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邪眼は正しく使って下さい!  作者: たかはし?
邪眼勇者の冒険者譚編
141/162

第●●眼 異譚 卑屈少女の神話目録『あなたはかみをしんじますか』

前書き!

「邪眼は正しく使って下さい!」をお読み下さっている皆様、ありがとうございますなのです。

作者の代弁者にしてセステレスの一番偉い神様、みんなの妹セステレス・ミリアン・ガーデゥーなのですよー。

………え、このくだり必要なのですか?

…いや、文句があるわけじゃ…いや、ほんと別にそこまで…

はぁ…まあならとりあえず手短に済ませるのですよ。


この話はアイおね…ゲッフンゲフンエフンフン………とある少女の独白であり、『物語を読み進める上では全く必要が無い話』なのですよー。

そして『宗教と神様のお話』と言いますか、『無神論者が意気揚々と神全否定する』みたいな内容なので、そう言うのが気分悪い人は見ない方が良いよ、というご忠告らしいのです。

それでも、……うわぁ…

えっと、「思ったよりも長くなっちゃって引っ込みがつかず、出そうかやめようか考えて出す事にはしたけど、見て気分の悪い人からの苦情、どころか殺害予告めいた脅迫文が沢山寄せられたら怖いから、いつでも直ぐに消せるように単話かつ独白とテイで、最悪トカゲのしっぽの如く切り捨てられる形態をとりました」

……という体裁も何もないへっぴり腰な作者からのコメントも預かっているのですよー。

ダメダメなのですよ。


……あれ?え、ちょっと待って神全否定?私の立場は?

…………え?







『あなたはかみをしんじますか』





 むかーしむかし…嘘です、わりと最近。

 ある所に、考える事を至上とし、考えない事を悪と決め付ける少女がおりましたとさ。

 「絶対なんてこの世に存在しない」。

 物語の主人公が、とりわけ少年漫画やそれに影響されたと思しきオタクカルチャーな主人公達がこぞって使うその言葉。

 彼女はこの表現が酷く嫌いだ。

 何故なら、そんなセリフを吐く輩は往々にしてすべからく頭の足りていないおバカしか居ないからだ。

 ではそんな君に、軽く質問しよう。内容は何でも良い。適当だ。

 「サランラップはこの世に絶対存在しますよね?」とかで良い。なんならサランラップの部分は今思いついただけなので、樹木とかに変換しても良いし。日本語の表現として不自然さを感じるなら、逆説否定文に変換してあげても良いさ。そう、本当に、適当。

 で。先のセリフを宣った彼ら彼女らにすぐさま言ってやるのだ。

 存在する。存在しないなんて事はない。絶対に。

 存在しないなんて事は、()()()()んだから。


 へりくつ?

 そう思ってくれてかまわない。なんせこれはヘリクツでもあり、ヘリクツとは大体の場合において、覆せない真理に似たモノでもある。

 本人が本当に言ったかどうかは別にして、「吾輩の辞書に不可能はない」で良く知られる彼には生涯を賭してタイムマシンを実現してくれと言いたい。帰ってくる返答は「不可能」に他ならない。『絶対』にできない。

 かくて彼女は感情と勢いに任せて適当なでまかせを厚顔無恥に叫ぶ残念系主人公達に辟易するのだ。

 汝、もう少々頭を使いたまへ。


 だがこんな彼女でも言葉は、とりわけ絶対という言葉は慎重に使う。

 絶対に無い。絶対にできない。絶対無理。本当にそうかい?

 言葉とは重い物で、そのほとんどの場合吐いた本人よりも吐かれた他人の方がその重さを重々に理解する。

 だから口にする時、軽い気持ちで『絶対』とか、言っちゃいけないと、考えるわけで。





 さて。

 さて。さて。さて。

 ここで一つ話をしよう。

 平和な世界で凡庸に生きた、とある元「ほぼ無神論者」の話だ。

 彼女はある時思考した。この世界に神は居るのか、と。


 存在するのかしないのかという自問自答を繰り返した時に、「いやそもそも居る居ないの前に、神様って存在はどういう定義で決めるわけ?」って言う疑問にぶちあたったのは言うまでもない。

 何せ彼女が住まう極東の島国は、真剣に話を聞いていても笑ってしまう程に神様を敬ったり敬わなかったりしているから。


 付喪神?八百万の神?おいおい、世界中の神様を信仰する人々にその話を真剣にできるかい?正直、馬鹿にされるか怒られるかの未来しか見えない。


 ああ。転生モノと呼ばれる小説・漫画・アニメが爆発的に増え始めてから、それまでにもまして多種多様で浅く広い神様像が増えたように思う。

 更に加えれば、輪廻転生を題目として掲げる大宗教を、生まれながら浴びる様にその身に受けて生きてきたはずの創作大国であるその国の人々が、何故か転生させる存在に「仏」だ「釈迦」だと名前を付けないのか不思議に思ったりもした。

 創作だ、嘘だとわかっているから尊い存在の名前を使えないのか。そもそも信じて居ないのか。転生は神様だ、というイメージの問題なのか。違うよ仏様って言うのは神様じゃなくってうんぬんかんぬんでちんぷんかんぷんだから転生は神様なんだ!というのか。地球に転生するんじゃないんだからそりゃあ地球とは違うだろうと言う想定からなのか。……あ、いや。でもそれだと、「異世界に日本的文化があるんなら日本的神様居てもいんじゃね?」ってならないもんかね。ね?見た事ないよね?

 神様転生が主流なれば、いずれお釈迦様転生作品が世に出張ってくる機会があるかもしれない。わくわく。

 という個人の感想もここに記しておこう。


 いや、まあ、別にこういう神様の扱い雑過ぎ問題は、その国に限った事でもないのだろう。他の国のケースだって、大概ひどいもんだ。

 実際、神様の逸話は枚挙にいとまがない。全てを知って居るわけではないが、逆に言えばそのどれもが信じるに値しない妄言レベルのおとぎ話である事もまた語るまでもないだろう。

 初っ端から創作物として神話を作っちゃう愛をクラフトしちゃうような人も居る位ですし。私じゃないですよ。


 神様を馬鹿にするな、神話はそんな物と一緒にするんじゃない!とそろそろ誰かから怒られそうなので、今憤慨しているであろう人には是非とも真剣に考えて欲しい。

 空を支えている神様よ、君は人類が宇宙に進出した今、いったいどこで何を支えているんだろう。

 鍛冶鎚を持った神は、技術がこれからも発達して金属加工にレーザーカッターしか用いられなくなる未来が万一来たらその時は、レーザー銃と溶接用遮光マスクでもこさえてくるんだろうか。


 現代に生きる科学の子らよ。そんな妄言を、妄言と知りつつ当たり前のように語る過去の阿呆共を腹抱えて笑ってやるがよい。

 だってほら、学者様たちに聞けば私たちの望む答えは、もういつでも提供される段階にあるのだから。

 「安心してください。そんな奴ら、存在しませんよ。」と。


 土中に埋まる物やその成分から、近代に至るまでの地球史を紐解いた歴史学者達。

 生物のDNAから進化系図を導き出した生物学者達にも言えるか。

 彼らは、アダムとイヴが人類の始祖だと真剣に神話を語るを人々を、いったいどれだけ前から冷めた目で見つめていただろうと思うと、なんともやるせなくならないかい?

 多分世論が移り変わりゆく中でも神話を信じていた人々は、進化の軌跡が全て解き明かされそれがネットで全人類に共有されたとしても、あんな物は出鱈目であると主張し続けるであろう。

 だが、決して平行線ではない。

 今に至ってはもう既に、科学者たちの導き出した具体的でそれっぽい過去の地球像を頭に思い描いた大多数の一般人たちによって、神話を「過去に流行った壮大な創作物だ」と認知され始めている。

 諍いの素になるから、声高に否定できないだけなのだ。


 あ、一つ勘違いしてはいけないので訂正しておこう。

 科学様に絶大な信頼をおいてはいるものの、絶対の信頼をおいてはいない。科学が全てを証明できたわけでもなければ、例えこの世界の全てが解き明かされたとしても、自分がそれを証明も認知もできるわけではない。

 まあでも。科学が提供してくれる知識と言う名の甘い汁はすすり続けるわけだけれど。

 それが正しい物で正しい行いなのかを確めるなんてできないじゃん?毒かも知れなくても美味しいからすするのさ。なんせその毒、この身に直ちに影響はないですので。

 馬鹿げているかもしれないが…

 平民が想像できないような天上人達の画策と陰謀によって、世に広められている科学像が実際には、未来人から見れば「オレタチニンゲンクウ、ニンゲンノチカラテニイレル」くらい馬鹿げていて捻じ曲げられた理論である可能性だって十二分にあるわけで………

 実は本当は本当に存在する神様の親切心によって、「自分たちのルーツがさ。突然神様に作られたアダムとかイヴとか言う人達だって言われてもさ。なんか怖くね?だからそれっぽい化石埋めて置いたよ。これを元に『僕たちちゃんと動物の進化なんじゃん!』って妄想して安心しとけよ、人間ども。」と言いながら埋めていった可能性だって、ある。………………自分で言ってて笑っちゃうけど。

 そう。だから化学は、絶対じゃない。

 ただ今の所、神様が居るってよりは信じるに足る、説得力がある説だ、と言うだけなのだ。



 ああ長い。話しが長いよ。

 でもそれが少女の考えたる無駄な思考の全てだ。

 よって、ここまでの思考を追って来た人にならば言わずともわかるだろうが…彼女が結論を出すのは容易かった。

 我らの夢想した全知全能たる神などは、限りなく存在し得ないに等しいと。

 みんな知ってる女優が主役の、全国で流行りの朝ドラと同じ。

 内容は知ってる。創作物だって事も。みんな、ちゃんと、しってる。 

 大体そんな感じ。


 だが、ついぞ彼女はその疑問に決着をつける事ができなかった。いや、不本意な形でしか決着をつける事ができなかった。

 絶対に存在しないと言う言葉も、また絶対に存在すると言う言葉。神が在る事も、また無い事も、証明する手段を見つけられなかったのだ。それはそう言う結論でもあった。

 いくら考えても違う答えには辿り着かない。

 なんと回りくどく、意味のない思考ゲームだろう。言葉を交わす相手の居ない少女が、世界を呪う代わりに不幸の理由を探して、「結局の所この不幸に、多分理由なんてない」の「多分」を最後まで削る事ができなかったと言う、ただそう言うだけのくだらない話。





 物心ついた頃、自分の生活は至極一般的で当たり障りのない物だと思っていた。

 まだ、生きていく上で当たり前なたくさんの辛い事悲しい事の中に、「タノシイ」と「シアワセ」が混じっていた。

 でも直ぐに、タノシイも、シアワセも、無くなった。手から零れ落ちるなんて表現では足りない。ある日ある時、忽然と、消える。

 世界も社会も知らない少女は立ち尽くす事しかできず、それ以外の生きるすべを知らない。知らないから、何もできない。逃げる事も抗う事も休む事もせず、見渡す限り広がる苦しさの底なし沼に、ゆっくりとゆっくりとただその身が沈むのを、眺めるように、他人事のように無関心に。死んでいるように、生を眺める。やりようのない人生。

 たった一つの幸せすらもどこかへ飛んで行き、不幸と呪いだけが手元に残るその様は、本を読むようになってよく見かけるようになった『パンドラの箱』と言う逸話ですら微笑ましく思えた。パンドラすら或いは、憐憫の情を彼女に抱いてくれただろう。そんな人生。

 希望と言う光が一つ残ったのだからまだましだと。

 自由も選択肢もなく、気が付いた時には既に開いていた人生はこ

 初めてこの言葉を意味を知った時。たしか、その少女は理由もなく笑みを浮かべた。


 例えば。

 その不幸に理由をつけようとした際に頭に浮かんだのは、傲岸不遜なあの言葉。

 まあまあに文学的で平和を享受する日本なる社会にも蔓延する、信じたい気持ちに比例して出てくる信じられない者たち、無神論者達の嘆きの声。


 『この世に神などいない。』


 あるいはそれも天邪鬼な心の声なのかもしれない。


 『もし居ると言うのならば神よ、私にも人並みの幸せを与えてみるが良い。ほら、できないのだろう。知って居たさ。ならばやはり、この世界におまえは存在しないのだ。』

 

 それは少女の最終手段。虚空へ向けた救難信号。信じて居ない未知への問いかけ、諦める前の悪あがき。無意味と知ってそれでも出て来た、頼みの綱の神《S》頼《O》み《S》。

 至る結果は、平凡至極。しかして、奇跡は、起こらない。



 

 不自然?非効率的?

 …だって、仕方ないだろう。アクマのショウメイなんだもの。

 神様の存在有無を語るのには恐らく最も正解から遠い、皮肉な名前の論理。「悪魔」の証明。神様を証明できなくても神様が居ない事もまた証明できない。逆もまた然り。

 幾ら肯定できない材料を見つけても、否定する材料が見つからないのだもの。


 神様が居ないと断言できない。だって、神様は居るかもしれない。ただ居たとして。

 ただ、平等ではないだけ。

 ただ、助けてくれないだけ。

 ただ、私の事を見て居ないだけ。

 ただ、信じると言う見返りを求めているがゆえに信じない全てを救わないだけ。

 ただ、試練と称して人間を苦しめる事が大儀であると過信し思考停止のまま、その成果や意義や是非を無視してルーチンワークに徹しているだけ。

 そう言う、「人間が想像するような善神じゃないだけ」とか、「善なる神であっても人間の価値観とは相いれないだけ」とか、無限にある可能性。

 そう言う可能性は捨てる事は出来ない。


 だから、私の中では同じなのだ。

 神様も、幽霊も、サンタも、超能力者も。UFOも、地球外生命体も、玉手箱も、ネッシーも雪男もグレイもスカイフィッシュもモケーレムベンベもフライングヒューマノイドも徳川の遺産もムー大陸も。

 誰かが何かをきっかけに言い始めた妄想、妄言と何が違うのかわからない。

 小学生が白い紙に0から描いた、僕だけの英雄、私だけの王子様。1。オリジナル。唯一無二。

 大人100人に聞いたら100人が「無いだろう」と言う。

 1000人に聞いても10000人に聞いても100000人に聞いても同じ答えかも知れない。

 でも100000000人に聞けば誰か一人は「あるかも知れない」と言ってくれるかもしれなくて。

 もしかしたら、7000000000人に一人は「僕こそが君の王子様だ」と言って少女に無限の夢と幸せをくれるかもしれない。

 誰もが「無いだろう」とは言うが、決して「100%無い」と証明し断言する事は出来ない。

 そう、微粒子レベルで存在しているのだ。

 信じる人が少なければ少ない程妄想と呼ばれ、信じる人が増えてくれば噂に変わり、信じる人が大多数になればそれが常識となり、誰もが信じればそれは存在してもしなくても事実として認識されるだろう。

 認識が濃いか薄いか、広いか浅いかの違い。境目は個人の裁量と認識次第。

 つまり、私の中では、同じ。



 神、もしくは宗教と少女の関わりは6回あった。


 1回目。

 そもそも訪問者自体がほぼ無い家だが、それでも少なからず居た来客へ自分が対応する事は、それまで決して無かった。

 故に。

 それは日常的にあった事なのかも知れないが、私は知らなかったのだ。知った理由は一つ。いつも殆ど家に居なかった母親が、もうこの家に帰って来なくなったから。私が出るしかなかったのだ。


 インターホンを鳴らしたのは、中年女性と、中年と言うにはまだ若めの女性の二人。

 と言っても、当時学生だった私よりも遥かに年上なのと割と年上なのだった、と言う情報だけが記憶されているので、個体の識別ができる程顔も髪も服装も記憶に残っては居ないが。


 『突然ですけど、あなたは神を信じていますか?』

 単語は初耳な物も多かったが、私もよく知る世界的にポピュラーな宗教名を言っていた。

 その時の私は少し浮かれていたんだと思う。なんせ、私に対して初対面で積極的に話しかけてくれる存在と言うのは、ウルトラレアな存在だったからだ。

 最初は聞いているだけだったが、徐々に話は問いかけへとシフト。

 誘導尋問かコールドリーディングのような、こちらの答える選択肢が非常に狭められて居た事だけが不満だったが、それも気分を損ねる程ではなかった。

 ある程度時間が経ち、「興味が出て来たか、聞きたい事は無いか」と言われたから、ずっと一人で抱えていた疑問を素直にぶつけてみる事にした。


 -何故貴方たちは神を信じる事ができるのですか?

 -そうではなくて、根拠があったから信じたんじゃないんですか?

 -…「信じる者は」と言う事は、例え他人から聖人君主と呼ばれるような善人であったとしても、神を信じない限りその魂は決して救われる事はないと言う解釈で良いんでしょうか?

 -なら別に、信じなくても良くないですか?神様。

 -生きている人間は決して救わないわけですね。

 -いや、まあ別に良いですけど。でも、死んでからの事なんてわかりようも確かめようもないと思うんですけどね。どうしてそれには書いてあるんですか?

 -え、じゃあその本。聖書?でしたっけ。それ一回死んだ人が書いたんですか?

 -ならその内容、なんで事実だと信じる事ができたんですか?

 -あー…そもそも、聖書は原典をお読みになられました?

 -日本語に翻訳された文章なら、翻訳した人間の解釈が反映されますよね?それって原典を書いた人の意志と大きくかけ離れている可能性もあると思うんですが。それに日本語ではどうしても表現できない言葉もあるでしょうし。

 -信仰するにあたってそれを確認してないって事でしょうか?

 -え?そこ翻訳家に丸投げしちゃうんですか?

 -同じ文章読んだだけでも人によって解釈違うのに、それを翻訳となったら必ず翻訳した人によって出力の仕方だって変わるのは避けられないと思うんですけど。

 -映画の翻訳が、字幕と吹き替えで違う事なんて良くある事じゃないですか。当然、本にもありますよ。

 -神の教えって便利ですね。今まさに、同じ内容を聞いて、私と貴女で違う意見が出てますけど。これってどういう事なんでしょう。

 -当たり前ですよ。ましてや幾つもの宗派に分かれてるのって、聖書とかの解釈の違いもあるんじゃないんでしたっけ?

 -読んだ事が無い?ああ、はいはい。でも信じてるんですよね?理解されずに信じる事なんてできませんよね?

 -例えばですけど、信仰と宗派に99の間違いと1つの正解があるなら、あなた方は99通りの教えを見る事も無く間違いだと決めつけて、最初に見つけた1つを正解だと断言している事になると思うんですが。その根拠ってなんなんでしょうか?あ、いや、失礼しました、他の宗派が幾つあるとかは知らないんですけど。

 -は?いや変ですよ。私が知らないのは普通だと思いますけど、あなた方が自分で信じてる宗教の成り立ちとか他の解釈どんだけあるかとかを知らないのは変だと思います。それでどうして信じられるんですか?

 -そう言えば聖書って言えば……あの。

 -まだ聞きたい事があるんですけど、答えてくれないんですか!

 -ねぇ!



 若い方の女性が走り去り、年上の方がこちらを睨みながら何かを凄い形相で叫んでから追いかけて行った。

 二度と来なかった。





 2回目以降もさして変わらない。

 道端で出会ったこれまた二人組、最初と同じ宗教をダシにオカネの絡む話をしてくる長身の外国人男性と小柄な女性。

 自分なりの神様とお布施について熱心に説いてみた所、急用ができたらしかった。


 ああ、3回目と4回目はセットみたいなもんだ。

 大宗教に一部手を加えただけの設定不足な聞いた事も無いマイナー宗教について熱く語る、中年と思しき女性二人組。そしてそれらを限界まで叩き潰してお引き取り願った当日に再来した、私と対照的に表情だけ優しそうで奇妙な雰囲気の背広男。


 5回目も御多分に漏れず。布教の先遣部隊は必ずペアで行わなければいけない決まりとかがあるのだろうかと邪推したくなる程だ。


 6回目?

 出口の無い見知らぬ部屋で空中にふよふよと漂う、自称神様な幼い女の子だよ。

 「神様は多分居ない」と言うそれまでの考えが178度ほど覆された出来事だった。

 足りない2度はお察し頂きたい。繰り返しになるが、結局私はこの結論に絶対と言う物を見出せなかったのだから。

 「神様は『多分』居る」、だ。


 神様でしか成し得ないような奇跡を目の前にして、それを事実で現実だろうと決めつけるのはとても合理的。でも、決め付けられる程少女の脳は豪胆で大雑把にはできていない。

 曰く、世に公表されていないだけで実はもう実現しているかもしれない神経直接続系のデジタルダイブ。

 曰く、装着している事すら気が付かないHMDでの最新のVRとリアルタイム会話可能なAI。

 曰く、エイリアンによるアブダクションと現地住民への正体を偽った接触。

 曰く、未来人が現代改変に臨む上でやむなく必要になった現時代協力員を確保する為に存在し得ない未来の技術で奇跡を再現したペテン。

 曰く、催眠術による洗脳。

 曰く、夢。

 目の前の奇跡と神々しいまで可愛いらしい神様を、目の当たりにしながら否定できる材料は、今彼女が持ち合わせている存在するかもわからない知識だけで説明ができる事ばかりだった。ただし、それらの殆どは荒唐無稽も甚だしい妄想とも言えないチープなこじつけであるのだが。断言できるのは、それらすべての可能性が、多分0%ではないと言う事だ。そしてそれは、とても重要で、真理かもしれないただのヘリクツなのだ。


 完全に神だと断定できない目の前の自称神様を100%に確める術は、実はない。それでも彼女は、彼女が認識した情報と、彼女が認めたモノを、認める事にした。




 不思議な事に人間とは、事実かどうかを100%確める事も無く、それを事実だと認識し公言できてしまうんだ。

 むかしむかし、天動説とか言う根拠も何もない事実無根なとんでも常識が世の中に蔓延っていた時だってそうだ。1人の地動説を語る天才的阿呆に、1000人の人間が証拠も無いのに常識であり事実だと何に憚る事なく口にできたのだって、人間はつまりそう言う生き物であるからなんだ。100%で無い事を100%のように、事実と断言できない事を事実であるかのように扱う事ができる生き物なんだから。


 私もその一人。

 私は、地動説を唱える人間が居る中で天動説に疑問を持たずアホ面で生きていく愚劣極まりない無能にはなりたくないが。

 まあ、でも、残念ながら阿呆なので。せめてアホなら、自分の能力の限界まで、「限りなく地球が回っている可能性が皆無だ」と思えるまで調べる位の悪あがきをしてから、やっぱり「それでも地球はまわってないんじゃないかなぁ」位にうすぼんやりと、間違った事を正しいと信じて生きていくくらいのアホで居たい。


 なので彼女は…いいや。

 ()()()は。

 千を超える宗教と万を超えるかもしれない神様像といずれ億をも超える創作物の中で描かれる神様の中に、正解が「絶対にない」とは言わない。

 お互いが違う唯一神を主張し相容れる事のないそれらが「全て正解」なんていうゆとり回答を用意しているはずは絶対にないし、なんなら全てが間違いの可能性だって勿論ある。むしろ濃厚だ。が、しかし。

 妄想にしか見えない、もしくは妄想でしかないそれらの中に、真実が、ないしは、偶然真実と一致してしまった妄想が、あるかもしれない。

 70億人がそれぞれ神様を妄想で思い描いたら、その中にもしかしたら、一つだけ、本当の神様とピッタリ合ってしまうなんて言う奇跡的な偶然があるかもしれない。紀元前まで遡る中で生まれては死んでいった億千万人の中に、ペテンで神を語り騙る阿呆がうじゃうじゃと居る中に、もしかしたら本当に存在する神の声を聞いていた人が一人や二人は居るかもしれない。確める方法は、ない。

 だから彼女は、私は、神様を、絶対に否定できないんだ。そして、肯定もしないんだ。




 つまりだけど。何が言いたいのかって言うとさ。

 例の彼女が、目つきの悪いカノジョが、『自称神様』を『神様』と認められるようになるのは、彼女が人間であるうちは不可能だろうって事。

 いや、ただの魔族ジンガイになった所で不可能でもある。

 多分神様を神様と認められる存在とは、同等かそれ以上の…つまる所は、神だけだろう。

 彼女は神様と名乗る少女と出会い異世界に飛ばされてもはや疑うのも馬鹿らしいほどの証拠をこれでもかと日常的に突き付けられている今もまだ、結論を出せず。それでも信じている。神様を信じたいと考え、信じる事にして、確信する程に決め付けた。


 そろそろ質問に答えよう。回答は単純明快。「なので私は神を、99.99999999%信じます」。

 …なんてね。


 考える事を至上とし、考えない事を悪と決め付ける彼女の答えは、いつも散々考えた挙句、残念ながら決定打に欠ける。

 だから彼女が、人であるうちは、こう言うのだ。

 あの子は、多分、神である。

 そして、私の妹である。

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