第4話:僕の心臓大丈夫でしょうか?
震える彼女。夕暮れになってきて心配したナル<成実>は彼女<女神>を家の近くまで送ることに。ところが口下手な彼は、せっかくのチャンスに何も話せず時間だけが流れていく。ところが・・・
2つくらい角を曲がって、僕たちは川沿いの道へ出てきた。
無言な時間が流れているけど、気の利いた言葉も見つからなくて。
これだから僕はいけないんだな。
なんて思いつつ、小さな彼女を支えて歩いている自分が、少し誇らしかった。
大したことしてる訳じゃないんだけど、彼女に頼られてる感じがして心地よかった。
彼女はというと、立って歩いてるのは僕の支える力だけって感じで、ひどく疲れているようにも見えた。
やつれているのか? 大丈夫か? ほんとに彼女が心配な気持ちでいっぱいだ。
何か力になってあげたい!
何を?
それは、今は何も思いつかなくて。やっぱり無言なまま歩いていた。
でも、こんなに一人の女の子が僕の横にいるのは、前の彼女の優菜以来だ。
優菜と付き合ってた時は、必ず左側にいたっけ。
昔の記憶が瞬間的に蘇った。
治りかけてた心のかさぶたを、また少しかきむしってしまった気持ちになった。
今は優菜のことを考えるのはやめておこう。
やがて見慣れたスーパーをすぎて、駅近くのメイン通りに差し掛かっていた。
もたれる髪から時折のぞく横顔がとても可愛く思えて、何度もこっそりみていた。
あんまり見すぎておかしいと思われないように、見たい気持ちを押さえるのに必死だった。
と、彼女が突然立ち止まった。左に小さく指差して
「ここ・・・」
かすれそうな声で言った。
えええぇーーー! ここ?
僕は予想だにしていなかった高級マンションに少し面食らった。
ここは大手の不動産が建てたマンションで、最新鋭のデザイナーズマンションとして大きく宣伝していた。
聞いた話では、値段も普通では買えない位して、芸能人なんかも住んでるらしい・・・と、地元の噂好きのおばちゃん達が、おもしろそうに話していた。
昔は空き地になってて、小さい妹を連れてきては、こっそり入って、つくしやよもぎなんかを摘んでいたっけなぁ。
いやいやっそんな思い出に浸ってる場合じゃない。
「ここでいいんだよね?」
うなずく彼女
「部屋いちばん上だから」
えっ? 部屋って?
僕は焦って聞き返した
「部屋?一番上?」
「そう。早くして」
小さい声だけど早くしてって聞こえたんで、「はいっ」とだけ答えてマンションの入り口に入った。
まさかマンションの中にまで入ることは予想していなくって、少し落ち着きかけてた鼓動がまた激しくなってきた。
大丈夫か?僕の心臓。
彼女が暗証番号を入力して自動ドアが開き、エレベーターの方へ進んでいく。
緊張で、汗がどっと流れるのを感じた。
自分がどんな顔してるのかも想像がつかなかった。
彼女はまだぐったりした様子だったので、とりあえず彼女の部屋の前まで送らないと。
部屋の前まで、部屋の前まで・・・と呪文のように心でつぶやきながら、エレベーターが刻む階数を今か今かとみつめていた。