1章EX 至極迂闊の脳筋民族(バトルジャンキー) 1
「馬鹿、な……っ!」
それは私が異世界経験一日目にして到達した真実。
そう…。今までの人生で一番激しく疲れる経験をした、あの日の夜。
私はその時になってようやく、自分が犯した最大の過ちに気が付いた。
時間を少し遡る。
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「っふぉーーーっほう!!おほほ!ほほホホホホハハハ!!ヒヒ、イヒヒ!!」
「離れ、ひぃいい!」
見目だけが良い悪ガキで、キーロちゃんのおまけと言う認識でしかなかった少女、ミドリー。
私のイメージでは、口を開けば悪態をついて人を見下す、ラノベで言えば典型的な雑魚貴族的性格だと思っていた。そこに絶大な権力がついているせいで、正確的な部分以外でも大変面倒な存在になっていたようだけど…
だが、さっきの大怪我が治ってから、怯えたり悲鳴をあげている姿しか見ていないような気がする。大人しいのは大変結構な事だけれど。
…細かい事はとりあえずはどうでも良いかな!
なんてったって、そう、中身が最悪だとしても、私にそう言ったのだ…
私をこう呼んだのだ…!お姉様と…!!
「さあああ、キヒヒヒ…ヒヒ!い、一緒に遊ぼうね!」
「ひ、ぃいいいあああ!!」
私のすりすりを、全力でいやいやしてくるミドリーちゃん。
神様由来の人間やめちゃったステータスを持つ私の力に、非力な少女が何をどうやったって勝てるわけもない。捕まえた小動物が手の中からいやいや逃げようとする必死な姿が可愛いのと同じで、嫌がられている事が少し楽しくなって、私の頬擦りは速度と密着度が増す。
哀れ可愛いよこの美少女!
「ねえ、子供と一緒に遊べる物ってこの世界にない?」
「いやああ!やだ!離してぇええ!」
「えっと、その……」
私と、私の腕の中で暴れるミドリーちゃんとを交互に見て戸惑いの表情を見せるキーロちゃん。
キーロちゃんもすりすりしたいのだろうか?この姉妹はどうやら少し仲直りした様子だが、それでも二人の間にはスキンシップが足りない気がする。
この際、私が姉妹の付き合い方と言うのを叩きこんでやらねばなるまい!そう、これはそういう思惑があっての行動なのであって、決して我慢していた欲望が目いっぱい漏れ出ているとかそういうアレではない。決して違う。
「トランプ…と言えば、アイ様には伝わりますかのぉ?」
「トランプ、あるのか!イイネ!大至急準備して!」
「やああああ!やらないいいい!」
ほどなくメイドに先導されて訪れた、トランプの他にも幾つかの遊具が用意された部屋。将棋やオセロ、双六なんかも置いてあって、なんだか懐かしい気分になる。恐らくプラスチックでできているだろうと思われるオセロの駒と台枠を見た時にはセステレスの文化レベルとあまりにもミスマッチな気がして驚いた。
が、異世界転生モノで主人公が地球の技術流入するなんて言うのはよくあるストーリーであり、そこから考えれば別にそこまでおかしな話ではないのかもしれない…いや、どうだ?プラスチック生成ってそもそもどのくらいの技術力があればできるんだろう?うーん…。まあでも、緑茶もあったし。そもそも将棋が置いてあるし、しかも結構立派な将棋台。あ、ちなみにチェスもあったが、私はプレイできない。
暴れ続けるミドリーは、さすがに遊戯部屋への移動が終わる頃には諦めたのか静かになっていた。
逃げようとするたびに私が高速で拘束して、そのたびにすりすりタイムが発生する為、さすがにそろそろミドリーちゃんも観念したらしい。ものすごく不愉快で不満そうな顔を隠そうともせず、一言も喋ろうとせずに私とのトランプを甘んじて受け入れていた。
「はーい、私の勝ちー。みどりーちゃんは弱いなぁ。」
「……」
当然だけど、私はスキルを使わない!透視したり視点をミドリーちゃんの後ろ側に回して持ってるカードを見る事はいくらでもできるけれど!そんな事をしてもゲームとしての興がそがれるというものだ。
……まあ、もしも大金がかかった悪党との賭けゲームとかなら使うかもしれないけどね?
言葉を発しないのはせめてもの抵抗のつもりだろう。
本当に一言もしゃべろうとしない為、私は何とか喋らせようとある作戦を思いついた。
「次はダウトで遊ぼう!」