第10話:恋の病
まひるにひどいことを言ってしまった。悩むナルだったがどうするでもなく、時間は過ぎていく。どんどん彼女のことを考える時間が増えていく。
女神との一件後、数日がたっていた。
色々と考えてはみたんだけど、結局は何にもしないで時間ばかり過ぎていた。
最近は夜になると悩んで寝られないし、アルバイトに出ても女神が現れず、なんだか精神的にまいってきた。
なんでこんなに苦しいんだろう。
いつにも増して暗い自分が、重苦しい。
今日は夜からまたアルバイトがあるかと思うと、大学の講義中でも上の空で、友達の面白話も返事するだけで頭に全く入ってこなかった。
「おい! 最近どうしたんだよ!」
大学で一番仲がいい祐介が、そう言いいながら僕の頭を叩いた。
「なんだよ。別になにもないよ」
「お前おかしいぜ? ぼけーっとしてるしさ、話も聞こえてないみたいだし。なんかあったのかよ?」
てっきりアルバイト先の工藤が、女神のことを皆に話してしまってると思ってたけど、祐介が知らないって事は、まだ話してなかったらしい。
「いや、最近2番目の妹が反抗期でさ。家でも言うこと聞かなくて困ってるんだよ」
取り繕ってつい妹の話をした。
「ほー」 うなずいた祐介は腕を組んだ。
「お前んところ、女家族だから手ごわいだろうな。ま、今はそっと様子をみとくのが一番だと思うぜ」
そういうと、肩をポンと叩いた。やっぱりいいやつだ。
でもほんとのこと言わなくてごめんよ祐介。
「そういやぁ〜いや、言わないほうがいいか」
「なんだよっ気持ち悪いから言えよ」
珍しく祐介が神妙な顔つきで話し出した。
「あのさ、こないだ帰り道にお前の一番上の妹、男と歩いてたぜ。声かけようと思ったんだけど隣に男がいたからさ、ちょっとなぁ。結構チャラけた奴だったぜ。お前んとこは三姉妹とも可愛いからさ、変な虫つかないように気をつけろよ」
「 え?ミチルが?」
「そう。ミチルちゃんだったよ」
・・・やっぱり聞かなければよかった。心配事がまたひとつ増えてしまった。
薄々彼氏がいるなとは思っていたんだけど、ほんとにいたんだな。
まぁ、いても不思議じゃないんだけど、祐介が言う「チャラけた奴」 ってのが嫌だな。
何事もなければいいけど。
「ありがとよ」
「ミチルちゃんさ、やっぱ付き合ってんのかな?」
「今度聞いてみるよ。前からこそこそ誰かと携帯で話してたからな」
「そっかぁ・・・まぁ、可愛いから男がほっとかないかー!」
そう言うと、「はぁ〜」 と祐介がため息をついた。
祐介は大学へ入って仲良くなったんだけど、気が合うしおもしろい奴で、カッコイイのに、それを鼻にかけないのが、また女の子を引き付けているような感じで。
遊んではいるけど、彼女を作らないのがずっと不思議でしょうがなかった。
「お前どうして彼女作んないの?」
いきなり言ったので、祐介は少し驚いていたが、
「なかなかね。好きな子にはさっなかなか気持ち出せないんだよ」
そういってちょっぴり悲しそうな笑顔を作った。
「お前こそだよ! なんで告白される端から振るんだよ。カッコイイのに女の子は誰も相手にしないってんで、女子の間でゲイ説が出てたぜ」
「おいおい。ゲイはないよ。普通に女の子が好きだってば」
「お! 誰か好きな人いんの?」
「いやっそれは・・・」
僕の目が一瞬泳いだのを、祐介は見逃さなかった。
「嘘がつけない奴だな。まっ気が向いたら教えてくれよ」
そう言うと、それ以上は追求してはこなかった。
好きな人。
そう聞いてすぐに女神が浮かんだ。
やっぱり頭がまひるに占領されつつある。
会えなくなってからと言うもの、毎日明らかにぼんやりしている。
最近は特にひどい。
授業中はノートに コンビニ・女神・まひる って無意識に落書きしていたし、昨日は帰りに考えている間に溝に落ちたうえに、猫にひっかかれた。
僕はバカになったのかもしれない。
数日前まで心で格闘していた、恋愛恐怖症の僕は、今はどこかに閉じ込められてるみたいで、まったく登場しない。
登場しないどころか、ますます彼女を思う僕が占領してきて、何かがのどに詰まったような重い毎日を過ごしていた。