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カースト底辺の僕とか上邑さんとかはやっぱり分相応に黙ってるしかないのかな、ねえ?

コミュニティができた。僕を含め6人の男女混合。この間のおとなし女子の上邑うえむらさんも当然はいっている。カナタさんは含まれず、外から僕らが勝手にカナタさんを慕い、カナタさんの目に見えない防御壁を頼るという集まりだ。決起集会とか言って先日学校帰りにファミレスに集結し、なんの集まりかは告げずにカナタさんにも参加してもらった。カナタさんは訳も分からないまま、いやー、楽しい、と大喜びだった。それはそうだろう。これまでの高校3年弱を心がけ残念な輩達との論争と舌戦に明け暮れてきたのだからこういうほわほわした友達づきあいなど望むべくもなかったろう。高校生活もあと4ヶ月ほどで受験モードに突入してるけれどもせめてカナタさんを盛り上げてあげたい。

さて、中途半端な進学校のうちは受験以外のものに注意散漫となる輩が結構な人数いる。なので、カナタさんを慕うコミュニティに対しても、「キモい」という見解を示す輩達がクラスの半数近くに達しているようだ。45人のクラスでの6人、カナタさんを入れても7人というのは心もとない少数派には違いない。不穏な空気が立ち込め始めた時、コトは起こった。


「上邑、お前、ワニダ大、受けんのかよ?」

「え・・・はい、受けるけど・・・」

「バカ、受けんなよお前ごときが」

「え? え?」

「お前みたいな偏差値も低けりゃクラスでの地位も低い奴が俺とおんなじ大学受けると思うだけでやる気が失せるんだよ。どうせ他も受けるんだろ? ワニダは外せよ」

「そんな・・・一応、わたしワニダの文学部が第一志望だから・・・」

「何? 文学部なら合格しやすいってか? ワニダブランドが欲しいだけか」

「ち、ちがうよ。ワニダの文学部と文芸サークルは伝統があって過去も今も小説家をたくさん輩出してるからだよ」

「え、何お前、小説家を志望? バカ、お前みたいなズレた奴の書いた本なんて誰も読まねえよ。ていうか、いつもノートにちょこちょこ書いてるのって、小説だったのか? おい、見せろよ」


この小橋、っていう偏差値もクラス内の地位も上位の小物は普段こんな口は利かない。今日に限ってカナタさんが風邪で休みなので調子に乗ってるのだ。小橋は上邑さんのノートを取り上げた。


「なんだ、えーと・・・「僕は彼女の胸のすくような弁舌に引き込まれた。彼女の容姿だけでなく、彼女の紡ぐ言葉にも魅了されてしまった」・・・って、もしかしてカナタのことか? げー、きしょくわりー」

「やめて! 返して!」

「お前ら前からムカついてたんだよ。口だけのカナタにすがるみたいにぐじぐじしやがって。ちゃんと自立しろよクズの集団が」


上邑さんは顔を真っ赤にして泣き出す一歩手前だ。僕の体が勝手に動いた。


「上邑さんに返してあげなよ!」


そう言って僕は小橋の右手をつかもうとした。そのとたん、小橋が僕の左頬を思い切りビンタした。


「カトオの分際で調子こくなよ!」


別にビンタは痛くなかった。けれども、拳ではなく、平手ではたかれたという事実が何かとてつもない侮辱を受けたような気がした。僕がこんな言葉を使うのは分不相応かもしれないけれども、自尊心を最も効果的な方法で砕かれたような気分になった。僕はつい、泣いてしまった。


「おいおい、高3にもなって泣くか? しょーもねー奴だ」


そう言われると余計に情けなくなり、涙が止まらなくなった。


「カナタの子分はみんな学校来んなよ。イライラする」


自席に戻って俯いている僕のところに上邑さんがやってきた。


「カトオくん、ごめんね。ありがとう」

「ごめん、上邑さん。なんの役にも立たなかった。恥ずかしい」

「ううん、カトオくんは恥ずかしくなんかない。ありがとう、わたしほんとに嬉しかった。ありがとう」


僕はカナタさんが出てきても、情けなくてまともに話すことができないだろうと悲しくなった。

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