第7話:僕が彼女に出来ること
あれから数日たっても、何の連絡もなく毎日寝れないくらいになってしまったナル。自分からは何も出来ない。そう思って落ち込む日々だったが・・・
「はぁっはぁっはぁっ」
気がついたらもう家の前だった。
がむしゃらに自転車を漕いだせいと、まひるの母親からの突然の電話で口から心臓が出るんじゃないか?ってくらいだった。
「これは夢かもしれない」
そんなわけはない。実際あった出来事だ。履歴もしっかり残っているし・・・
夢ではないのは確実なんだけど、そう呟いていた。
玄関で一呼吸置いてから上がり、台所で水をグラスいっぱい飲み干した。
最近、昼も夜もまひるのことを考えてて、正直全然寝ていない。
なのに、ひとつも眠気が襲ってこないのはなんでなんだろう?
とりあえずシャワーを浴びて、まだ家族が起きてくるには早い時間だったけど、落ち着かないし、ただウロウロしているのもなんなので、朝食の準備をすることにした。
コーヒーを沸かし、まず自分で入れたてをのんだ。
「美味しいなー」
入れたてのコーヒーは大好きだ。
特に朝早くの新鮮な時間に、濃くのあるコーヒーの香りは気分をすっきりさせてくれる。
「少しは落ち着いてきたか?」
僕の忙しい心臓は、やや落ち着きを取り戻した。
冷蔵庫を開けて、次女の留美が好きな卵サンドの準備に取り掛かる。母親は年中ダイエットが趣味なので、野菜とフルーツに蜂蜜とヨーグルトを入れた特製ジュースを作った。
新聞を読み、朝のニュースを見ていると、長女のミチルが起きてきた。
「おはよう」
僕が言うと、寝起きの悪いミチルは
「おは・・よ」
とだけ言うと、ソファーにドサッと倒れこんだ。
いつもと変わらない朝。
今日は土曜日で、珍しく家族全員が休み。
それから母さん、親父、次女の留美と、たたき起こされてご機嫌斜めな三女のミカが起きてきた。
そろってご飯を食べて、映画をみてショッピングに行く話しが出たが、僕は断った。
三女のミカは残念がっていたけど、また今度ねっとだけ言って、なだめた。
家族が出かけた後、僕はこれからどうしようかとじっくり考えた。考えて考えて・・・どんなに考えてみても答えは一つだった。
それは、「彼女に会いに行きたい!」それ以外なかった。
正直になろう。僕は会いに行きたい。
それに、まひるの母親は酔っ払ってたけど、電話をかけてきてくれて、僕を信用して頼んでくれたんだろうし。
よしっ! じゃぁ僕が彼女に出来ること、何かあるだろうか?
まだ具合が悪いみたいだし、何か食べるものでも持っていこうか?
どうしようかな? しばらく考えて、とりあえず家族が病気のときに作る‘たまご粥‘ を作っていくことにして、小さい土鍋におコメを入れて、お粥くらいに炊き、卵をおとし、蒸らす間に部屋に戻って着替えた。
不思議とさっきまでの「会えるかも?」 のドキドキと違って今度は「彼女に元気になってもらいたい!」 に変わっていた。
「寝不足でひどい顔してんなぁ」
髪を直しながら、クマが出来た顔をしげしげと眺めた。
お粥のフタを開けると、ふんわりと優しい匂いが立ち上り、いい具合に仕上がっていた。
「よし!これをまず食べてもらって、早く元気になってもらわないと!」
何だかすごくやる気がみなぎってきて、玄関を飛び出すと、その気持ちが僕を知らず知らず足早にさせていた。