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猪澤紗千

「なんだったんだ? あの電話……」


 その女、というのは間違いなく加藤さんのことだろう。

 彼女の唐突な、告白じみた「一緒に暮らしませんか」発言の直後ということを考えると……ここ監視されているのか? それともどこかに盗聴器でもあるのか。

 薄ら寒い気分になり、窓の外を伺う。

 向かいの病棟の屋上に目を向けると人影があるような気がして、俺は部屋のカーテンを慌ててしめ息を潜めた。


 あの噴火を生き延びた俺は、ちょっとした有名人でマスコミ関係の取材なんかもしばしばやってきているらしかった。

 しかし、それらは全て病院側がシャットアウトしてくれていたため、今日まであまり気にせずにこれたのだが。

 気をつけよう、と思い、俺はベッドに身体を横たえた。


 謎の電話のあった翌日。


 それまで全然意識していなかった相手を、なんらかの出来事で急に意識し始めるということはよくあるけれど、今の俺はまさにその状態だった。


「おはようございます、調子はどうですか?」


 朝の巡回に加藤さんが来てくれて、遠慮がちにノックしながらこちらにはにかんだ笑顔を見せてくれたときから、もう昨日の電話とかどうでも良くなってしまった。


「朝から加藤さんに会えたので絶好調です」

 

 それまで俺は加藤さんのことを、異性として全然見ていなかった。そもそも彼女の最初の印象は尿道カテーテルを笑顔で引き抜いた超怖い看護婦さん、だったのだ。

 恥ずかしい&痛い、でそういう視点はもうなくなった。さらに言えば彼女は二十歳を超えていて、俺にとって二十歳を超えている社会人で年上のお姉さんというのは恋愛対象ではなかった。


「えへへ? 頭大丈夫かな?」


 昨日のことをまだ意識しているのかちょっと恥ずかしそうに笑いながら素直にディスってくる加藤さんにきゅんとする。

 よく考えてみれば俺と彼女の年の差なんて二つ三つで、高校一年の時の三年生とか超理想だったし、年上も全然アリだよね? っていうかすっごく可愛いよね? という気持ちに今はなっていた。


「そういえば、柊斗くんに面会したいって人が来てたんですけど、『猪澤紗千いざわ・さち』さんって心当たりありますか?」


 彼女が見せてくれたメモ書きに目を通す。猪澤、という漢字のイザワさんは知らない。


「知り合いにはいないですね」

「ですよね。なんだかすごく綺麗な女の子だったんですけど、きっとテレビ番組の関係とかそういうのだと思うので、断っておきますね」

「ちょっと待ってください、綺麗な子だったら知り合いかも知れないです」

「ふーん?」


 手の平をくるっと返した俺に、加藤さんは冷ややかな目を向けた。とてもゾクゾクする。


「ごめんなさい、嘘です! 知り合いじゃないですし、加藤さんの方がかわいいですよ!」

「アハハ、寝言は寝ていってくださいね?」


 照れ隠しなのかなんなのかベッドサイトに腰掛け、こちらの肩に強めにパンチを叩き込みながら笑う加藤さんと、楽しくおしゃべりをしていると、部屋のドアがガラガラ、と開かれた。


「失礼するわ」

「え?」「へ?」


 そういって部屋に入ってきたのは、黒髪ロングの美少女だった。

 正直にいうと、加藤さんよりもぶっちぎりで綺麗だった。モデルみたいなプロポーションをして、すっと通った鼻梁ときりりつりあがった目から意志の強さを感じさせる美少女。

 加藤さんはかわいい系だから比較しづらいけど、ぶっちぎりで綺麗だった。


「あ、猪澤さん!? ちょっと、ダメじゃないですか! ここは立ち入り禁止ですよ!」


 二人で呆けていたが、先に我に返った加藤さんが、慌てたように侵入者にいった。


「お黙りなさいクソビッチ」

「く、くそびっち?」


 ゴミを見るような目で加藤さんに向かって吐き捨てる彼女が件の猪澤さんらしかった。そんな彼女は、加藤さんから視線を外すとこちらをスッと見据えていった。


「藤宮柊斗、アナタの身柄は私が預かるわ。私といっしょに来なさい」


 俺は2日連続で、女の子に求愛されてしまった。

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