秘。代償として私の正体に疑念を残す?却下。正体を詮索される事を避けたい。回答は必須。
真実は話せない、嘘も避けたい、しかし黙秘も悪手。
逆に言えば、嘘は避け、真実だけを話すと言う事。
難しい?いいや、簡単だ。
「私は、神様じゃない…」
そう答えるだけでは不十分。
嘘を避ける。
魔族という現在の正体については勿論の事、神様である事をただ否定しただけではだめだ。
これから先、神様になるかもしれない私。今は神様ではない。が、私が神になった後で、『神様になれる事実』を、『神様になれる事を知っていた事実』を隠していた事を、人によっては嘘だと思うかもしれない。
なら、私のすべき回答は?
「少なくとも今は、ね。」
全てを否定しないで許容するような、すごくゆるふわで意味深な回答!
これが、唯一の、正解だあ!