第30眼 騎士の経験を頼って下さい! の3つ目
「まあまあ、もうちょっとゆっくりしてけって。」
「他にも何か確認されたい事が?」
「って言うか正直言えばねぇ…」
「……?」
「ぶっちゃけ、何話してんのかさっぱりわかんなかったからも一回説明して?」
「………」
話は終わりましたモードになってたムース。だけどさ、専門用語とかばっかりで私、置いてけぼり。
…盛大に溜息をつかれてしまう。
「…そこの三人ならば説明できますので、どうぞそちらから聞いてください。私は忙しいので、できれば解放していただきたいのですが。」
「おやムースさん。そこな三人に聞いて、わかりやすくスムーズに教えて貰えると思います?」
「………」
面倒事をおしつけるなと顔に書いてある。しかし関係あるものか。
ムースと三人組のやりとりを見て、気づかないはずがないだろう。
私だって面倒は嫌いなんだ!話ができるお前に聞くのが手っ取り早い!
「君の有能さに期待してるって事だよぉ。私の役にたっておくれでないかい?まあ、それにさ…」
「?」
「キーロちゃん、久しぶりに君に会いたくて呼んだんだと思うよ?もうちょっと居てあげなよ。」
「……」
近づいて耳打ち。なにせこっちが本音ですので。
キーロちゃんの笑顔がいつにもましてキラキラつやつやしていた。少しくらい邪険に扱われようとも、一緒にいて心穏やかになれる相手なのだろう。
言われたムースは、照れるような困ったような…そして諦めたような溜息をもう一つ。観念したようだ。
「……それがお望みとあらば背くつもりもありませんよ。アイ様の希望はどのような状態どのような場面でも、必ず最優先にと厳命されておりますので。」
照れ隠しか!愛い奴め!…年上だろうけどな!
「で、改めて聞きたいのはなんですか。それともハンターズギルドについて、最初から説明させて頂いた方が?」
「んー、それも悪くないんだけどね……じゃあまず、ハンターの登録に必要そうな情報。あとステータス無しでも登録できる方法かな?それだけ詳しくよろしく。」
「かしこまりました。と言っても、登録に必要な情報と言われて思いつく物はそれほどございませんが…ギルドに顔を出して、いくつか質疑応答。あとは出された課題をクリアすれば登録できます。課題はその時その地域その受付によって違いますので、事前に準備はできません。が、アイ様の力があって達成できないと言う事はないでしょう。あ、…あー…」
私の全身を見回すムース。
今の恰好は、異世界に来た恰好そのまんまだ。
………………………………………………ちゃんと綺麗だよ?
「何?」
「…一応、装いはある程度見直した方が良いかと思います。服装もですし…」
カー・ラ・アスノートで見るどの服とも全く違うデザイン。過去の勇者は食文化などは懸命に布教していたにも関わらず、何故服はもっと軽く動きやすい物を広めてくれなかったのだろうか。服の作り方なんてわかんないから私だって広められないけどね!
だがムースが気にしてるのは、それ以上に別の部分だった。
「ただでさえ他とは違うと…珍しい防具武具ばかりなどの者は目を引きますが、アイ様はそれら使っている所を見た事すらございませんし…と、思っておりましたが、もしやアイテムボックスの中に御自身の得物はございますか?剣や槍など。」
「無い。」
「ですよね。…であれば防具は?」
「必要ない。」
「…はぁ。」
「アイ様!?危険すぎます!」
隣で聴いてたキーロちゃんが声を張り上げる。
「あっても邪魔になるだけだしなぁ…」
「ハンターになると言うだけでも危険なのに、鎧も無しでは……そんなの、ダメに決まっています!せめて、魔法鎧を全身につけるべきです!」
「流石にそれは…」
「ダメです!」
「ダメなの?」
「ダメです!」
「…ダメなの?」
ムースにも聞いてみる。
「…魔導士であれば、鎧をつけない者や付けても極めて軽装な場合も多いです。」
「だってさ。」
「ただ彼らの場合、魔法での防御などがある大前提なので。アイ様は習得されておりますか?」
「…」
「アイ様!」
防御の魔法?知らないからできない!
…でも、私、防御力めっちゃ高いんだよ?
異世界初日、珠玉の間でちょっとイライラした時に、石膏か何かで作られたと思われる像を素手で粉々に砕いたけど、一切痛みが無かったし。…………いや、あれは攻撃力が高いからああなったのか?でも、いくら強くても、殴った方だって普通は痛みがあるもんだしね?やっぱり防御力高いから、だよね?
ならやっぱ、鎧とかあっても動きが遅くなるだけで、邪魔にしかならなそうなんだよねぇ……
「んーー…でも、ほんと必要ないしなぁ…」
「ダメです!そんな、とても危険で!危ないんですよ!?」
「んー…」
「……私は、反対ですっ!!ハンターなんかになる必要はありません!」
「うー…」
「許しません…絶対、ダメです!…ダメなんです!!」
「あ、キーロちゃん!」
泣きそうになりながら走って行ってしまった。
「…怒らせちゃったかな。」
「…多分、大丈夫。違うと思います。」
わかってる、それが、私の身を気遣ってくれていると言う事に。心配してくれていると言う事に。
…それがたとえ無用な物だとしても、あの子に心配されているのが嬉しいと思ってしまう。自分がなんとも浅ましいね。




