1章EX 至極迂闊の脳筋民族(バトルジャンキー) 2
因みにダウトと言うゲームを簡単に説明すると、通常時はカード裏にして順番に出して行くだけ。それだけなら、一見駆け引きが少ないように見えるゲームだ。だが、相手が嘘をついていると思った要所で「ダウト」と宣言する必要があり、これにより勝負性が生まれる…つまり声を出さなければかなり勝つのが難しい。
ゲームを決めた時には何の反応も示さなかったミドリーちゃんだが、カードを二山に分けてその一つを取り、私が先行だと宣言してから行った行動でようやく理解がいったらしい。
「はい、1!」
「っ…!!!」
手札二十数枚ある手札の全てを場に裏返して置いてやった。
「ダウトコールがないなら、私の勝ちだ…さあ、どうする?」
「……」
「あと5秒しか受け付けませーん。5、4、3、2、」
「だ!ダウト!」
「…ちぇー」
場に出したカードを全て自分の手元に戻し、次にミドリーからゲームを再開する。
……因みに余談だが、トランプゲームの中でもダウトや七並べと言った遊び方は、他人の持っているカードがわかるとゲームとしては成り立たなかったりする。今回のダウトで言えば、「自分の持ってないカードの残りを全部相手が持っている」事になる。つまり、そもそも二人でやろうとしても勝負にならない。
途中から気が付いたらしいミドリーは、自分の手札を何度も思い返すような素振りをながら静かにプレイして、結局最後までダウトコールをしなかった。そのゲームは結局ミドリーの勝ちで終わった。
結局それから先も、トランプ中にミドリーが口を開く事は無かったが、一つだけわかった事がある。性格はひん曲がっているようではあるが、やはりどこか幼くて、負けず嫌いで……有り体に言って子供っぽいように思える所がある。
アイテムボックスの中で、二人がどんな会話を繰り広げていたのかは知らない。一応、呼ばれれば気付けるように中の音が通るようにはしておいたけど、話は殆どささやくような声で行われていたのでほぼ聞こえてはいなかった。だが、それでも出てきた時のキーロちゃんの様子を見れば、それがどれだけ幸せな時間だったかは想像がつく程だった。
コイツは、今もまだ、私が思う「理想の妹」像にはとてもとても及ばない、評価で言うなら精々「残念妹」だ。
だが。キーロちゃんにとっては、唯一無二の妹でもあるわけで…だから。
キーロちゃんが笑うための妹であり続けるなら…たとえ腹で何を思っていようが、キーロちゃんを笑顔にする可愛い妹を演じ続けるなら、私があえてどうにかするようなことではないのかもしれない。そんな風に考えていた。
…まあ?私に危害を加えないなら…と言う話ではあるが。
だが、そのあとに大浴場があると聞いて、さあ一緒にお風呂へと言った時にはさすがに脱兎の如く逃げだした。
……そろそろ、本当の姉のもとへ返してあげるのも良いだろうと思って、追う事はしなかった。
※------------------※
和洋折衷…と言うか、至る所に和文化を取り入れた奇妙な脱衣所。
温泉とか銭湯にあるような籠に脱いだ衣服を入れると、私を案内してくれたメイドさんが持って行ってしまった。
……ほぼずっと一人暮らしで、自分で洗濯していた身としては……うん、なんだかとっても違和感。
そんな奇妙な空間を通り過ぎて来たせいで、てっきりヒノキの露天風呂でもおいてないかと想像してしまったが、どちらかと言えばデザインは洋風で、石造りの大浴場だった。
幾つかの湯船があったが、私は「勇者様は全て使って大丈夫です」と言われて通されている。……一部しか使っちゃダメな人も居るって事なんだろうか?
その中でも真ん中に位置している一際大きい湯船にまっすぐ向かった。ここだけでも100人一緒に入れそうな大きさだ。
…私は絶対に嫌だけどね。
「ふぃーー………」
護衛がどうのと言う話が始まった際はどうしようかと思ったが、たとえ無手であろうと私に危害を加えられる者など居ない。立場的にも、物理的にもだ。
なので結局、否定するたびに出してくる代替案を悉く断った。
一人が嫌なわけではないけど……。
まあ、例えばここでキーロちゃんを呼んで来てくれると言うならそれはそれで私としては嬉しいかとも思うわけだが……キーロちゃんとは仲直りしたのかしてないのか、実を言えばまだ微妙なところなわけで。
ミドリーちゃんに更生の余地があるかはわからないが、少なくともキーロちゃんはそれができると思っている。だから私は、彼女をここから連れ出す……ミドリーと引き離す、と言う選択肢を選ぶ事はできなかった。それが彼女の為になる事なのか、それともただの自己満足なのかはわからないが。
…例えそれがどちらだと思われていても、キーロちゃんに酷い事を言ったのは変わりない。キーロちゃん自身はあまり重く受け止めていないのか、あまり気にした素振りを見せなかった…わりと普通に話せはしたけれど。
何にせよ、今はそんなキーロちゃんを自発的に誘う気分ではない。顔を合わせたら何を話せば良いのかわからない。
つまる所、結局、だだっぴろい大浴場に一人で入る事になったわけで。