第3話:彼女の大事なもの
突然のハプニングからコンビニでしか見ることのなかった‘午前の女神‘に出会ってしまう。そして彼女の正体が少しずつ明らかになっていく・・
「あっとっとっとりあえず落ちてるもの拾うねっ」
あわてて散らばった筆記用具やノートを手早く拾って彼女の袋に入れようとした。
「いいのっ!」
強い口調で言うと、奪うように僕の手から拾ったものをもぎとった。
「ごめんね・・」
なんだかしらないけど謝ってしまった。
彼女は焦って袋に入れようとして、また鉛筆を落とした。
よっぽど袋の中身を見られたくないようだ。だけど、犬が激しく噛んでた袋は破れかけてて土もついて汚れていた。
「よかったら、僕の買い物袋が余ってるからそっちに入れる??」
彼女はノートを抱きしめたまま強く首をふった。
なんでそんなに見られたくないのかな?あまり厚みがあるものでもなさそうだし、持ってた感じでは軽そうに感じた。
「えっと、だっ大事なものが入ってるのかな?」
あーーなに聞いてるんだ! 言いたくないものなのかもしれないし、僕にそんな聞く権利ないぞっ! バカバカ!!
「イカが・・・」
小さな声でうつむいた彼女は言った
「へ・・・イカ?」
え? イカって何のイカ?
まさか食べるイカじゃないだろ? なになに? なんなんだ?
僕はまだ出会ったパニックが収まらないうちのイカ発言に、また頭がショートしそうになった。
「イカってあのっ食べる方のイカかな?」
食べる以外になにがあるんだよ! 自分ながら嫌になってきた。
「するめ・・・」
彼女がまた小さく言った。
「あーあーーっ!するめイカね〜!!」
彼女は小さくコックリうなずいた。
あーするめの方のイカね〜うんうんっ・・
犬にどうしても取られたくない大事なもの=するめイカ?
なんなんだこの組み合わせ?
そんなに大事だったんだろうか?
でも、あんなに必死に取られまいとしてたんだし、なんだか思い入れのある‘するめイカ‘なのかなぁ?
思い入れのあるするめイカってなんだよ・・・
うだうだ考えてるうちに、彼女は抱きしめていたノートをしまい、立ち上がろうとしていた。
と! 危ない!!
よろけそうになったので、あわてて小さな体を支えた。
え? なんて細い体なんだ!
支えようと彼女をつかんだ僕の手が、頼りない細さを感じて驚いた。
最初に犬に引っ張られているのを見たときは、てっきり中学生くらいの女の子かとおもったくらい、彼女は小柄で。
でも、こんなにほっそりした子だとは、コンビニで見ている時は思いもしなかった。
なんだか急に心配になった。
ちゃんとご飯食べてんのかな?そう言えばいつもコンビニでサンドイッチしか買わない。しかも同じやつばかり。
もしかして夕飯にあれだけって事はないよなぁ?
考えすぎて、彼女をしばらくみつめてしまっていた事に気がついて、焦って取り繕ったように引きつった苦笑いをしてしまった。
変な奴って思われたな多分・・・
気がつくと、もうとっくり日が暮れてきて、周りが暗くなっていた。
こんな状態で一人で帰すわけにいかないし、暗くなってきたからなおさらだ!
「一人で歩けなさそうだし、暗くなってきたから家の近くまで送っていこうか?」
彼女はしばらく地面をみつめて、小さくうなずいた。
そっと彼女を立ち上がらせて、ゆっくり歩き出した。
方向は彼女が小さく指差すほうへ。
体と心が、沸騰寸前のやかんみたいに、ピューーと音を立てながらグングン温度が急上昇している。
彼女をつかんでる手がジンジン熱くなっちゃって、それが彼女に悟られはしないかと、気が気でなかった。