第3眼 勇者は召喚に応じて下さい! の3つ目
ちょっと待って下さい、と言ってこちらに手をかざす仕種をする。
それは、私の思考を読む、謎の女神パワーなのだ。
テレパシーのような、心の会話も女神には朝飯前らしいが、今回のはそれではない。
心で思った声を読んだり、心そのものをイメージで理解したり、なんかもう色々できるらしい。
「ああ…。時間はそれぞれの世界で別々に流れているのですよー。世界の転移でもしない限り気にする必要もないんですけどねー。」
「まあ、そりゃそうだろうね。」
「違います、違います。」
チッチッチッ、と。わざとらしい程舌を鳴らし、指もさながら、メトロノームのようだ。
「…何が?」
「今、『人間は普通そうだろうねー』って思っているのです。」
「うっ…」
そう。今はまだ、心が読まれているんだった。
「でも、違うのです。神はそもそも、世界を渡ったりしないのですよ。私は私の世界、他の神には他の世界があるのです。だから、因果担当な私は、理屈は理解していても、実際どんな感じなのか体験する事は決してない…と、そんな寸法なのですよー。」
「ふーん。へー。」
「…心の中だけで急かさないで欲しいのですよー。前置きは、ここまでなのです。で、ですので愛さんは地球の因果からは解き放たれていない現在の視点ですと、今はまだ地球と同時進行しているのですよ。アースの日本では、失踪当日の夕方ってわけです。」
「今はまだ?」
「はい。召喚の儀式を完了させるには、愛さん個人の因果を、セステレスの、召喚の儀式へと繋ぐんですが、これが終わると愛さんはセステレスと一緒の時間軸を歩み始めるわけです。」
手の人差し指と中指で、人の足が歩くような仕種をしていた。が、横に歩いていた二本の指は突然、縦の、予想もできない突拍子もない場所から歩き始める。
「ただ、アースに戻る際はアースがどうやるのかわからないですが…儀式をしている人間がいるわけじゃないのです、ですので、恐らく愛さんの因果を繋いで不自然にならない所に、好きに繋げられるはずです。」
縦歩きの指が横移動に戻ってきたが、先ほどの横移動の終点から…ではなく、横をぐぃんぐぃんしている。何処からでも歩き出せるぞ、と。
「過去でも未来でも、私が生きているはずの時間は好きに選べるって事?」
「理屈では、そうなるのです。まあ、だとしても…今回の私みたいにわざわざ意思確認で神が出しゃばる事自体異常なので…愛さんの都合とか聞かず、元の場所から再スタートって事になるだろうな、と思いますが。」
出しゃばっていると、自分で言っちゃったよ。
「とりあえず、他になにか聞いておきたい事とかあったりしますか?」
「ん…まあ、思いついたらその都度言うよ。」
「わかりました。で!ここからがビジネスの話なのです。」
「ああ、名前の布教、ね。」
「その通り!」
「ガードー」
「ガー!!デゥー!!」
「デュー…」
「…わざとです?」
「滅相もない」
名前の件は、本当に不憫だと思っている。
異世界に行くついでに、と言う程度でできるなら叶えてあげたい願いではある。
「ガー、デ、ウー」
「ガー、デ、ウー?」
「そう、その調子です!ガー、デウー!」
「ガー、デウー」
「デウー」
「デウー」
「デゥー」
「デゥー」
「ガーデゥー」
「ガーデゥー」
「ガーデゥー!」
「ガーデゥー!」
「「やあああ!!!」」
思わずハイタッチ、そしてハグ!
パーティーでも開けそうなテンションだった。