第36眼 質疑の真意を読んで下さい。 の2つ目
「や……あ………や、はり…!」
魔族だと言う事が露見するのは面倒。
…けれどそもそも、神です人間ですと出鱈目八百並べたてて、後からその嘘がばれるのが一番面倒じゃん?
「って言ったら、信じる?」
「…………………は?」
この問題はセステレスに来た時点で、ある程度予想で来ていた事だ。ただ、カー・ラ・アスノートに来た当日からのバタバタで、すっかり考えるのを後回しにしていた。
答えを間違う事はできないが、このおまぬけさん一人相手なら多少無茶苦茶やっても問題ないだろう。多分。
なので!話をはぐらかしながらどう回答しようか考えよう、レッツ時間稼ぎ!私は考える、考えるぞー!
「ふ…あ、あなたは!ふざけているのですか!?」
「ふざけてないよ。で、どう?私が神様だって言ったら。信じる?信じない?」
「ふざけているではないですか!質問したのは私です!!」
「答えるよ、ちゃんと答える。でも、君の質問に答える為には必要な問答だ。」
「どこがですか!?」
「…あのさぁ?そもそも、先に質問したのは私なんだよ?それを無視して自分にだけ答えろってのぁ、ちょーっと都合が良すぎると思うんだけどね。」
「あ、いや…しかし…!」
「私が神様か、だっけ?その質問、私は黙秘しても良いんだけど?そこをさ、無視しても良い質問だけどさ、それはもう溢れ出る親切心で、寛大すぎる心でもって、正しく、わかりやすく、順序良く話してやらん事も無いって言ってるんだ。ほら、順を追ってこうぜ?」
「…わかりました。」
「よし。で、どうよ?私が神様だって今言えば、君は信じるのかい?」
「………信じるか信じないか、と、言われましても……そう、なのでは…ないのですか……?」
「…それはつまり、私が神だと信じてくれたって事だね?なら解決、この話はここでおしまいです。」
「は!?いいえ、違います!そういう事ではなくて、あの……」
…こいつ、想像以上にアホかもしれない。
いや、もしかして私がおかしいのか?、神様が世界に密接に関わり信心深くなると、人の猜疑心は消えて無くなるようにできてるとか?
まあいいか。適当に話を切り上げても良いし、そうでなくても沢山時間は稼げそうだ。
「そう!まだ、完全に信じたわけではありません!」
「ほう?じゃあどうなれば良いわけ。」
「神だと言うなら、証拠を!その証拠を見せていただきたい!」
「証拠、ねぇ…」
本気で言っているのがわかるせいで、なおのこと頭が痛い。
何を見せれば神様の証拠になるんだよ!とツッコミを入れたい所だが…うん。正直、似たような物なら用意できない事もない。神様の証拠じゃあないけど、それに似たような物。
でもさ。なんかもう、イライラしてきた。何故にこんなアホな事で私が頭を使わにゃならんのか。
よし、細かい事は自分で考えさせよう!
「じゃあ、何を証拠に見せれば信じてくれるんだい?」
「え!?何、って…え、その………き、奇跡…?」
「奇跡。ほう。どんな?」
「え、あの………………」
「どんな奇跡?」
「ひ、人を、作る…とか?」
「人を作って見せれば神様なの?」
「いや、その…」
「一応言うけど、それだと世の中のお母さんはみんな神様になるわけですが?」
言ってて吐き気がする案だけれど。
「はぇ!?ち違う!!そういう事ではありません!!」
「だよなぁ?じゃあどういう事?」
「何もない所から、そう、一瞬で人を出すと言うか」
「うぉっ!?な!?」
「っ!?」
ヒゲおじさん、もとい、ニール。
椅子に座ってお茶を飲んで寛いでいる所だった。申し訳ない。
「なん」
ティータイムを邪魔されて怒ったらしく、うるさくなりそうだったので、即座にアイテムボックスの中に戻してあげた。
…次出す時までに、怒りが静まっていてくれると良いな。
「人、一瞬で、出した。これでどう?」
「そういう事ではなく!」
「ですよねー。…つまり、一から瞬時に人間を作って見せろって話だよね。」
「そ、そう言う事です。わかっているのなら、最初から…」
「…ふぅん。」
「………アイ様?どうされたのですか。」
「どうしたって…なに?やらないのが不思議?」
「いや、まあ…その、先程までのように、もしかしたら…とは。」
「できないよ。」
「!?」
できるわけがない。
………いや、嘘だ。本当は、絶対にできないというわけでもない。
これもやっぱり、似たような事ならば、もしかしたら、できるかもしれない。できてしまうかもしれない。
もちろん、そんな恐ろしい事はしたくないし、試してみたくもないけれど。
「と言う事は…」
「と言う事は?…どーしたよ。思った事、言ってみ?」
「いや……なら、何か別の」
「なんでそうなるよ。おかしいだろ。」
「いえ、おかしくは…」
彼女は最初、私が想像した以上に、頭を使っていなかったらしい。
だが、使っていなかっただけで、使う頭ある。
さて、と。
神様に対しての認識がこの程度なら、問題ないだろう。
後は、私のスタンスの問題だ。と言う事で、時間稼ぎ終わり。
「代わりに言ってやろうか?『人を作る事すらできないで何が神だ、神騙りの愚かな詐欺師め!恥をしれ!』…ってところか?」
「そのような事は!」
「でも私は、できないよ?人間なんて、作れない。どこかの誰かさん曰く、神様は人間、作れるんじゃないの?」
「それは…!いや、それは…」
「あーもう、めんどくせぇ!ミリアンちゃんは?あの子はこの世界で、どういう神様だって言われてるんだよ。」
「ミリアン、様は…人の因果を司る、神々の長です。」
「それじゃ足りない!知ってる事全部だよ。」
「全部…なら、長くなりますが。セステレス創世の折、人に知恵、動物に血、神々に体と名を分け与えたと言われています。」
ちょっと待て。
体と、血と…知恵?知恵はよーわからんが、なんかそれ存在全部使ってね?それだと多分ミリアンちゃん死んでますけど?
「わけた体がそれぞれ、六つの陸。元となる一番大きな体が海と空になり、結果その身全てがセステレスとなったと。そのため、声を聞く事はできてもその御姿は決して見る事ができません。例外として、異界から来る勇者様には、この世界に招かれる一時だけ御姿を現されると言われております。」
ちょっと待てちょっと待て。
体は神々にわけたんじゃないの?なんで陸とか海とか空だとかになってんの?既に矛盾してねぇ?
「あとは…その勇者様はみな口を揃えて、若く美しい女性の姿で、長い御髪は深い青の色をされていたと言ったとか。人と人、人と物の縁を結ぶ存在と言う事もあり、神々の中でも最も人を大切にされていて、人に近い姿をしているのもそのためだと。他には………」
ツッコミどころ満載だけど……地球の神話とかも、似たり寄ったりな感じだっけか?
いや、と言うか。違うよ、大切なのはそこじゃないんだよ。
「あのさ。そもそも、神様としては、何ができるのかってところが重要なんだけど。」
「何ができるか、ですか………先程言った通り、セステレスそのものをお作りになられましたが、それ以外だと……」
「おいおい、大事な事忘れてるだろ…」
「大事な…?」
「勇者召喚を人間に教えたのは誰だよ。」
「あ、そうです!ミリアンガー様は、勇者や聖女様といった、世界の脅威から人類を守る使者を遣わして下さる存在です!」
勇者召喚は確かその昔、ミリアンちゃんが人間に伝えたと言っていたのは記憶にって、え?いやいやいや、何?聖女て何!?
初耳な単語なんですけど!?そんなのも居るの!?
「あの、聖女って…?」
「あ、ご存知ではないですか…。遥か昔、まだ魔王や勇者様達の争いもなかった頃の話だと言われています。ミリアンあ、……ミリアン様の言葉を聞き、それを人に広く伝えた方だと言われております。天災を予言しては、その対策を…魔王の誕生と、その対策として勇者召喚の儀式を人類に伝え広めたのも聖女様らしいと言われております。」
「…それだけ前って事は、勇者と同じで、もうとっくの昔に亡くなってるって事か。」
「そうなります。ただ、その力は今も代々の巫女様に脈々と受け継がれており」
「ちょっと待てやおい!」
「は、はい!?」
「あ、いやごめん。いや…え?……受け継がれてるって、なに?巫女は、神様の声を聞けるって事?」
「え?ええ…世界書を通じて声を聞く、と…そう言われていますが?」
なんだ巫女って。なんだ、世界書って。おい。ミリアンちゃん。
ミリアンちゃんからの宣託を受けられる人間がこの世界に居るの?マジで?…それがマジなら、私が来た意味って…
神様のお告げをしようとすると、人間がはじけちゃうって言ってなかったっけ。世界書ならセーフ、とか?声じゃなくて筆談なら大丈夫って事?え、何それ質の悪い冗談だよね?………本気?
…なんじゃそりゃああああああ!!!!!
「アイ様、どうかされましたか…?」
「いや、良い…続けて。」
「…?はい。それで……あー……どこまで話しましたっけ。」
痴呆にはまだはやいぞムース。
「巫女とか聖女の話は、まあもう良いよ。ミリアンちゃんは他には何ができるの。」
「ああ、えと…縁結び?」
「急に俗っぽい!?」
「いえ、そう言う者もいると言うだけで、実際はどうか…因果、人と人との繋がりを作り、繁栄を促す存在と言われております。それと、セステレスでは結婚や婚約は必ず神前で行わなければならないという決まりがありまして。恐らく、そこから転じたイメージと言うか迷信と言うか、そのような物かと。それで…えっと、その他はですね…………」
結婚は神様に関連する場所でって事ね。そこはなんとなくわかるね。地球にもそういう文化は無きにしもあらず、世界を跨いでもその辺の感覚は変わらないらしい。…いや、日本はそこまで厳格じゃあない気もするけどね。そもそも最近じゃあ、結婚式を挙げない人も増えてるらしいって聞くし。
話題が大分逸れて来てるし、なんだか個人の推測が混じり始めてる。そろそろ止めようか、と思った辺りで話を切ってくれた。人の心が読める。
…もしくは、それほど私の表情が露骨だったとも言えるかもしれない。