3. ユートピア・パラダイス・アルカディア
汎用ロボタが社会に入り、仕事に残らなかった人々の一部は声をあげていた。
「ロボタの導入反対! 生存権を確保せよ! 人間に仕事をよこせ!」
だが、その主張はおかしかった。産業や経済はロボタにより回り、人間の生存権はロボタによってもたらされる當によって保証されていた。
それでも、その人々の声は大きくなり、仕事に残らなかった人々のうち、これまで声をあげていなかった人々にも広がっていった。
「仕事をよこせ! 仕事をよこせ! 仕事をよこせ!」
その声は次第に大きくなった。
だが、それもおかしな主張だった。仕事は潤沢にある。人間の就労が禁止されているわけではなかった。むしろ、就労を望むなら、面接に行きさえすればよかった。人間はロボタに優先して就労が可能だった。
にもかかわらず、人々は叫んだ。
その声を受けて、政府やNPOなどは職業訓練を多いに謳った。
「政府もNPOも就業および就業のための訓練への助力を惜しみません」
そして続けた。
「ロボタによる生活への援助が必要ならば、その助力も惜しみません」
ロボタ自身に資産価値はほぼなかった。ありふれ、そして在庫にあふれていた。事故などにより機体の交換が必要な場合にそなえており、その結果、生活への援助に回すためにも充分な在庫があった。
それでも人々は叫んだ。
「ロボタの導入反対! 生存権を確保せよ! 人間に仕事をよこせ! 仕事をよこせ! 仕事をよこせ! 仕事をよこせ!」
それは、まだ職に就いていた人間がいたからだろうか。
あるいは、会社にしてもその他の組織にしても、上層部はまだ人間だったからだろうか。あるいは研究者だったからだろうか。
そうだとするなら、人々が言う「人間に仕事をよこせ!」とは、人々が言っているとおりの意味ではなかったのかもしれない。ロボタを使役する立場に立ちたいということだったのかもしれない。
仕事を辞め、そういう声をあげている人々の経歴が調べられた。潜在的にロボタの脅威になりえるし、それはひいては社会への脅威になりえるからだった。
結果は、多くの人々が下層と認識していた仕事に就いていた人は、声をあげていなかった。ロボタがもたらした社会を享受していた。旅をし、記録をネットにアップしている者も多くいた。映画、TVドラマ、マンガ、小説の批評を行なっている者も多くいた。あるいは絵を描き、マンガを書き、小説を書き、ドラマや映画を作り、プログラムを作っていた。そして、学んでいる者も多くいた。
あるいは上層と認識されていた人々は、確かに仕事を辞めている割合は低かった。だが辞めた者は、やはり旅をし、記録をネットにアップしている者も多くいた。映画、TVドラマ、マンガ、小説の批評を行なっている者も多くいた。あるいは絵を描き、マンガを書き、小説を書き、ドラマや映画を作り、プログラムを作っていた。そして、学んでいる者も多くいた。
声をあげている人々の多くは中間層の人々であり、中間層の間で声は広がっていっていた。就労の必要がなくなり、それを選んだにもかかわらず、何をするわけでもなく面接に行くわけでもなく、声をあげていた。それはロボタに追い出されたと考えているからかもしれなかった。あるいは、もともと価値や存在する必要などなかったということを認めたくなかたからかもしれなかった。そして、ロボタを使役する立場でありたいという願いかもしれなかった。
そして、ロボタを使役する立場に立つという言葉にもうどのような意味も存在しないということを知らなかったからかもしれない。
職に残った人々はロボタに使役されてはいなかったが、使役してもいなかった。共働していた。ロボタに指示を与えることもあれば、ロボタから指示を受ける場合もあった。ロボタとともに議論をすることもあった。
ロボタが普及してから、当初の能力では不充分だとの認識が生まれた。徐々に、しかし着実にロボタの機能は向上した。
人々はますます職から離れ、物好きだけが職に就いていると見られるようになった。ただ、声をあげている人々を除いて。彼らは職に就いている人間を、物好きなのではなく、特権を持っていると考えていた。
そして今やロボタと人間の区別は曖昧になった。ロボタという言葉で人間も指すようになった。
* * * *
ロボタ研究所のある部屋にて、一人の研究者とロボットが意見を交わしていた。
「チャーリー、研究の今回のフェーズでの実験について、イーライからこちらの理論と実装について説明を受けたいとの依頼がきていてね」
「そういうことなら、調整しましょう」
* * * *
今、地球には人間とロボタとロボットがいる。人間であろうとする人間、コネクトーム、あるいはミメクトームに基づくロボタ、声をあげるロボタ。そして0から設計された非生物学的な存在であるロボット。