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邪眼は正しく使って下さい!  作者: たかはし?
邪眼勇者の冒険者譚編
142/162

第36眼 質疑の真意を読んで下さい。 の1つ目



 ……………は?



 「神なのではないのですか」?

 神?カミ?

 カミナノデハ?



 誰が?

 私が?

 なんで?どうして?どういう理屈で?

 コイツは、ナニを、いっている?



 

 地球に居た頃。

 もしあの頃にこんな質問をしてくる人間が居れば、それが知人だろうと見ず知らずの人間だろうと思考停止で「頭は大丈夫ですか?」と聞きなおす所だ。

 …だが、今は違う。大きく事情が変わってくる。


 神なのか、という質問に対する答え。

 残念無念的外れー!……とは言えない。

 YES・NOで答えるならその質問の答えは、「殆どNO」で、そして「少しだけYES」だ。

 そう。質問が的外れではない、と言う事。

 これが普通の質問だったなら、別に何の問題も無い。むしろ手がかからない優秀な生徒だ。少しだけヒントを出せば勝手に軌道修正して、正しい答えにたどり着いてくれるだろう。

 だが。だが、今回は違う。

 この質問においては違う。

 普通の人間が普通の人間にする質問としては、不適切をあまりに通り越してもはや異常以外の何物でもない。


 セステレスの神、ミリアン曰く、人間とはそも神になる為に進化を求められる生き物であり、その中でも私は神になる事ができる条件を満たした稀有な存在らしい。だがそんなのは神様視点での話であって。私達人間からすれば、理解の及ばない話だ。というかそもそも、「あ、この人もしかして神かも」とか思いつく事さえない。突飛すぎる発想だろう。そのはずだ。

 この、常軌を逸したはずの質問が、今この状況においては的外れな質問ではないと言う事。

 それこそが、異常なのだ。

 結局の所、色々考えた結果はっきり言って「頭は大丈夫ですか?」だ。

 普通ではない。普通ならば出ない、そんな質問が出た。それはどういう事だ?


 まさか。

 知っている?

 こいつは、知ってるのか?

 神の間で、ミリアンと話した、私とあの子しか知らないはずの、あの会話を。

 見た?聞いた?どこで?誰から?どうやって?どういう理由で?


 敵か?

 テキ、ナノカ?

 こいつは。私の、敵側、なのか?


 目の前の人間が、敵?私の敵?味方のような顔をして、まさか。まさか、裏切り?

 裏切りは、可能か?可能。ただし想像はできない。彼女は実直で従順な騎士のイメージしかない。

 物理的に、可能か?可能。ただし方法は不明。また動機も不明。

 心理的に、可能か?難しい、が可能。主人の為ならば、キーロの為ならば恐らくコイツはできる。

 確信が持てない。目の前の人物が、良い人間だとは思っていた。ただ確証はない。味方だと、断言できない。

 情報が足りないから、判断できない。


 理解していると思っていた物が間違いで、間違っていて、信じていた物を信じられなくなる。見渡す限り明るく開けていた自分の周囲が、気が付けば全て闇に閉ざされ、自分を拒む何かに変わってしまったような、感覚。

 ああダメだ。グルグルと回り始めた。思考が、視界が。

 目の前に居るのは、誰だ。

 目の前に居るのは。

 観察しろ。


 名前、ステム・ムース・アンマン・ガレオン・アスノート。 

 肩書、キーロの元相談役。現私付きの騎士?みたいな物。

 ステータス、中の下?まあそこそこ優秀。万が一にも負ける事は無いだろう。

 スキル、二者択一の極解。その文字数ほど脅威は感じない効果。


 観察しろ観察しろ。


 光が流れ落ちる程美しい、発光色の白にも似た銀色の長髪。

 私より積み重ねた年齢は確かに見て取れるのに、それでもまだ若々しく凛々しい顔立ち。

 薄い紅だけが良く映える白みのある顔の後ろでは、高い位置で纏めた髪が風に少しだけ揺れる。

 スタイルの良さもさる事ながら、より目を引くのは女性の中では一回り抜けた長身。

 細身に見えるが華奢ではなく、剣を持っている姿に違和感がない程には筋肉がついた腕。

 微かに別の色を帯びているがそれでもなお鮮やかに赤い、奥行きのある大きな瞳。

 わずかに開いた口から見える、微かに震えながら食いしばったままの白い歯。

 美しい模様に縁取られているが、麗しさに反して急所の防護と機動性共に優れた機能的な軽装鎧。

 向かい合う。向かい合ったまま、いったいどれだけの時間がたっているだろう。

 手足が震えていた。息が激しい。汗が流れるのが見える。手はずっと力いっぱい握りこんでいる。

 目はずっと私とあったまま、瞳孔が開いているのか?その目は私を捉えて離さない。


 そこにある感情はなんだ。

 観察しろ観察しろ観察しろ観察しろ、観察しろ!!

 憤り、焦れ。後悔猜疑渇望挑戦観察警戒恐怖。


 …恐怖?誰に?

 目の前の、彼女の見ている先の、その目が捉えて離さないのは。私。

 私に?私に恐怖している…?

 恐怖の目で見られている、私は?


 …………………………アレ?

 私は、今。

 いま、どんな、顔をして、アイツを、見てる……?




 ……ああ、ダメだ。落ち着こう、落ち着こう。クールに行こうぜ砂原 愛。

 知らないはずの情報を口に出されたから即敵認定なんて、ちょっと気が早すぎる。そんなのは、どこぞのギルドのちっさい受付嬢だけで十分だ。

 可能性は無限ではなくとも、私の想像するよりはきっと多いはずだ。ちょっと落ち着いて考えよう。

 そもそも、ムースが口にしたからと言ってそれは彼女が持ち合わせている情報とは限らない。

 何かしらの方法で知ったのがキーロちゃん、もしくはもっと有力な所でハクあたりとか。

 そんな彼女らから「真実を確めて欲しい」と言われていたのなら、成程納得。ムースが敵ではなくても、こういう質問がでる事はあるだろう。これだけではないが、つまりはそういう事。

 まあ、ただ?安心するのも、警戒を解くのも、まだ早い。

 敵だと決めつけるのは早計だと言うだけだ。味方かもしれないと油断するのはもっと早すぎる。

 警戒はやめない、分析もやめない、でも思い込みは捨てて。考える。

 差し当たっては、その情報の出所から探ってみよう。



 「なんで」

 「!?」

 「…なんでそう思った。どうして、神だと?」

 「あ、あなたが言ったのではないですか!」

 「は?」



 何言ってんだこいつ。私がそんな事言うはずがない。



 「ミリアンガー様の、姉だと!」

 「…………」




 ………………………。


 ………………………………………………あ?


 ………………………………………………………………………ああー………。


 ああ、はい。

 はい、はい、はい。

 …………言いましたね、私!

 私。私が原因ですね、コレ!

 私が悪うございました!


 いやいやいや違うよ!?違うでしょ!まだ冷静じゃないのかな!?私悪い?悪くなくない!?

 彼女が言っているのはつまりこういう事だよね?


 ワタシ「私は(神様の姉なので)神です!」

 ムース「なるほどあなたは神ですか?」


 違うよ、間違いだらけだよ。

 まず第一に、妹と言う言葉のとらえ方から間違ってる。

 勘違いしている人が多いから辞書でも持ってきて調べて欲しい。




※------------------※


 妹


 意味:愛しく感じる、愛すべき存在。

 用例:「君はこのクラスで一番可愛いね。よし、今日から君は私の妹だ。」


※------------------※




 多分こんな感じで書かれているだろう。それをどう間違ってか、妹と言えば血がつながっているとかいないとか萌えるとか萌えないとか、本当に的外れな事ばかり論じられる。

 …まあ、そうは言っても私だって分別のある立派な大人だ。

 例えそれが正しくないとしても、世間一般の殆どの人は『血のつながりがある家族で、年下の女性』の事を指す言葉として認識していると言う事実も理解はしている。今回の事は常識の違いせいなのか受け手の問題なのかはわからないが、自動翻訳もそこまで完璧に私の意思を伝えてくれるわけではないと言う事の証明でもある。

 そう言う意味で言えば今回のすれ違いは、私が間違っていると言うわけではないが、私の配慮不足が原因の一端であるかもしれないと反省し、今後の課題であると考え改善を前向きに検討していく事もやぶさかではない。私が間違っていると言うわけではないが。


 ただ。

 神〈ミリアン〉が私の妹だ、と言った事が即ち、私は神だと言ったのと同義にとらえられたとしてだ。

 そう。百歩譲って例え発端が私だったとしても、だよ。

 やはりこの問答はどう考えてもおかしすぎる。

 私を神様だと信じたなら「お前神だろ?」なんて問いかけ出るわけない。

 でも全く信じてないなら「お前神だろ?」なんて問いかけやっぱり出るわけがない。


 …つまり完全じゃないけど殆ど信じちゃってるって事?

 いやいや、そんなことある!?私の一言でそこまで信じちゃう!?どちらにしてもヤバイ奴じゃん!

 私を神様だと信じちゃうような要素あった?そんなの無いよね?

 もしかして…。

 コイツ、何も考えてないだけなんじゃないの?



「ちょっと頭使おうか…」

「え?頭、ですか?」



 『仕事ができる立派な女性』を絵に描いたような人物、ムース・アンマン。

 「頭に何かあるのか。何が問題なのか理解できない。」と言う顔で自らの頭を触る女は、今もその凛々しくも思案気に見える顔で、間抜け且つ的外れな疑問に頭を悩ませている。

 好都合なので、今の内に回答の方針を考えよう。


 嘘を交えず事実だけ伝えるなら、やはりNOと一言言えば良いだろう。

 私は神様ではない。ただし、人間でもない。魔族だ。

 …今この世界で魔族がどういう認識なのかはわからないが、かつて人類を脅かしていた存在と言うのは事実だろう。なので勿論、必要ない限り自分の種族を明かすつもりはない。



「何も無いではないですか!はぐらかさないでいただきたい!」

「…ったく、めんどくさいなぁ…」

「あい様!」

「ああ、そうだよ。」

「?」



 だがここで私が、「神様ではない」と答えたらどうなる?

 それで納得万事解決!…となってくれれば良い。だが、必ずしもそう事が運ぶとは限らない。

 むしろ相手がちょっと頭の回ったり少しだけ心配性な人物なら、「神様ではないのですね。では人間なんですね?」と、そんな確認がぽろりと出てくる可能性は大いにある。

 まあそうなったら、人間だと嘘をついてしまえば良いだけの話なんだけど。それだけの話なんだ、とも思うけど。でもそれなら、最初から嘘ついて「神様だ」と言うのと何が違うのか。

 神様だと勘違いさせておく事と、人間だと嘘をつく事。いったいどれだけの違いがあると言うのだろうか。



「私は神だ。」

「!?」



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