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邪眼は正しく使って下さい!  作者: たかはし?
世界転移の邪眼勇者編
101/162

第24眼 少女は蒼穹を駆けて下さい! の1つ目

「そんな勇者あってこそという我が国が、召喚した勇者に逃げられたとなれば、王族はそれはもう面目丸つぶれ!権威も何もなくなるでしょうな!過去全ての勇者と良き関係であれたわけではございませんが、それでもまさかあれだけ大勢の前で勇者様に喧嘩腰であたり、こちらから手を出したばかりか逆に王族が容易く傷つけられ、愛想をつかして逃げられたとなれば………方々から、国の内外問わず糾弾の声があがり、瞬く間に我らカー・ラ・アスノートは世界の敵となり得るでしょう。そうなれば、まあ楽に死ねれば良い方でしょうな。つまる所、お力を借りる事が出来なければ危うさがあっても滅びるとは限らないこの国も、勇者様に見放されれば間違いなく滅びます。」



 …思った以上にギリギリじゃないですか。



「それがわかってたんなら、なんで最初ああいう出迎え方になるんだよ…」

「……時にアイ様はギャンブルはお好きでしょうか?カード等も、勇者様が好まれた物が広まっておりますが…」

「…なんだ突然。賭けでもしようって?」

「いえいえ……ですがそうですなぁ。既にこの国は、賭けをしているようなものなのですよ。とてもとても分の悪い、勇者召喚という賭け事です。」



 なんとも皮肉な言いまわしだね…



「ああ知ってるぞ、それ。私が拒否権無しの強制参加させられてる奴だ。」

「…ええ、左様でございますな。なにせアイ様は胴元。ディーラーであり商品。賭けをするのはワシらだけなのでございます故。さて、賭けを始めたは良い物の、手に入る商品は勇者という称号を授かっているが全く中身を存じない、正に未知でございます。そして参加費も莫大……始めたらもう成果無しに引く事ができぬ程に。何より、場合によってはもう一戦………もう一度勇者召喚をする必要もあるかもしれない、とすら考えておりましたが故に……。」



 そいつは初耳だ。

 勇者召喚…

 やはりそれについては、今日中に決着をつける必要がありそうだ。



「この国としては勿論全ての勝負で勝ちを拾いたいわけですが、次戦の事を考えて掛け金は極力抑えたいと、愚かな王は、考えたわけですな。なのでこう、表情と言葉でもって、口八丁手八丁で、なんとか現状のまま力ずくで勝ちを捥ぎ取ろうとしたわけなのでございます。良くも知らずに気安く手を出す、下手の横好き耳年寄りと言う奴ですな!カハハ!いやあ怖い怖い!」

「…」



 頭を下げたままこちらを見ていない王は、ただ一つ大きく息を吸って、吐いた。



「……しかしここに至り、ワシらが相手をしているのは、ブラフも何も通用しないディーラーであると思い出したわけです。そして愚かにもこれまでブラフのつもりで恫喝とレイズを繰り返し、その過程で手の内は全て曝し、気が付けば己の勝ちの目すら捨ててしまっていた………と言うのが、この国の現状なのでございます。故に、これはもう、最悪の結果をさける為だけの、負けを減らす為の賭けなのでございます。」

「…最悪?もう負け確定なら、今以上の最悪なんてないでしょうがよ。」

「ワシらの最悪…それは無効試合でございます。手の内を全て曝すと言う不利益と、博打を始める為に使った参加料…それだけを支払った挙句に試合すらできない、アイ様と関わり己があやまちから莫大な損失を国に齎した結果自らの首をしめた…と言う結果すら残らず、アイ様との関わりすら残せない。誰から見ても、アイ様がこの国との繋がりを断ち切ってしまった、と言う結果。どうしてもワシらが避けなければならないのは、それなのでございます。差し出した物がもう戻ってこないなら、ワシらができる最高の手とは、もうアイ様に……ご納得いただけるまで賄賂を渡してでも、寧ろこの身全てを差し出してでも、この試合を受けて頂く他ない。負けよりも手痛い最悪を避ける為に、際限なく泥沼に手を入れるが如く。……愚かに見えるでしょうが、元よりこの国が手を出した手段は愚かと呼ぶ以外の何物でもない行為なのでございます。どれだけ不利益を被ろうと、アイ様をお呼びした時点でワシらにもう退路はないのです。お迎えするのにかけたご迷惑と、その後の無礼失策……埋め合わせられる等と思ってはおりませんがのぉ。それでも今ワシらお返しできる価値ある物を…と出た結論が、これ、というわけでございます。」



 どんな成果があるかわからない勇者召喚に手を出してしまったからもう後には引けない。

 なのに到着した勇者は女……珠玉の間に入る前に聞いた、所謂『偽物』。ハズレクジという事だ。

 私も交渉するつもりはなかったが、どうやら相手も最初から交渉のつもりはなかったと言う事らしい。



「これが本当の、紛う事なき全部賭け(オールイン)と言う奴ですな!カッハハハハ!」



 狂った提案の正体。

 成程、何のことはない。今まで表面化してなかっただけで、つまりは最初から狂気でしかなかったわけか。

 国を賭けての博打に挑む狂人の思考は全く同意できないが、最初からズレてたその理由としては納得のいく部分もある。あえて言うなら、強硬手段から全賭け……この方針転換に至った理由が一番の理解不能ではあるのだが……目の前のハクと言う少女が国の旧王と新王を目の前にしてここまで主導権を握っている事を考えれば、私の知らない大きな動きがあったのだろう。

 あるいはこの国の実質的な頂点は、目の前の彼女なのかもしれないとすら思う。



「ああそしてアイ様。一つ言い忘れがございました。」

「まだ何か?」

「ワシらの国を守って頂ければ……と言う下心がある事は既に申し上げました通りでございます。……それ故にワシらは全てを賭ける覚悟に至ったわけでございますが……当然、これが全てではございません。」

「ああ。なら君たちは何を求めるのかな?」



 ようやくか…

 そうだね。ようやく長い前置きを経て本題。

 これだけメチャクチャな事を言って要求が無いなんて土台おかしな話だ。

 『対価』は求めないと言った。




「求めるなどと、とんでもない!何度も申し上げます通り、守って頂きたいと言うのは願いであり要求などではございません!神へ捧げる祈り、ございますよ……。なれば我々は、アイ様がこの国に価値を見出しこの国を存続するために力を貸していただきたくなるような、そのような提案をするのが本来の形。」

「いや、もうメリットについては嫌という程聞いたけどさ…」

「いえいえ。先程言った献上品。この国カー・ラ・アスノート。これはまあ言わば手付金でございます。」

「………てつけ、きん?」

「はい。今ワシらがお渡しできる最大の手付金。それがこの国。ただこの国は言った通り、アイ様のお力なしでは滅亡も目と鼻の先であるのは避けられない事実。なればこそもしこの国に価値を見出し、剰え守っていただきこの国が今より大きくなった暁には、将来差し出せるであろう全てが私共の提示できる献上品となります。」

「おい、待て、何を言ってる…?」

「今は奪われたカー・ラ・アスノート本来の領土、そして以北に広がる資源豊富で広大な魔の森。未だ開拓に時間がかかりワシらの手中と言うには憚られる場所。この国が存続できるなら、それら全てが将来的なカー・ラ・アスノートの資産と言えましょう。未来永劫全て。さあ如何でしょう?」



 またニンマリとした笑みを浮かべる。



「ワシらはいずれ、この世界の半分をアイ様に献上したいと考えております。」



 …どうやらここは王城は王城でも、魔王城だったらしい。

 目の前のコイツは、成程魔王様か。



「………随分大きく出たな。世界の半分?口でなら何とでも言えるよね。それにまあ結局、色々建前を言ったが守って欲しいと。そういう事ね。」

「いやなに、アイ様のお力をお貸し頂ければ、その程度造作もないというだけの話でございます。そうでなくてもこの国は戦争を続けますし、そうでなくとも国はお渡しいたしますのでご安心下さいませ。どうせアイ様に見捨てられれば滅ぶ国ですからな。欲にまみれた俗物の食い物にされる位なら、全てアイ様に持って行って頂けた方が気分が良い、と言うのも本心なのでございますよ。」



 先程長々と聞かされた、ハクの心の叫び。

 あれを聞いた後だとこの馬鹿げた考え方すら本心に聞こえるのが怖い。



「…例え利益だけを、とか言われてもさ。やっぱり国とか、形に残る物を渡されたって迷惑なだけだよ。私、その辺りの加減わからないし。どうせすぐ滅亡するよ?」

「勿論それで構いません。」

「…」



 ハクはわかる。

 コイツは異常だ。それはここまでのやり取りで嫌という程理解できている。

 だが何故、他に王が、王族がこの場にまとまっているのにだれ一人として反論しない?

 元王様はなんとも言えないが、少なくとも会話した限りアッカーもキーロちゃんも、私の中ではかなり常識人だと思っている。

 こんな結論に異議を唱えないのはどうかしてる。



「そして、もしも、万が一、アイ様がこの国の破滅を憂いて下さるのならば、ワシやその他この国を支えていた物が、可能な限り国を傾かせない程度の捻出を提案させていただきます。お伝えした通り、この国にある人も知識も技術も何もかもが、アイ様の為の物となるのでございます。アイ様は故に、本当に何も悩まず、欲しい物と結果を望んで下さればよいのです。どうぞ、お受け取り下さいませ。」




 私以外の全員がハクに続いて姿勢を低くした。

 「さあ、返事を聞かせてくれ」。

 そんな声が聞こえるようだ。


 私は返事に詰まる。


 ……実を言うと、だ。

 この国を守るつもりが「ある」か「ない」か。

 その問いに正直に答えるなら、私は「ある」のだ。



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