第35眼 二人の門出を祝って下さい! の2つ目
「お待たせ。」
「遅かったですね。随分長い間奇声や怪音が聞こえていたようですが?」
少し離れた建物の壁に背を預けながら、ギルドの入り口を睨むように待ち構えて居たムース。
突然だが、姫であるキーロちゃんの隣にいつも居る為、比べて見劣りしてしまっているが、彼女も実際はかなり絵になる美女だ。
私を待っていたその立ち姿も、無造作でありながら緩みは全く無い佇まい。多分絵画になっても違和感が無いだろう。なんならラノベなら、確実に挿絵が入ってる所だ。私なら入れる。そのくらい絵になる立ち姿なのだ。
それに加えて、付随する所作仕草もすべて、少女漫画に出てくる爽やかイケメンに見えてきそうなレベルできまっている。
これで更に、『あーあ、困ったちゃんがまた問題を連れて来たよ』と言わんばかりのあきれ果てた顔ではなく、はにかみでも浮かべながら「私が早く来過ぎただけですから、どうか気にしないで下さい」なんて優しい言葉を返してくれたなら、ファンクラブ創設必至の大人気になるだろう。
まあ、実際に向けられてる表情は、食レポの為に出された郷土料理の材料が一目でわかるくらい虫だった時の女子アナみたいな顔なんだけどね。……つまりは虫を見る目だよね?
「ああ。まあ受付は無事して貰えたから大丈夫。細々した話は道中でするよ。場所は、やっぱりアオモリだってさ。」
試験については、恐らくアオモリギルドに出向く事になるだろうとあらかじめムースが言っていたがその通りになった。
「そうですか。では直ぐに向かいますか?」
「そうしよう。期限は15日って言ってたけど、そんなにかけられないしパパッと終わらせちゃおう。」
「わかりました。こちらです。」
「あーい。」
「……あと、再度確認なのですが…」
「なに?」
「移動は、アイ様にお任せする。……と言う事で、よろしいのですよね?」
「だからそう言ったじゃん?」
「…はい、お任せ、します。」
「任された。」
もちろん予想できた事態なので、アオモリ遠征が決まった場合の事も話し合い済みだ。
なのに、なぜかどうやら、心配されているらしい。
ふっふっふっ…!
ムースよ…君がアオモリに到着する頃、私に任せて良かったと泣いて心を改める事だろうぜ!
「それで…ギルドでは、いったい何があったんですか。」
「ああ、ちょっと悲しいすれ違いがあってね…」
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「……」
「どうしたの?」
「…すみません。もう一度、要点だけ、お願いします。」
「うぇー?えっとだから…勘違いで殺そうとして来た、小さくてかわいい受付嬢を、力づくで押し倒して黙らせて、最終的には無事穏便に受付して来ってぇ何処へ行くんだいそっちは今来た方だぜお姉さん?」
「やると思ってましたよこの少女趣味色狂い!!私は今すぐ慰謝料兼迷惑料兼口止め料兼損害賠償を支払いに行くんだ離して下さい!」
「どさくさに言いたい放題すぎるよ!?」
「今ならまだ間に合うんだまだきっともみ消せるんだ私の未来の為にぃぃいいいいい!離せぇえええ!!」
「ええい、待て待て待て!!してない、してないから!いかがわしい事もお金払わなきゃいけない事も何一つしてないから!!」
「信じられるか!」
「ひっでぇ!?」
「…うわぁぁあんもうやだぁああ!せっかく真面目に生きて来たのにぃいい!!もうおしまいだぁ…!ヤタ様に…殺されるぅううぅ…」
「……」
逆向きに力強く早歩き始めたムースを勇者的ステータススーパーパワー(またの名を力技)で完全に静止させた所、私の腕を掴んだり振り返って肩を叩いたり、もはや癇癪を起した駄々っ子状態になった。
うわぁ…
わりとガチ泣きだ。ちょっと引く。年上なのになぁ…
最初感じた『できる女騎士!』みたいなイメージがいつの間にやらフライアウェイ。
あれ?さっきも年上の泣き顔を見たような気が……。もしかしてこっちの大人ってみんなこんな感じなんだろうか。感情表現が直接的と言うか豊かと言うか包み隠さない感じで子供っぽいと言うか。
項垂れて嗚咽が止まないムースに、あった出来事の詳細を話始めた。私は問題になりそうな事をしていな……殆どしていない事を懇切丁寧に説明する。受付嬢ネコゼリー氏の名前は問題の起因でもあった為濁して省いたが、それ以外の部分を事細かに。それも、その受付嬢が小さいとは言えども私よりも年上だった事を説明した所、希望を見出した表情になり、重点的に説明した結果大いに安心した様子で胸を撫でおろした。
「やはりそんな事でしたか。…アイ様、私は信じていましたよ。」
「お前が納得できたのは良かったけど、そんなサラっと大嘘ついた所でさっきの発言が無かった事にはならないからな?」
「なんの事でしょう私は何も言っておりませんが気のせいではないでしょうか。それより問題がないのであれば早く行きましょう時間をかけても良い事などありませんから。」
「ああそうか、私の質問に答えてくれたらチャラにしてあげようと思ったのに。覚えてないんなら交渉なんてできないよね仕方ない仕方ないああ勿体無い」
「大変無礼な事を申し上げました私が全面的に悪かったと深く反省しておりますなんなりとご質問下さい!!!」
「……」
調子良い奴だなぁ…。
ムースが疲労困憊な時に情緒不安定さを感じたが、この様子は未だに疲労が抜け切れていないからなのだろうか。それとも、キーロちゃんが居ない所ではいつもこんな感じなのか?
まあ私の心の中の本音で言えば、アッカー王子やヤタみたいに天上人に対するような畏まった態度をされるよりは幾分も楽ではある。絶対に口にするつもりはないけど。
「まず一つ目はね。さっき色狂いとか」
「ひゅっ!?」
「…色狂いとかなんとか言ってたよねぇ。実は前に、ミドリーちゃんも同じような事言ってたんだよねぇ。どういう事かな?かな?」
「あ、の…その、ゆ、許して、いただけるのでは…?」
「ああそうだね、質問にちゃんと答えてくれたら君は許すよ?ただ、君たちカー・ラ・アスノートから見た私の人物像がどうなってるのか今回の件でちょーーーーーーーーっと気になって、ねぇ?」
「はぅっ…!はあ、い…」
「どうしたのー?答えてくれるのくれないのー?」
「答えます!答えますが、その……門から出た後で、では、駄目ですか!?その、つまり、あまり人の耳が届かない所で、つもるお話もあると申しますか…」
「はぁん。まあ、良いよ。それで素直に答えてくれるんなら、どっちでも。じゃあもう一つ。こっちも門から出た後の方が良いかな?さっき『ヤタに殺される』とか言ってたけどどういう事か聞きたいんだけど。」
「……………はい、では、それも合わせて、門の外で…。」
「OKOK。じゃあ、善は急げだ、サクっと行こうぜ。ああ、それと……一応念のために言っておくけど。」
「…はい。」
「門から出て暫くしたら、ちょっと実験した上で移動に専念するから。あんまり時間、ないんだよね。つまりね、手短に答えてくれなきゃ、イヤだよ?って事。ね?」
「…はい…」
「よーし!レッツゴー!」
「………」
この前休ませたばっかりなのに、あの時以上に顔色が酷いねムースさん。
大人なんだから、体調管理は自分でしなきゃだめだよー?