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邪眼は正しく使って下さい!  作者: たかはし?
邪眼勇者の冒険者譚編
135/162

第34眼 登録の受付を始めて下さい! の1つ目


 開放した途端、まさに脱兎の如くだった。

 柱の陰から様子を伺うのはやめて欲しい。

 乱れた衣服を正しながら恨めしい顔をして見ないで欲しい。

 不可抗力だ。先程のは全て正当防衛だ。



「…手、大丈夫か。」

「…?」

「手だよ、手!」



 しばらく。本当に暫く無言のままだったが、ようやく気まずそうに声をかけられた。

 しかし、何を言われてるのかよくわからない。

 だが思い至って咄嗟に手を隠す。


 先程の取っ組み合いのさなか、もしや手をどこかにぶつけたりしていただろうか。

 私はこの世界の常人と比べて(と言うか人間と比較すると)防御力が桁外れに高い為、どこかにぶつけていたとしても全く痛みを感じない。

 その為自覚は一切無いが、もし盛大にぶつけていたのに私が気づいていないだけだったとしたら…手を見られるのはヤバイ。怪我がないとか、血が出てないとかじゃすまない。ぶつけたのが何処かわからないほどかけらも痕跡が残っていないのだ。ぶつけた程度がわからないが、骨折確定レベルの打撃をうけたにも関わらず無傷な私の手をさらしたとしよう。それだけで人外認定される可能性だってないわけではない。



「ダイジョウブダヨ。ダイジョウブ。」



 しかし。自分で言っておいてなんだが、手を隠しながら言うと怪しさしかない。

 今日は朝から失敗ばかりだよ。

 …だからってどうすれば良いのさ!手を見られたらどっちみちダメなら疑われるのは仕方ない、受け入れよう!



「バカヤロウ!」



 そう言って奥に走り去った。

 …バカは認めても良いですが。女ですけどね?胸を見ても野郎疑惑は晴れなかったんですかね?

 一応ちゃんとあるはずの自分の胸を見ながら落ち込んでいると、薄青色の液体が入ったガラス容器を両手持って戻ってくる。うち一本の蓋を口で開けて、走り過ぎざまカウンターの上に転がすという、なんとも男っぽいと言うか荒々しいと言うかベテランな感じの仕草を披露してくれた。他人の事より自分の野郎らしさを反省しやがれ。…しやがりなさるべきですわよ?


 そんな事よりだ。

 あまり実用性を感じないフォルムで、日本で同じような物と言われればインテリアとしてしか見た事が無いような、透明なガラスでできた口が細いオシャレな容器と、向こう側がハッキリ見えるほど透けた薄青の液体。

 もしも、もしも私の勘違いで無ければそれはもしや、あれですか!?異世界ファンタジー定番の、あの、「ポ」から始まり「ン」で終わる、飲んで良しかけて良しの、お薬的なアレでしょうか!!



「ほら、手出せ。」

「あの、それは…」

「ポーションくらい見た事あんだろ!良いから手ぇ出せ!」



 はいポーション来たああああああああ!!

 そりゃああるよね!魔物に魔法に剣の世界、そりゃあるよねポーションさん!

 クリア過ぎる青色は体に悪そうな見た目ではあるが、なんか知らんこの世界のありがたい天然成分由来100%でできているはずだ!決して1号やら2号やらと言うライダー様みたいな名前のついた、まことしやかに危険だと噂される合成着色なんたらさん達は一切使われていない、天然素材の色のはずだ!いやっほう飲んでみたい飲ませて飲ませて!

 と、しかしテンションは上がっているが手を見せる事ができないと言う事実は変わらないのである。



「大丈夫だって、ほんと、大丈夫!ケガとかしてない!」

「んなわけあるか!」



 あれ。怪我してないって言って良いんだっけ?でも断るんだからそう言わなきゃダメだよね。でもそれなら手、見せても変わらなくない?いや、でも見せたら「あんだけ思いっきりぶつけてなんで怪我してないんだ人間じゃねぇえ!」って言われるかもだし。なんとかごまかせるならごまかしたい。どうしようどうしよう!

 …幸いまだ手は見られてない。なら今から怪我して見せる、とか!?でもどの部分ぶつけたの見られたかわかんないし。実際は指ぶつけたのに、掌に怪我して「実は怪我してましたよねー」って見せてもただの怪奇現象だし!ああああもう、クーエン云々の時と同じだよ!解決策が無いよ!



「金の心配してるんなら気にしなくて良い。私が原因なんだ。私物だけど、一番良いの持って来たから、効果は保証するし。だから、ほら。」

「うー…」



 これはあれか。心配されてるんだもんな。驚かれるだろうけど、してない怪我を心配させ続けるってのは、なんだかどころかとってもとっても申し訳ない。

 そして何より譲る気は無さそうだ。

 勇者バレするのはできれば嫌だし魔族バレするのは絶対に避けたいが、それよりも心苦しさが勝った結果、しぶしぶおずおずと無傷の手を出す。



「…………………………………………………………………あ゛?」



 まず正面から見て。次に上下左右からものぞき込んで。また正面に戻って来て。私が掌を返して手の甲を見せて。そのまま暫く黙っていたかと思った後の「あ゛?」。いただきました。

 蓋が既に開いている方のポーションはあまり傾けないようにしながら、器用に両手で私の両手を満遍なく擦っていく。両手全体を確かめ終わった手はそのまま止まり、また無言。そろそろ沈黙が苦しいなと思い始めた頃、私の手に注がれていた視線と



「……………………………………………………は?」



 という一言が私の顔面にぶつけられた。

 いまの「は?」の意味はわかります。説明を求められている。そんな気がする。



「………ね?大丈夫って言ったじゃん…?」



 が、しかし。ごまかす材料すらないので軽口しかたたけない。



「…火傷は?」

「やけど…?ケガじゃなくて?」

「手、火傷…どこ?ない?」

「いや、いつの話?火傷なんてしてないけど…」



 言葉がなんだか頭が残念な人みたいになってるのは、絶賛混乱中だからだろう。

 私も。いつの話も何も、会ったのさっきだしさ。



「しただろお!火傷!燃えたじゃん手ぇ!」

「はあ?アッハッハー!おかしな子だ、手が燃えてたのは君の方じゃないかあ。」



 んん。なんだ冗談だったのか。なんと手の込んだ。



「お前だよ!お前の手も燃えてたんだよ!」

「何言ってんだい、君だって確かに燃えてたじゃん。アレ、熱くない炎だろ?」

「アホか、熱くない炎ってなんだそれいみわかんねーよ!それに、自分の魔法で火傷するわけないだろ!!」

「…あり?」



 突然変な事を言い出したから、てっきり冗談なのかと思ってアメリカンジョークテイストで返したのに。

 …そう。自分の魔法だと火傷しないんだ。

 成程ね。なんだそれ。こっちこそ、魔法いみわかんねーよ。

 じゃあ私、あれか。

 人間やめてなかったら手が超燃えてたのか。

 こわ!超怖!



「お前………なんなんだよ…」

「ごめんね?」



 そりゃ普通の人だと思って心配されてるんだから話もずれると言う物ですよ。

 これは私が悪い。私の体が丈夫なのが悪い。


 彼女は疲れたような溜息の後、手元の開封済みポーションを見てとても渋い顔をした。

 口に運ぼうとしてはやめ、瓶の中身を睨んでを数回繰り返し、今度は大部分が焦げ落ちた元カウンターの一部を見やりながらため息をついて、その隣の健在なカウンターに座ってはまたポーションを見て。そのまままた渋い顔をして睨むだけかと思うと、ついにグイっと瓶を呷った…ように見えたのに、元の位置に戻って来た瓶の中身は半分も減っていなかった。


 そうか、そうなのか。

 前言撤回。ポーション、飲みたくない。


 瓶の底がカウンターを叩く。



「で。ホントは何の用なんだよ…」

「新規登録希望だってば!」



 現状、まだ登録の「と」すら始まっていないのである。



「お前みたいな新人………………いや、って言うかお前……あああ違う、その前にまず。あんたの名前は?」



 そうだ。

 何度も紙に名前書こうとしてたけど、結局まだ書いてないんだった。



「サトウ…カオリ・サトウ。」



 偽名。

 それも単なる偽名ではない。

 それは我が愛しの、妹の名前だ。

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