第34眼 登録の受付を始めて下さい! の2つ目
「……一応言っておくけど、登録に偽名は使えるけどやめて置いた方が良いわよ。私も偽名で登録してるけど、ゼムは基本一人一個だし、名前とかの情報は更新履歴が残るから、頻繁に変えたり不審な変更の記録が残ってると信用に関わるどころか、最悪ライセンス永久凍結されたりするから。で、もう一回名前聞かせて」
「カオリ・サトウです!」
「…そう。」
偽名だってバレたのかと焦ったけど……いや、実際どうなんだろう。どっちかわからん!
「サトウ、か……ん…やっぱり、貴族、だったり?」
「…なんでそう思ったの?」
そう言えばこの世界では、日本語の名前がありふれている。
サトウと言う氏を冠する貴族。有り得る。居得る。
しかしこの返答のしかただと「…………貴様、なぜ、私が貴族だとわかった?」みたいな感じにも聞こえるだろうけどね。違うんだけど。勇者です。
「諸々だよ。」
「諸々…」
「サトウって家は聞いた事はないけど、名前の響きがぽいと言うか、ね。」
無いんかい、サトウ家。
「その強さで今更登録とか言うチグハグさもそうだし。あとはまあ…強力なスキルを持ってる所、とか?」
「ああ、成程…。」
「……あと今ので、とんでもなく警戒が足りない間抜けか、世間知らずな箱入りお嬢様だって事もわかったわ。」
「どゆこと?」
ズズイっと指さされる。
あら、そう言えばお嬢様って私の事かしら?ちゃんと性別は認識されたらしいですわよ。
「スキルを持ってる事も、持ってるスキルの効果も、他人に軽々しく教えて良いもんじゃない。」
「…?さっきステータス見れるって教えたじゃん?」
「今のはね、カマかけたのよ。」
「……どゆこと?」
「ほんっとに何にも知らないわけ!?」
勇者はスキルが無くても相手のステータスが見れるが、この世界ではイコール鑑定スキルがありますよって事になるだと思ってたけど。もう既に自分で言ったんだから今更隠す必要もないだろう…と思ったんだけど。…違った?
「鑑定はね、アーティファクトでもできるの!」
「ああ、それは知ってる。」
「知ってるんじゃないのよぉ!!なんなのよ!!」 バンバンバンバンバン!
また始まった。うるさい。まあでも、調子を取り戻してくれたって事だろう。そう考えると、良かった良かった。
「ああ、つまり……つまり?」
「あんたがアーティファクトで鑑定したのかスキルで鑑定したのかわからない状態だったけど冗談半分でカマかけたらあんたがボロっちゃったからスキルだったって私にバレたのよぉ!」バンバンバンガンガンガンダンダンダンダンダン!
机を叩く音に合わせて、座りながらの地団太も追加された。…もうBGMだと思って聞き流そう。
「ほぉ。成程確かに。」
「あんた世間知らずにも程があるでしょいったい今までどうやって生きて来たのよ!」バンバンバンバンバンバガン!
「…キヒッ、キヒヒヒッ…!実は今までのが全て何も知らない箱入りお嬢様のフリをした演技だったとしたら!?」
そう言えば名前を応えたにも関わらず未だにアンタと呼ばれるのがちょっと悲しかったので、ひねくれた返答をしたくなって勢いで言っていました。我ながらひねくれた性格だと思います。
「どっからどう見たってスッキリ納得してたって風にしか見えなかったしそもそもお嬢様って顔に生まれ直してから出直しなさいよ悪人面!」バンバンバンバンバン!
いや箱入りお嬢様ってのは君が先に言ったんだが。
「え、何それ素直に傷つく。」
「え!?あ、いや……ち、ちょっと…言いすぎたわよ!調子狂うわね!」バン!
口は悪いし手慰みの癖も酷いけど、性格は割と良い子なのかもしれない。
…子じゃないけど。年上だけど。
それにしても、さっきカウンターを物凄い形相で燃やして落として蹴り倒したのと同一人物とはとても思えない。
「って言うかさぁ。貴族かどうかとかって、それ受付に必要?」
「ううううーー!!!必要ないけど、そうじゃなくて!それ以前の、処世術とか、心構えとか、アドバイスしてあげてるでしょー!」バンバンババン!バババババン!
アドバイスの押し売りだったらしい。
まあ確かに?普通は知ってて当たり前な一般常識的な事を一から丁寧に教えてくれているんだ。ちょっと馬鹿にされてるような感覚にはなるけど、あくまでも善意ある親切なんだ。ありがたいね。良い子だ。いや良い人だ。
…見た目のせいでどうにも子供と認識しそうになる。
「うんうん、わかったわかった、ありがとうありがとう。で、そろそろ受付してくんない?」
「心が込もって無いにも程があるでしょうよぉ!!もう!!!」バンダンバンダンバンダン!
おかしいなぁ。感謝は本当にしてるんだけど。ちょっとウザいなと思った気持ちが顔と声と言葉に乗ってしまったのかもしれないけど、それに気づかれたんだろうか?なんて察しが良い…次は気を付けよう。
どうやら相手は興奮気味だし、私が口を開いても話が進まないと思ったのでとりあえず黙ってみた。
「もう!」とか「ったく!」とか言いながら一通りバンバンダンダンと一人オーケストラを披露し終わった所でようやく体力の限界が来たのか、疲れた様子で静かになった。そしてまたポーションを呷る。まだ残ってるけど。
「……アンタは、私の名前聞いて何とも思わないわけ?」
「え…別に……」
とんでもなく奇妙奇天烈奇怪奇談な名前だと思いましたがそんな事を口に出しても問題にしかならないので言いません言えません。
「ネコゼリー家。この国に居て、聞いた事ないなんてありえないと思うんだけど?」
「いや、知らないんですけど…」
あ、個人名じゃなくて家名の方ね。「私、有名人なのよ?私の事知らないとかありえな~~い!」系の自意識過剰な人なのかと一瞬思ったけど違うらしい。
ああ、でも、それでなんとなくわかった。
ま、どちらにしろ知らないんだけどね。本当は有名なのかもしれないけど、私は知るはずがない。
「……砕拳ネコゼリー。」
「ごめんね。ほらこれなら聞いた事あるでしょう?的な感じで言ってるみたいだけど、本当に全く知らないんだよねぇ…」
「………そう、そういう人間も居るのね…ちょっと信じられないけど。」
「でも良いの?それこそ迂闊って言うか、私に情報与えすぎだと思うけど。」
「なんの話?」
「ネコゼリー家とか。この国に居て~とか。つまるところネコゼリーって、有名な貴族とかって事でしょ?」
有名なハンターが家族に居るとしても、それで家が有名ってのはちょっと想像できない。大商人一家って可能性も全くないわけじゃないけど、それなら砕拳なんて呼ばれるとは考え難い。他の可能性がないわけではないが、ぱっと聞いてる限りじゃこの王都で有名な貴族家って感じにしか思えない。
私が貴族かどうかを気にしてた事もそれで説明がつくし、それこそ彼女が私を貴族か疑った理由の一つとして『強力なスキルを持っているから』って言ってたのは、そのまま『六色の鋭才』というスキルを持っている彼女自身にも当てはまる事だ。
スキル云々は言えないけどね。
「そこは…どうせ、私の名前がバレてる時点で大差ないって言うか。今知らなくても、知ろうと思えば調べるまでもなくわかるだろうし?なら時間の問題でしょ。」
「はあー、成程ねぇ。」
別に納得できたわけでもないが、よく考えたら彼女が納得してるなら別に私が気にするような部分でもないので、テキトーに返事をしておいた。
「…興味ないです、って顔に書いてあるわよ。」
「興味持って欲しい?ネコゼリー家とやらの事。」
「ごめんそのままで良い。そのままでお願いします。」
「はーい。」