第26眼 邪眼は正しく使って下さい! の3つ目
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唯我独尊の国士無双
スキルや一部魔法等、『超常の効果を連鎖破壊する』力。
ある条件を満たした対象にしか効果が及ばない、大変限定的なスキル。
その効果があまりにも限定的に過ぎる為、汎用性に乏しいスキルと言える。
だが。
逆に言えばそれは、条件を満たしたモノに対してならば絶対的な優位性を持つと言う考え方もできるだろう。そういう意味では、私の秘策の一つだ。
何故こんな使い勝手の悪い能力を選んだのか?いや、私の思惑がわかれば誰だって理解をしめしてくれるだろう。他にも諸々の思惑はあるが、私は言うならこの為に…
『この世界中に数多広がっている勇者召喚に関わる魔法技術を、自ら足を運ぶ事なく楽して徹底的に根絶する為』にこのスキルを選んだと言っても過言ではない。
一番大事で、迅速な対応が必要な使命だとも思っていたので、最初に来た国で全てを終わらせてしまいたかったのだ。
それが、それが………
「なにが…」
部屋に留まっていた大小様々な光は爆発するような音と共に勢いよく部屋の天井をすり抜け、天空へと尾を引いて昇っていく。問題なく発動したスキルにほっと胸を撫でおろしたのは……しかし、その違和感に気付くまでの一瞬だけだった。
激しい光のせいではない、それは猛烈なめまいに似た感覚。だが正確には、めまいではない。
大切な、失敗できない、絶対にこの一度で成功させなければならないそんな場面で、取り返しのつかない失敗をしでかしてしまったような、言葉にならない衝撃。
今さっき目の前で繰り広げられた光景は、想像していたそれとは明らかに違っていた。唐突な違和感とあまりの精神的な衝撃に、刹那の茫然自失を味わう。
「なんだ、それ……」
焦燥感。この世界に来て、一番の焦り。
それは、最も想定していなかった結果。
今までテストと称して幾度となく繰り返したスキルの実験は全て、想像していた物と寸分違わぬ効果を発揮していた。
それが、ここにきて、ここ一番と言うこの場面になって、想像とは違う形で発現した。
私は今この一回で、完全に、完膚なきまでに、勇者召喚の技術を根絶するつもりだった……できるはずだったんだ!
ヤバイ。予想外、想定外、大問題、緊急事態!ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ!!!
やめろ!焦るな、でも考えろ!考えろ考えろ考えろ!!
どうする!?今からでもスキルを強制終了するか!?いやダメだ、スキルは本来強制終了なんてできる物じゃない…アイテムボックスとは違って事前に試したわけでもない。できるからと言って無理に止めればどうなるかなんて、どんな最悪な想定外が起こるのかなんて全く予想もできない。
クソッ…アイデンティティーの強制終了なんて検討してない!途中で止まるだけなら万々歳だが、二度と使えなくなるなんて事が起こるかも?そんな事になれば、もう取り返しがつかない!
だとすれば他には何がある?何ができる?スキルの問題は物理や魔法じゃどうしようもない、スキルでしか解決できない!
ならそうだ、私の持ってるスキルで使える物はないのか!?アイテムボックスはスキルには効果がないし、その4もその5もその6もスキルには………何も無い!何もできない!大事な時に役に立つのが何一つない!クソッ!
どうするどうするどうする、時間がない早くしなきゃ手遅れになるかもしれない!
「クソッ、クソッ!!!」
いや違う、そうだ、そもそも、何が起こった?
冷静に、クールになれ、焦るな、焦れば思考がループする!
順番に、行こう。
今まですべてのスキルは全て想定通りに動いた。想像した通りに動いてたはずなんだ。
『唯我独尊の国士無双』も例外じゃないと思ってたが、実際にはこれだ…。
勇者召喚の儀式に関わる情報、その中でも魔法陣に関する情報はこのセステレスから消えてなくなるはずだった。だが恐らくそうなっていない。なぜ、こうなったのか!何故、飛んで行った光の大きさは、あそこまで大小バラバラだったのか!?
いや、問題は、考えなきゃいけないのは恐らくそこじゃない。スキルは確かに発動した、発動はしたんだ。スキルが誤作動した、と考えるのは今この状況ではナンセンスだ。100%無いと言い切れるわけではないが、その可能性を追い始めると際限がないし、今までそういったエラーは一度も無く全て想定通りに動いていたし、これはミリアンが太鼓判を押した、言ってしまえば神が作ったシステムだ。そこを疑う位ならまず別の場所に原因が無いかを考えるべきだ。
可能性とすれば、私が想像していた効果にそもそも穴があったか、アイデンティティーのスキルにはなんの問題も無いが使った対象に問題があったかのどちらかだろう。
まず前提として、スキルを連鎖破壊する光がこの国以外にも飛んで行った事は今の光景を見ても明白だ。問題なのは、その効果を表す光のサイズに差があった事。逆に考えよう。どういう場合だと光に差が生まれ得る?
1、効果発動先の距離が近かった為、光が重なった。
それはない。サイズが違っても光は等間隔で出ていた。効果先がほぼ全て等間隔に配置していると言うのはまずありえないだろう。効果発動先の距離や位置は関係ないと思って良い。
2、効果先のサイズが、記録媒体等が違う。
これは可能性があるが、あまり考えにくい答えでもある。サイズは小さい物が殆ど、間位が一つ、大きい物が2か3個だった。それぞれの大きさが疎らと言うよりは、3種類のほぼ決まったサイズだったように見えたからだ。
3、効果先に問題があった。
ここに残っていたような膨大な資料は無く、そもそも他国で保管されている情報量の大小が違った為発動した効果にも差があった。まだ考えられる可能性はあるが、やはりサイズがある程度決まっていたことから考えると違和感を覚える。
……可能性はいくらでもあるように思える。しかし、それと同時に希望が見えて来た。突然の事態に頭が追い付かなかったが、こう考えてみると必ずしも失敗したとは言い難い。むしろ、光は方々へ飛んで行ったのだ。ならそれがどれだけの効果を及ぼしたかまではわからなくとも、大なり小なり効果は発動したとも言える。
想定とは違うが、意味がないわけでもない。
…ただ重ねて失敗したのは、焦る心に惑わされ、光が何処へ向かって飛んで行ったのかを見届けていなかった事だろう。
「大丈夫ですか!何かありましたか!」
部屋の中で鳴り響いた爆発音と私の叫び声とで異常を察知したらしく、ドアを叩いて呼びかけてくる声が聞こえる。
言いつけ通り、私が許可を出すまで扉をあけないようにしてくれているらしい。
気付くのが遅れるくらいに、焦って取り乱していたらしい…恥ずかしいね。
こんな姿を人に見られたくない。
「大丈夫。なんでもないよ。」
できるだけ冷静を取り繕って返事を返した。
私には情報が足りない。
私はまだ何もわかっちゃいない。
この世界の事も、魔法の事も、スキルの事も、自分の体の事さえも、何一つ知らない。
だから予想外の出来事一つにここまで戸惑ってしまう。何が原因かわからないから。
私はどうやらまず知らなきゃいけないらしい。
この力の最大限効率的な使い方を。
最も正しい使い方を。
「……やってやる…!」
安全で、正確で、最速で、快適な。
そんな私の異世界満喫ライフの為に。
気付けば爆風と共に白紙ばかりとなった荒れ放題の資料達の中、一番最初に手に取った分厚い本が潰れてしまうほど強く握っていた。
なお、本が流通している事に思い至って歓喜に打ち震えたのは、この部屋を出て半日程後になってからの事だ。
本日のミリアン一言劇場
「そっちの方が明らかに戦闘用の……っていうか、もうなんか…どうでも良いのですよー…。それでこそアイお姉ちゃんって気がしてきたのです…。」