第30眼 騎士の経験を頼って下さい! の1つ目
「おう、聞こうか?」
「ハンターになれないと言う件……可能性の話であれば、一つ思いつく事がございます。」
「良いね!そーゆーの待ってたんだよぉ!もったいぶっちゃって、にくいねぇ!で?で?さあ、さっさと聞かせろよ!」
「単純な話…おそらく、勇者様のステータスを確認する方法が無い為、でしょうな。」
「あ…」
自分の関わる話は終わったと思っていたのか、聞く事に専念していたキーロは、間の抜けた驚きの声をあげる。
「ん?どういう事?ステータスって…もともと他人に見える物じゃないよね?」
勇者でさらに看破のスキルを持ってる私にとっては、他人のステータス見放題だけどネ!
「…確か、何か特別な魔法を使わなきゃ見れないとかだっけ?」
「左様。ただ、正しくは魔法ではなく、スキル。もしくはイミテーションでしか確認の方法がございません。」
………イミ?ん??何?
「………そのイミなんちゃらって何よ…初めて聞いたんだけど。」
「これは失礼いたしました。イミテーション・アーティファクト……アーティファクトの劣化複製品でございます。」
「いや、あの…」
そもそもアーティファクトからして何なのかわからんのだけど…
でもこれ言うと、話がどんどんそれていきそうだしなぁ。
イミテーションは確か『偽物』って意味だったと思う…アーティファクトってなんだ?英語が苦手だから日本語訳がわからない。
って言うかそもそも、翻訳機能があるのになんで私が理解できない英語で聞こえるのさ!?いみわからーーーーん!
…いや、本当はわからないでもないよ。本当は。想像はできるけどさ…。
言葉は翻訳される。神語と呼ばれる日本語。東京から始まる、日本語で聞こえる固有名詞、地球の言葉。つまり英語で聞こえたこれも、過去の勇者が残した言葉なんだ、多分。こういう物がセステレスには、カー・ラ・アスノートには沢山あるんだろう。
どういう経緯があるとか確認する事もできるけど…
……………………良いや。もうめんどい。スルーしよう。
「……まあつまりだ。それを使えばステータスは確認できるわけだ。」
「いかにも。ただし、一般的には、でございます…。勇者様のステータスは、隠蔽効果が付与された物と同様、ただのスキル等では確認する事ができないのです。」
「…………はぁ。…で、つまり?」
「勇者の力と同格の異能でしか不可能、とされております。」
「勇者と同格…ねぇ。」
勇者と同格のチカラ。恐らく、四文字異能力の事だろうな。
「勇者様は今この世界にはアイ様お一人。アーティファクトであれば確認できるでしょうが…ギルドごときにそのような物、置かれているはずもなし。」
アーティファクトとやらなら勇者のステータスは確認できる。つまり、アーティファクトの効果は勇者と同格。
うん、やっぱ勇者が関わってる何かで確定だな。
「ステータスが確認できない。となると…ハンターになる条件を満たせないのではないですかな。」
「そういう事なの?」
先程、気づいたような声を上げたキーロちゃんにも確認してみる。
「…ええ、はい。確かに、ステータスの確認は、ここか神殿でしかできないかと…であれば、難しいかもしれません…」
…ここか神殿?
「…ちょっと待って?」
「?はい、なんでしょう。」
「できるの?ここで。私の、ステータス確認。」
「西瓜の間に、瞳の水晶がございます。」
「瞳の水晶?」
「ステータスの隠蔽を許さない、完全なアーティファクトございますよ。」
「完全な、ね。ふぅん。」
瞳の水晶か。まあ、いかにもな名前だよね。
…それはどうでも良いけど、私とキーロちゃんの会話の間に入ってくんなヒゲ。透き通った可愛い声を受け止めようとしていた耳が、お前の声で腐るだろうが。
「へぇ…まあ結局はハクの言う通り、ステータスが特定の場所でしか確認できない勇者である私じゃ、ハンターにはなれない。…って事?」
「断言はできかねますが…そういう事ではないかと。」
「ふむ…」
成程、確かに。可能性としてはかなり高そうだ。
なりたかったんだけどなぁ、ハンター。
半ば諦め始めた私だったが、私以上に悩んでくれていたキーロから声が上がる。
「瞳の水晶で確認したステータスを、ギルドで確認して頂くと言うのはダメなのでしょうか?」
「そこまでは私には。ただ、そもそもできるかどうかもわかりませんが、できたとして…ステータスを確認させるために瞳の水晶を使う事や、例外を通すにも必ず王族の権威を使う…となれば、『勇者としてではない身分証が欲しい』と言うアイ様の御意向にはそぐわないかと…」
「え?」
「…なにか?」
「…あ!なんでもない。続けて。」
やばい。そうだったそうだった、そういう理由って事になってるんだった。
本当はただ、せっかく異世界に来たんだから冒険者もといハンターになりたい!ってだけだけど。
「…どのようにしても、ステータスを確認させるには権力との関わりを示す形になります。ましてステータスは一般人とは比べるべくもないとなれば…勇者である事を隠すのは難しいかもしれませんな。」
成程…そこを無視して押し通そうとすると、そもそも私がハンターになりたい理由を訂正しなきゃいけないわけか。嘘を嘘で塗り固めると言うのもボロが出やすくなるし…難しいか。
ぐぅ……まだ王城で話し合ってるだけの段階なのに前途多難すぎやしないでしょうか!?
このままじゃハクの言う通り、ハクの知恵抜きじゃハンターになれないって事になりかねない…
アイツに頼るのはやだなぁ…借りを作りたくないなぁ…今後何要求されるかわかんないしなぁ…
いや、わかってるけどさ。一緒に連れていけって言うのは明白なんだけどさ!
「どーにかできないもんかね…権力を使わずステータスも見せず、ハンターになれる方法。…裏口登録とか?」
「できますよ。」
ムースだった。