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邪眼は正しく使って下さい!  作者: たかはし?
世界転移の邪眼勇者編
102/162

第24眼 少女は蒼穹を駆けて下さい! の2つ目



 自分の中の優先する物の順位は変わっていないが、心変わりはあった。

 キーロちゃんについてのあれこれ。

 この国で、キーロちゃんが幸せに暮らせる為には……?

 今日この会談めいた何かをなあなあで終わらせた後は、勇者召喚の儀式魔法を壊して早急に王城を飛び出すつもりだった。必要な情報を集めながら全国を旅してミリアンちゃんクエストをこなしつつ……カー・ラ・アスノートの芳しくない噂を耳にしたら陰ながら手を貸そう、と思っていた。

 だが、ここで私がNOと言って飛び出せば、それ即ちこの国の滅びに直結すると言う。勇者と言う存在一つがそれ程重い意味を持つ等全く実感はないが、少なくともそれを本気で信じているからこそのこの提案なのだろう。

 なら実際に私がここを出立したとしてだ。この国は直ぐに混乱と戦火に見舞われるのか。出ていくつもりが、結局すぐに戻って来る事になる?寧ろ私が出ていけば問題が激化するって?なら私がここでYESと言った方が、面倒事が少ないんじゃないか?

 その方がキーロちゃんは、ここで平和に暮らせるのか…?


 この国の生き死にが私にかかっているかもしれない、と言うのは想像していた。

 だがまさか、私の行動と決断はここまで想像以上に大きな意味を持つとは、思っていなかった。

 私がこの国の事を、敵だ面倒事だと切り捨ててしまう事は簡単だし、実際それでも良いと思っている。

 それでも私は、たった一人、キーロちゃんが、彼女の妹と幸せに暮らせる日々を私が実現できると知っていてしない……なんて考えは思い浮かばないんだ。

 ましてこの国の膿を取り除いて今より少しでも彼女が生きやすい場所になってくれるなら、私は私を惜しみなく使いたいと思っている。

 …もちろん自分の身の安全と、ミリアンちゃんの用事の妨げにならない程度に、だけど。


 出された条件は、文句のつけようがなく最高。

 貰えるモノだけ貰って、あとは見殺しにしても良いし丸々太るまで育ててから収穫しても良い。

 養豚場を豚と従業員ごとタダで渡された気分だ。どうやら管理と出荷までして、私には利益だけくれるという儲けしかない儲け話らしい。そりゃあ良い事尽くめだ。断る理由がない。

 お姫様を渡す・貰うという話とはわけが違う。私の身の安全は心配してはいなかったが、クエスト攻略のための情報収集は当然個人より大人数で組織的に行う方が良い。結果的にこの話に乗って国一つ分の情報網を、情報収集力を手に入れれば、それだけ私がクエストを完了させるまでの時間がかなり短くなるはずだ。

 国云々が面倒だし断りたいとは思うが、早く帰れる可能性というのは、今の私にとって非常に魅力的な物……のはずだ。


 だが。

 だが、これは結局交渉だろう。

 この国からはこれしか出せないと言いつつ出して来た条件は、私がほぼ断る理由がない交渉。

 まして対価は求めないと言いつつ、私が自主的に国を守りたくなるような餌までありますよ、と。

 ……まあ、別に世界の半分とか、それこそどうでも良いんだけどね。

 私が手を貸す為の言い訳位には、なるかもしれないけどさ。


 私の選択肢。差し出された全てがハクの思い通りになっている気がする。

 ああ、この提案に乗っても良いかもしれないと思っている自分が居る。

 だがハク、コイツはダメだ。

 コイツは信用できない。

 私の妹センサーが反応しないこの、ロリっ子らしからぬのじゃロリババ。

 コイツの提案だと言う点。

 油断できない相手、だから何か裏があるんじゃないか。

 それだけが私の中で引っ掛かりが残っている。



「因みに人も思いのまま、と申しました通り………当然美男美女も、好きな時に好きなだけ……」

「…それで私が靡くとでも?」



 先程よりも随分ゆっくり、わざと足音を鳴らすかのように私に近づくハク。

 一瞬警戒したが、その必要が無いと知らせる為に速度を落としているのだろう。



「おお、おお。そういえばアイ様は、愛らしい少女がお好み、と仰っておりましたかな?まらば国中の乙女を全てお好きにしていただいて結構でございます……勇者様と縁を持てるなら皆喜んでその身を差し出すでしょうて。」

「!?」



 その中でいったいどれだけの数が私の妹になってくれるだろうか…………………………………………………………………い、いやいやいや!ない!ないから!こんな理由で私が絆されると思ったか!ダメだ!

 理性を強く持て…!



「あるいはこの国全てアイ様の意のまま、であれば……」



 だが、そんな覚悟を持った私の耳元まで近づいて彼女が告げた一言は私を殺す一撃だった。

 まるで鈍器で殴打されるかのような衝撃に見舞われる。



「妹君を崇める宗教国家にするのも一興かと思いますがな。」

「良いだろう!結ぶぞ、その契約!」



 脊髄から返事が出てきた。



「カハハハ!本当に、キーロから聞いていた通りのお方ですな!」



 ミリアンちゃんの名前をこの世に轟かせるのも私の使命ではあるんだけど、そして早く帰る事ばかり考えていたけど……そう、私がミリアンちゃんにできる事はそれだけではない。

 まさか国がいきなり手に入ります、なんて事態は全く想定していなかったため考えが及んでいないが、この国があれば相当色々な事ができるぞ?


 セステレス・ミリアン・ガーデゥーを崇める国。良いね!有り!

 おおおお、ワクワクして来たぞ!

 まあ口から出た言葉は決して言おうと思ってたセリフではなかったが、後悔はない。


 それにしても、「キーロちゃんから聞いていた」、か。

 私はキーロちゃんからして、どんな人物だったんだろう。気になる、けど…

 さっき彼女に、あれだけヒドイ事を言ったのだ……今は、聞きたくない。



「良い返事を聞けて今は何よりでございます。細かい話は………申し訳ありませんが、また時間がある時にさせていただいて宜しいですかな?」

「え、この後何かあるの?」

「まあ、何せ王が変わるのです、ちと急な用事が入りましてな……」



 色よい返事を出してしまった以上、これからのやり取りは一気に進むだろうと思っていたがどうやら違うらしい。

 予想を外した事もそうだが、それが大きな違和感でもあった。

 何かおかしい。



「キーロを残してゆきますので、どうぞごゆるりと。アッカー様は準備を、ここは我らに任せどうぞお先に。」

「…ああ。」

「いや、細かい話は別に後でで良いんだけどさ。そもそもまだ、そっちにとって肝心な部分が終わってないんだけど?」

「お心遣い痛み入ります。残る話を詰めるにも時間がかかるでしょう。なんならお話していた通り食事の準備でもさせますので…また後程、卓を囲んでお話でも致しましょう。今は細かい所はお気になさらずに。」

「でもさ、君ら捕虜返して欲しかったんじゃないの?」

「「っ!?」」



 元王様とアッカーに動揺が走る。

 …何故?

 そもそも私の要求がどうのってのにこうも手の平を返して来たのは、捕虜が、おばさんとミドリーを開放して欲しかったからじゃないの?

 あれだけ騒いでいたにも関わらずそれを口に出さずに黙っている元王様の態度が一番理解に苦しむ。



「いやあ、なあに、アイ様がお約束を守って下さる事は確信しております。どうぞまた後程と言う事で。」

「いや、そんなに急いでるなら………違うな。ハクちゃんよ……何を隠してる?全部、話せ。」



 ハクはアッカー王子…ではなくアッカー新王の顔を少しだけ気にしたが、その表情が変わる前にこちらに決然とした表情で向き直る。



「…実を申しますと……この国、もっと正確に言えばこの王都が……戦争状態に入りました。ワシらがこの部屋に入る、ほんの数十分程前からの事でございますが。」

「それがどうしたの?って言うか…もう戦争中だって聞いてた気がするけど。」

「この国は広く、その中でも他国との国境と…その他資源に関わる魔の森や海に接する地域では戦端は既に開かれておりました。ですが我が国の中枢であるここまで手が伸びる事は今まで一度たりともなかった事なのでございます。」

「ああ、なるほど。王都が、ってそういう事ね。」



 そういえば遠くに異様な程人が集まってきてると思ったらそういう事だったのか。

 うわぁ、あれ何人居るんだろう……

 イーグルアイで改めて見てみたけど、まるでアリの巣だ。


 思わず顔をしかめる。



「………見えるの、ですか。」

「え?あ。」



 気づくのが遅れたが、無意識に人が多い方に目線を向けてしまっていた。

 この部屋で言うと、ただの壁しかない方角だ。



「……ハハ、ソンナハズナイジャナイ。ニンゲンダモノ。」

「……カハハハハ!ええ、ええ、そういう事にしておきましょう。ええ。」

「で…だ。」



 別段スキルを隠してるわけでもないけど、流石にあまり人間離れした行動ばかりしていると、関係ない所からでも人間である事すら怪しまれて…最悪魔族だとバレてしまう。そこらへんは極力抑えて行きたいところだよね。


 そんな自分の失敗をごまかす意味でもそうだが、それ以上にひかかるこの態度。



「戦争状態になった?……それはわかったけどさ。それを私に意図的に隠そうとした理由を言えよ。手短にだ。場合によっては、この国と仲良くって前言も撤回するぞ。」



 隠している内容によっては、即座に切り捨てる覚悟だ。

 この国に存続の価値がないなら、私は最悪このままキーロちゃんを連れ去ってミドリーとの安住の地を提供してあげれば良い。

 この期に及んでまさか隠し事をされているとは思わなかったが、さてどうしよう。

 弁明を聞いてやる位に心の余裕はあるけど。




「かしこまりました!全てお話します。まず一つ目に、この戦争についてはアイ様がこの国から逃亡されるのが最善策なのでございます。何故なら、この日この時にここを狙う理由となれば、ワシらが召喚したアイ様が目当てであると言うのがまず間違いないからでございます。そして二つ目に、突然出現した大量の兵士は強力なスキルによる転移である可能性が高い……ですが敵対国にそれだけ強力なスキル持ちが居るとなればこの国に情報がないと言うのはなかなかに考え難い事実……そしてアイ様召喚に関わる日時の情報が漏洩している可能性も当然ありますが、対処があまりにも早く的確過ぎる事から…この国内に、他国に通じている物が居るのはほぼ確実だと見ております。その失態を詳らかにする事を躊躇ったと言う事もありますが、裏切者が居るこの国この城が安全だとワシらが言い切れない状況。この城に残している戦力を考えれば問題ないとは考えておりますが、ワシらが把握できていなかったスキルを持つ者が居るというこの現状を加味すれば、万が一の事態を…アイ様の身の安全を考えるので有ればここに居ていただく事が必ずしも安全ではないかもしれないとも言えますでしょう。が……なれど、それでも、しかし今それを、アイ様がこの国か出ていく事は我が国としては絶対に許容できなかった………。」



 まあそうだろう。

 何が何でもこの国に留めておきたいってのは、さっきの話を聞いて十分理解出来てるつもりだ。

 隠し事は、ほめられたことではないけどね。



「ワシらとしては最低でも愛様には、この国に半月程の滞在をして頂きたい。方々にアイ様の噂が広がるまでそれほどの時間がかかるからでございます。その前にこの国からアイ様が出て、他国との関係を築けばやはり我らの立場はそれほど厳しくなります。自他共に、ワシらがアイ様と言う勇者様と、一番の関係を築いていると、そういう紛れもない、周知の事実が必要なのでございます……。そして重ねて恥ずかしながら、今、元王妃パール・キーン・ギーン・カー・ラ・アスノートの存在は、この一丸となるべき初動の時に最も邪魔になる存在なのございます。」



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