第32眼 食品と生物は分けて下さい… の3つ目
「いぃ、いいぃ…いぃいいぃぃ、ひー、ひー、ふー、ふー、ふーーー…はぁ…………新人の、くせにぃ、生意気にぃ!ガードし腐りやがってぇ!」
ダンダンダダンダダダンダン
「ガードなんてしてないよ?全部生身で受けたじゃん。それに、まだ登録してないから新人でもないし。」
「キィイィイイイ!!!いちいち口答えすんじゃないわよ!」
ガンガガガンガンダンダンダン
ああもう、ほんとさ。今日は朝からムースと言いこの子と言い、叫ばれっぱなしで私もそろそろ耳が疲れるよ。キィーも二回目だし。端正な顔がしちゃいけない表情といい、ヒステリックな性格といい、もうほんとどこまでもミドリーとキャラがダブる。
まあさっきのハンコもそうだけど、やたら叫びながらダンダンバンバンと床を叩いて台を蹴って地団太を踏んで。こっちは声以外の見た目にもうるさい。
「だいたい、年上だって言うけど私まだ自分の年齢言ってないんだけど。」
「んなもん見りゃだいたいわかるでしょ!」
…本当に私より年上なんだとしたら、お前だけは言っちゃいけないセリフだと思うけどな。
じゃあ、私は何歳に見える?
言葉には出さなかったが、私を見て判断してみろよと、両掌を返して挑発気味に促した。
「……………18…?いえ、17ね!」
「おお、マジか…」
「フン!ざっとこんなもんよ!」
「19歳だけどね?」
「何にぃ、驚いたのよぉおおぉおお!!!3秒前の無駄に勝ち誇った私のしたり顔返しなさいよーーー!!」
バンバンバンバンパンパンパン
それでも、私の年齢を当てられずとも大きく外さなかった。と言う事は…18より上だと?この見た目で…
会話中にもダンダンダン!一言喋ればバンバンバン!
仕草も含めて、とっても子供っぽいんだが…
まあでも、さっきカウンターを乗り越えて来た時の動きはただの子供って感じじゃなかった。………かといって、大人の女性らしさも全くなかったけど。ラノベ系ギルド受付のイメージも同時にぶっ壊されてるけど。
まあステータス見れば一発か。
絶対鑑定の遠望透過
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イクラデモ・クーエル・ネコゼリー 人間
スキル:六色の鋭才/魔法強化・魔法効率化・魔法防御・アカシックレコードアクセス(制限付き)
- 先天的魔法適正。全属性魔法を無知識・無制限・無反動で使用可能。
・たいりき:E
・せいしん:S
・こうげき:D
・ぼうぎよ:E
・まほこう:S
・まほぼう:S
・すばやさ:F
・たつじん:C
・いんてり:H
・こううん:H
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…見て思い出したけど、年齢、そう言えばステータスには書いてないんだったね。
でもそんな事はどうでも良いと言うか。
ギルド受付のステータスにツッコミ処が多すぎる件について。
S!?魔法関係のステータスが全部Sランクだよ!?魔法については詳しくないが、これ下手したらウルカスより強いんじゃないの!?自分のステータス以外でSとか初めて見たけど!?居るんだ、セステレスで天然のS!まずそこに驚くよ!
いやまあ、スキルが魔法系ステータスに影響してるんならまだ理解できる…のか?それにこれ実質、魔法能力が優れてるってだけで攻撃系のスキルよりは劣るのか。いやどうなんだわからん。
ただ、これだけの力があるなら、スキルが無い人間と真正面からぶつかって負ける事は120%無いだろうけど…
いや、って言うかなんでこんな、人間やめる一歩手前みたいな最強人類が受付してんの!?受付ってそんな危険な仕事だったっけ!?まあスキル持ちがうじゃうじゃ居るこの国に住んでるんだから、もしかしたらこれだけ強くても完全に安心はできない?いや、それはそれでハンターになるのがますます怖くなってくる話だよ。これだけの力が無きゃ受付すらままならないってんなら、ハンターどれだけ化け物揃ってんだよ!
いやいや、そもそも驚きはしたけど大事なのはそこじゃないと言うか、そこはまだ飲み込んでかまわないとも思うけどさ?
なんだよ、アカシックレコードアクセスって。初耳だよミリアンちゃん。あるのかいそんな物が。
アカシックレコードって世界全史的なアレの事?小説とかアニメでたまに見る単語だけど、それって実際には存在しない架空の、ファンタジーだけの物じゃないの?まあここ、魔法も神様もなんでもあるごりごりのファンタジー世界ですけどね!ああそっか、有るんだアカシックレコード。うん、まあ有るんならがんばって理解する。
いやいやいや、そうじゃないよ!一番声を大にして言いたいのは!
なんだよ、幾らでも喰える猫ゼリーって!?猫ゼリーってなに、ほんとなにこれ!?
この世界に来て見かける人の名前は、意味合いはどうあれ日本語や日本語的な部分があるのは感じてたけどさ?今回はその文脈よ!なんだ、美味しいのか猫ゼリー!?それ何、猫用ゼリーって事?食っちゃってんじゃないよそんなの、食えないよ!それとも猫が入った…!?倫理的にも感覚的にもアウトだよ!?できれば前者であって欲しいけど猫の餌にゼリーとか聞いた事ないよ、昆虫用の餌の間違いじゃないの!?生き物と食べ物は混ぜちゃだめだよ猫とゼリーは混ぜるな危険だよ!!!!!
「………………で、君、何歳なの?」
いいや。面倒だ。見なかった事にしよう。全部。
鑑定なんて私にはできない。それで良い。それで平和。
「だから、見ればわかるでしょ!24よ!」
「はあ!?え…ほんとに?10歳くらい間違えてない…?」
「誰がどう見たって成人してるでしょーがあ!!!あんたあ!!目ぇ腐ってんじゃないの!?」
「いやわかんないよ!?お手伝い偉いねって言われた事は?」
「よく言われるわよ!」
「大人の人呼んできてねって言われる事ない?」
「日常茶飯事よ!」
「男性に、口説かれた事は?」
「甘い物あげるからついておいでって言う奴ばっかりよお!!!」
「どんまい。」
そしてうえるかむお仲間さん。私は誘われた経験すらないけどね。
「慰めてんじゃないわよ!」
「みんな見てもわかんないんだよ。」
「みんな目も耳も脳も腐ってんのよおおおおおお!」
「まあ、君も私の歳はずしたじゃん。なかなか見た目から年齢なんて、わかんないもんだよ。仕方ない仕方ない。」
ステータスに年齢がないのは、次ミリアンちゃんにあった時に改良点として要相談だな。ミリアンちゃん含む神様達で作った物らしいし。…改修できるもんなんだろうか?
そもそもなんで年齢ないの?
あ、そう言えば日本には『数え歳』ってシステムがあったっけ。もしかして数え方によって年齢が変わるから、とか?
まあ、これは答えの見つからない問題だろうな。作った神達に聞かなきゃわからないだろう。
「…そういう事にしておいてあげるわ。」
「で、大人の受付さん。そろそろ登録お願いしたいんだけど。」
「とってもひっかかる言い方だけど、まあしてやらん事もないわ。」
最初のように大回りせず、ひらりとカウンターを超えて向こう側へ戻るネコゼリーちゃん。
直ぐに「書きなさい」と三度出して来た、もう見慣れて来た用紙。ただし『不合格』ハンコは押されていないし、手にも持ってない。
「ちゃんと受付してくれるの?」
「仕方ないでしょ。あれだけ魔力扱えるってわかっちゃったんだから、門前払いもできないわよ。」
…私がいつ魔力を使った!?教えて欲しい…
でもそんな事、口に出して言ったらまた不合格にされるかもしれない。
黙っておこう。
「改めて、よろしく。私は受付嬢、クーエル・ネコマンマよ。」
「え、『ネコゼリー』じゃ?」
「…は!?」