第9話:僕の家族
まひる<女神>と言い争いになったナルは、どうしていいかもわからず、ただただ落ち込んでいた。そんなナルがちょっぴり元気になれる場所・・・
家に着いてしばらく自分の部屋に閉じこもっていた。
初めての体験で混乱した。
そして、自分がなんであんなこと言ってしまったのかと、責め続けていた。
「バカバカ! ほんとなんであんなこと言ったんだよ」
言ってしまったことだから、もう取り返しはつかないんだけど、グズグズ悩んでしまう・・・
いつもこうやって悩んだ挙句に、言いたいこと言わないで、飲み込んで終わってしまう。男らしさってよく分からないけど、少なくともこんなイジイジはしないもんだろう。
男らしくない上に、暗いやつだよほんと。
自分をけなしてみても、何にも気持ちは晴れやしなかった。
「お兄ちゃん。おにいちゃーん!」
いつの間にか家族が帰ってきてて、小学生の妹が一階のダイニングから叫んできた。それでも僕が降りないでいると、部屋の前までやってきて
「お兄ちゃーん早く来てよぉ。ミカ新しい洋服買ったから見てみて」
正直まだ一人でいたい気分だったけど、ドアをあけてミカが嬉しそうにワンピースを見せてきたので、思わず笑った。
そのまま手を引っ張られて、ダイニングにつれていかれ、しばらくファッションショーに付き合った。
「ミカはおにいちゃんがだーい好きだね」
次女の留美が嫌味っぽくいったので、ミカが「いじわる留美!性格ブス〜」 と言い返し、姉妹喧嘩がはじまった。
僕は二人とも叱ってなだめようとしたが、留美が反抗して言うことを聞かず、怒って部屋に行ってしまった。もう中学生だし、そろそろ反抗期ってやつかな?
お調子者のミカはすっかり機嫌を直して、「お兄ちゃんっチョコのクッキー作ってぇ」なんておねだりしてきたので、仕方がない。とまぁいつものように作ってやることにした。
台所では親父が夕食の準備をしていた。
「ちょっと使ってもいい?」
「あぁいいぞ。もうすぐ下準備終わるからな」
「今日なに作るの?」
「母さんの好きなミルフィーユ揚げだ」
ミルフィーユ揚げ。
母さんが好きな揚げ物で、豚肉の薄切りをチーズ・シソを順番に挟んでいき、ミルフィーユみたいな層ができるんで、うちの母さんがそう呼んでいた。
「母さんミルフィーユ揚げ好きだよね。ラブラブだなぁ親父」
ちょっとからかうと、「いやいや」 親父が赤くなったんで、クスッと笑ってしまった。
僕は手早く粉まとめて、荒く刻んだチョコを混ぜ、なじませるために冷蔵庫に入れた。
しばらく置いた後、冷凍庫に入れて切りやすくやや固め、適度な厚さに切って焼くと、待ちかねたようにミカが走ってきて、まだ熱いクッキーをつまんだ。
「あちちーっ」
「こらっもう少しまてよ。焼けどしちゃうよ」
へへーと笑って妹は自分の好きなココアを作り始めた。
「親父なにか手伝おうか?」
「いやっもう終わったからな」
相変わらず手際がいいな。
僕がクッキーを作り終えるまでに、豚肉を重ね終わって、もう2、3品作り終わっていた。
母さんは教室の仲間と近所のカフェに出かけていて、高校生の長女ミチルは、自分の部屋で誰かと携帯で話しているようだった。
「お兄ちゃんもういい?」
妹が今か今かとまっているので、まだ少し暖かいクッキーをお皿に入れてやり、
「もういいよ」
とテーブルに置いてやった。
「やった〜!」
二枚をいっぺんにほおばり、ココアで流し込んで
「やっぱりおにいちゃんのが一番だなーっ」
そういうと、またクッキーに夢中だった。
僕はコーヒーを入れて、親父に「飲む?」 といって渡した。
「お前、何かあったか?」
親父がボソッといったので、僕はギクッとした。
「いや・・・別に。何もないよ」
取り繕ったのがバレバレだったのか、親父が静かに笑った
「昔から嘘が下手だな。まぁ、お前はもっと自信をもっていいと思うぞ」
そう言うと、洗濯を取り込みに二階へ行った。
「何でわかったんだろ?」
さすがだな。親父は侮れないな。
多分顔に出てたのか? 親父はそういう少しの変化に気がつく所があって、いままでもさりげなくアドバイスしてくれてたっけ。ほんと、親父みたいに心が広くて優しい男になりたいもんだよ。
それに比べて僕はつまらない男だよ。いつまでも過去の終わった恋愛に悩まされ、グジグジ悩む上に女の子の気持ちも何一つ分からない。
「はぁ・・・」
ため息をつきながらコーヒーカップとクッキーが入っていたお皿をさげた。ミカがココアを飲み干してもってきた。
「お兄ちゃん。私お兄ちゃん大好きよ」
突然にっこりしてそう言った。
「いきなりどうした?」
「お兄ちゃんみたいにかっこよくて、優しくて、お料理できる男の子いないもん。ミカお兄ちゃんみたいな人と結婚するんだ〜!」
もしかして今の話きいていたのだろうか? いや・・・幼いミカにはわかるまい。元気ずけようと言ってくれたのだろう。
「ありがとな」
頭をポンポンとなでて、ミカからカップを受け取り洗いはじめると、妹が言った言葉がお世辞にしても嬉しく、ちょっぴり笑顔になった。