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邪眼は正しく使って下さい!  作者: たかはし?
世界転移の邪眼勇者編
107/162

第26眼 邪眼は正しく使って下さい! の1つ目



「やあ、おはよう!」

「おはようございます、アイ様。」



 トイ・ヘイと名乗る区別のつかない二人の姉妹メイドに連れられて部屋へと入ると同時に、真っ先に目に入ったキーロへ朝の挨拶をする。当然のように返ってくる挨拶が心地良い。

 詰めれば2~30人は座れそうな大きな長テーブルに座っていたのは僅か3名。アッカー、キーロ、ミドリー。


 ……うん。並べてみると正に信号機。



「朝食をご一緒できればと思って二人を向かわせたのですが、ご迷惑ではなかったでしょうか?」

「全然問題ないよ。」

「問題大有りよ!なんでこんな女と一緒に食べなきゃならないのよ!」

「えぇー。」



 テーブルを音が鳴る程強く叩いて講義したのは、入り口とはテーブルを挟んで向こう側に居るミドリーだ。

 声と同時に椅子から立ち上がってこちらを睨みつけてくる。


 すかさず邪眼を使う。



「いいじゃんいいじゃん!昨日はあんなに仲良く遊んだじゃんお姉さまって呼んでくれたじゃーん!」



 アイテムボックスで手元に移動させたミドリーを抱きしめつつ頬擦りをしつつやわらかいそこかしこをさりげなくもんだりさすったりしていくあああああ幸せ!!



「ヒィィィイイ!イヤぁ!!」



 全力で逃れようとしてくるが幼女の細腕が出せる腕力では到底私から逃れる事はできない。

 一通りすりすりして堪能した左頬っぺたと、体にまわした手で反対側の右頬っぺたをつんつんして張り具合を確認したあたりでようやく満足感がこみあげてくる。

 解放してあげると全力で走り出し、テーブルを無駄にぐるっとおおまわりしてアッカーの後ろに隠れる。私の横を通た方が断然近いのにな?おかしいな?



「キーロちゃん、妹とのスキンシップは毎日朝晩これくらいはやらないとね。」

「え……と…………はい…参考に、させていただきます。」



 キーロちゃんの場合はここ数年殆ど仲良くできてなかったって話だし、これでもまだまだ足りない位だ。


 うーん…。それにしても、ミドリーからの呼び名が一晩で元通りになってしまった……。

 昨日はあんなになついてくれたのになぁ。沢山遊んで、沢山さわって。なのにどうして…突然距離を詰めすぎたかな?きっとそうだ。思春期の頃って難しいもんね!


 原因について考えていると、上座の次の席に座っているアッカー王から声がかかる。



「忙しいと言ってるだろう…できれば速く座って欲しいんだが。」

「アイ様のお食事はあちらに用意させていただいておりますが、どうぞ気にせずお好きなお席へお座り下さい。」



 アッカーのそれは恐らく私ではなくミドリーに対する物だが、それを聞いて何処に座ろうと考えた始めた事を察したようにキーロが助け船を出してくれた。


 因みに、キーロちゃんの言う「あちら」と言うのはいわゆるお誕生日席。俗に言う上座。つまりは一番偉い人が座る場所の事である。

 そこは既に、直ぐにでも食べ始められるような準備が整っており、キーロちゃんはつまりその準備を無下にして別の所に座るのは自由ですよと、そう言っているのだ。


 確かに自由席だと言われれば空席はこれだけあるのだ、ミドリーかキーロちゃんの隣が良い…。

 王様をさしおいて上座に座るのはもうなんか昨日からの一連のやり取りで既に慣れ始めている所もあるけど、まさか他人が苦労して用意してくれたそれらを、特に理由がない私の気分だけでもう一度並べなおして貰う………なんて事、私にはできないっ…!私にも、奥ゆかしい大和撫子の血が流れているのです!いえ嘘ですそんな物はありません。



「ここで。」



 と言う事でキーロちゃんの隣。

 


「…はいっ!」



 やっぱりキーロちゃんの笑顔を見てるとテンションが上がってくるね。


 キーロの笑顔を見ながら、思い出す。

 妹以外と…カオリ以外とこうして朝に食卓を囲んでいる事実。 

 ……品数の多い朝食、自分以外が用意した朝食。そして、カオリ以外の誰かと食べる朝食。朝、おはようを言ってくれる人。そのすべてが、記憶にある中ではこれがはじめてかもしれない。


 見た事もない、しかし魚を煮込んだらしい半透明のスープからは、食欲をそそられるおいしそうな香りが漂っていた。




※------------------※




 兄妹三人と一匹の異物が囲んだ食卓は、事務的な話題とぎこちない返事、そしてさび付いた笑いや時折響く奇声だけで彩られて、あとはただ黙々と食事を口に運ぶばかりだった。


 私語に厳しい先生が見守るなか黙って食べる給食時間のようだ。たまーにこういう気まずい沈黙を「お通夜か!」とつっこむ様を見たりするが、実際に見た親類のお通夜ですらもう少し賑やかだった。会った事がない遠縁のおじさんおばさんが異様にうるさかった事を除いても、もう少し会話と笑顔に包まれていたと記憶している。


 ミドリーやキーロちゃんともう少し話が弾むかと思ったけど、二人だけでなくアッカーもかなり落ち着かない。忙しいと言ってたし、最初は次の用事が近いから焦っているのかと思ったが、たまに積極的に声をかけようとして結局何も言わなかったり目線だけ送ったりする姿は、『2年ぶりに食卓に出て来た引きこもりに頑張って話しかけようとする気まずいお父さん』のようだった。………あれ、ミドリーって引きこもってたんだっけ?

 そして比較的会話より食事に比重を置いていたアッカーが、食べ終わるや否や席を立つ。



「それでは。アイ様はごゆっくりお過ごしください。」



 それ以上の言葉を残さずその場から去るアッカー。

 私はこの部屋から出ていく、その頼りなくも決意の籠った王の背中を見て、一つの大きな疑問が浮かび上がった。



「お前、王様の御付きじゃないの?行かなくていいの?」



 声をかけたのは、私が部屋に入ってからずっと黙って立ちっぱなしな上になんだかこちらを見つめている(ような気がする)ハク。ヤタとか言ってた役職はつまり、王様の相談役みたいな物だと言ってたはずなんだけど……

 アッカーが部屋から出て行った事は気にも留めず、ニコニコと佇んでいた。



「ご心配には及びません。本日一日、ワシはアイ様の御傍におりますので。」

「いらねぇ!」

「そんな!」



 もともと得体の知れない少女ではあったが、昨日の勇者狂いの発言を聞いて結果、私の心の中では晴れて一線を引いておきたい相手に格下げされている。

 冷静になって考えたが、冷静になってもちょっと理解できそうになかった。



「お役に立ちますので何卒!」

「おばさま…」

「あ、そういえば、昨日もおばさまって言ってたよね?」



 ハクについては王の血族だとは聞いたが、それと合わせてキーロちゃんが「おばさま」と呼んでいた事を思い出す。

 元王様かおばさんの年が離れた妹なのだろうが、顔の特徴はどちらともそれほど似ていない。一番近いのは見た目的にも年齢的にもミドリーだと言う事もあり、そこらへんは気になっていた所だ。どうやらおばさんとは仲が悪いらしいが……



「あ、はい。ハク伯母様はお父様の姉君にあたる方でございますので。」

「ああ、王様の方の………………あ?ね?姉?」



 姉?王の姉?あのヒゲメンの?ヒゲメンってどう考えてもアッカーのパパだし、40位は軽く超えてるよ?その姉?それより上?

 何を言っている?え、だってハクの話だよ?この、美幼女の話をしてるんだよ?

 …え、まじ?



「ええ。先々代からの王位継承の時も色々面倒事がございましてな。今では正式な王族ではございませんが、血のつながりで言えば………ええ、一応、クロウの姉となりますのぉ。」



 ロリババアはロリババアでも、なんちゃってロリババアじゃあない……ただの年より臭いませたロリっ子の方じゃなあない!外見だけロリで中身がガチババアの方だった……!くぅっ…、たった一つの真実が見抜けなかった!


 ミドリーは、気付けば知らぬ間に席を立っていた。

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