第33眼 灼熱の業火で焼いて下さい! の3つ目
咄嗟に何か言わなきゃいけない状況だったとはいえまあとんでもない事を口走ってしまいました。
何この沈黙、え、まさか聞こえてなかったとか!?別の何か速攻考えて言い直せばスルーできるかな!?
でも聞こえてなかったとは限らないもんね、聞こえてたのに言い直したら一度言って日和ったのがバレるよね、それはなめられるよね!?
ああ、今から時間を巻き戻して訂正できないかな。できません。そんなスキルは持ってません。
「え、女…だよな?」
チラっと胸を見られた。二回。
おいおい?ここに、目と鼻の先に女性の顔があるじゃない?そこ見ないと性別わかんなかったかな?ん?
…何にしても、ちゃんと聞こえてたみたいだ。
こうなったらもう、進むしかない。
迷わず行けよ 行けばわかるさ。
「話を聞いてくれなきゃ犬みたいにべろんべろん顔舐めた挙句トラウマになるようなディーブなちゅーして」
「ひぃぃぃいいいいいいいいいいやああああああああああああああああああああああああああああああああ」
「ああもう暴れんな叫ぶな話聞け!」
「嫌だあぁああ放せえ私はノーマルだぁああああ!!!」
失礼な。私だって嫌だしノーマルだよ。
眼前でガチ悲鳴を繰り出し全力で逃げようと暴れる少女風成人。その両腕からは摩訶不思議炎が無くなっている。逃げる事がかなわないと知るや、私に狙いを絞り自由な足で攻撃を開始した。右足で二回蹴られるが全く痛みはないが、煩わしいのでそのまま両腕を持ち上げる。するとなんと、私に掴まれた両腕に全体重を任せて両足で蹴り始めた。
私が魔法を防ぐつもりで手首をガッチリホールドしていたせいで、雲梯にぶら下がって遊ぶ公園の子供みたいな状態になった。
だが暴れ方は子供のそれとは比べ物にならない。ヒザを踏む腹を蹴る脇腹を回し蹴る、もう蹴る蹴る蹴りまくる。足を踏…もうとするも身長が足りず諦める。なのでとにかく蹴る、蹴る、蹴る。
蹴りも体重も、見た目通りと言うか見た目よりもなおとんでもなく軽い。やはり魔法を抜きにすれば私の敵じゃなさそうだ。
しかしこの体制でよくやるよほんと……
全くダメージが無いとは言え悠長に見てられるわけでもない。あまり騒がれると本当に誰か来かねない。少しでも大人しくさせなきゃ。
暴れられないようにするには、………手はもう塞がってるし。
あ、体を使えばいいのか。
と言う事で、自分の体ごと床に押し倒す。これでもう蹴れまい。
「ぅっ…!」
完全にアウトな絵面になりました。
いつの間にか涙を流しはじめていた美少女(仮)の上に、体を密着させて覆いかぶさる私。
これはもう、はたからみたら、へんたいさんがちいさなこを、おそってるようにしか、みえないですね?
息も絶え絶えに「ひっ」とか「やっ」とか小さな悲鳴を上げながら、なんとか少しでも体をズラして拘束から抜け出ようとする。なんとかならんもんかと手首を掴んだままの腕を少し下げるとあら不思議、赤ちゃんみたいな体勢に。もう何もできないだろう、無理をすれば腕や肩を痛める。しかしそれでも逃げようとなのか、顔を背けて、足先をうごかしている。
話を聞いて欲しいだけなのに、寧ろ相手の冷静さを欠いてしまったような……こんなはずじゃなかった。
私の脳内プランでは場違いな要求に面食らって冷静になった上で鼻で笑い飛ばしながら「それは嫌だな、仕方ない話くらい聞いてやるよ。」って流れになると思ってたんですが。完全に予想外です。
しかし、ここまで過剰なほど反応されると、むしろなんだか楽しくなってきた気すらする。これ以上したらどんな嫌がり方をするんだろう。
いや、ちゅーはさ、できれば本当はしたくない。…できなできないと侮られる位なら、最悪するけど。
でもさ、なんかこう、そう言うの抜きにして、ちょっと、ほんのちょっと……………なめるくらいなら…良い?ような?気がして来た。どんな反応、するかな。話しを聞いて貰うための、脅し?でも他人の顔舐めるとか、やっぱり無しか…?いや、でも。可愛いし。……カワイイ女の子なら良くない?キレイだよね、はだ、多分キレイ。ビショウジョカッコカリナラ、ナメテモ、ヨキカナ?
「ちょっとだけ…」
「にぃいいいやあああああああああああああああああああああああああああああああごめんなさいごめんなさいごめんなさいファーストキスなのやめてやめてやめてやめてやめて」
顔をいやいや、手足バタバタ。
反応は楽しい。が、声がでかい。
もう散々騒いだのにこれ以上大声を出すんじゃあない!
……こんな姿誰かに見られたら多分捕まる!前科者になる!
「叫ぶな!これ以上騒いだらそのクチ塞ぐ!」
「ぴぃっ…!?」
ようやく動きが止まる。
ガチ泣きしてるし、しゃくりをあげてるが。
未だ僅かに身動ぎをするものの、都度圧迫しすぎない程度に体で抑え込む。
「よぉし、良い子だ。これで、話し合いができるかな。」
「放っ、し、てっ」
しゃくりと息切れ、そして顔がすぐそこにあるからというのもあるだろう。
さっきまでと打って変わって、ささやくような声で話す。
「良いよぉ、開放してあげるさ。先に、2つ3つ、私の話を聞いてくれたらね。」
「…」
無言で2・3度頷いたのを確認。
長かった…本当に長かった。対話ができそうだよ!
「まず一つ目。私は登録しにきたハンター志望の新人、誰の遣いでもない。」
「そ、そんなバカな話信じるはずが、ない、と…思いますん、信じます…」
一瞬凄い剣幕になったと思ったが、みるみる失速した。文脈も支離滅裂だ。
あとついでに鼻声だ。って言うか泣きすぎてちょっと鼻水出てる。
顔につかないように気を付けよう…
「どうして違うって思うのか教えてよ。」
「え、と………」
「正直に。」
「ひ、ぁ…の、ネコゼリーって、知ってるの、家の、家族だけだから…?」
「なるほど。じゃあそこで二つ目。私は、ステータスが見れる。」
「はぁ!?んなわけないんじゃないでしょうか。ありますかね、ありますよ……」
「んなわけないって思った根拠はなんだい?」
「そ…………」
「ん?」
「え……と………」
「しかたない、舐める」
「ひいあ、あの、あれ、ステータスに名前は無いですし鑑定持ちがハンターになるわけないですし見れたとしても見たまんまの内容口にするまぬっ…あ、頭の足りられない方が居るとは思えないです、し…です?」
「あーー…」
うん。ステータスを見ました!貴方のステータスはこれですね!なんて言う奴は確かにバカの極みだ。つまり私だちきしょうめ!……だって、ネコゼリーなんて言う最大級にインパクトのある名前だったのに、不意打ちでネコマンマだもん。こっちだって食い気味で聞き返すほど驚いたわ。
「それ言ったらさ、密命を遣わされた人間がうっかり名前言っちゃうのもあり得ないと思うんだけど…」
「ぅ……」
まあ、この理屈が通じるかどうかもわかんないし、これで問い詰めるつもりもないから良いんだけど。
…………それよりも。普通のステータス、名前載ってないの!?ステータスって普通、名前載ってるもんじゃないの!?年に続いて名前も……んーー?ここに来て新事実過ぎる…。
どうしよう。それなら確かに勘違いもするわ。どうやって信じて貰うか。
良いや面倒だ。読もう。
「イクラデモ・クーエル・ネコゼリー、人間。えー…」
確か普通の鑑定スキルだと、相手のスキルは見れないんだよね。あと、ステータス値もABC表記まで。…実は私の鑑定だと、見ようと思えば詳細が数字として見れちゃう。けど常時OFFにしてるから、こっちもそのまま読めば良い。
と言う事で、改めてステータス確認。
「体力値が、E。」
「え…」
「精神力値がS。Sってすごいよね、魔法の攻防もそうだし。あとは…攻撃力D、防御力E。」
「え゛!?え、ほん、とに?」
「…うん、ほんとに。私の見てるステータスには名前が書いてある。信じてくれる?」
私の顔を見て、明後日の方向を見て、また私を見て。考えてるのがよくわかる。
これ以上って言ったら、もう残りを読み上げていく以外には、スキルを読む位しか思いつかない。
しかし相手のスキルまで見れるとわかればそれこそ大問題だろう。絶対に使えない手だ。
これで、理解して貰えなければ……
だが、要らぬ心配だったらしい。
しばらく考えるような素振りをしてから、そっと、静かに頷いた。どうやら信じて貰えたらしい。
よかったああああ!!誤解が解けたああああ!!
わかって貰えたのも良かったし、人にこの姿を見られていないのも良かった。
だってさっきの悲鳴なんて、絶対裏まで聞こえてただろうに。筋肉しか着てないおっさんを、ムースは一体どうやって足止めしてくれたのだろう。とにかく助かったよありがとう、神様仏様ムース様!
まったく、今日はハンター登録しに来ただけなんだよ?本当に。
それが、まだ受付して貰う前だってのにこの有様。前途多難ってやつだね。
「…あのぉ」
「うん?」
「勘違いしてたのは、わかったので、その………そろそろ、自由にしていただけると嬉しい、と言いますか……」
「ああ…最後にもう一つだけ、大事な事を言ってなかった。いや、言うと言うよりは、うん、約束して欲しい事があるんだ。」
「…なんで…?」
それは、私のこれからに関わるとても重要な問題。
「……放しても、悲鳴上げて人とか呼ばないでね?」
「……………………………………」
頷いて貰えるまでに、さっきの倍以上の時間がかかった。