第1話:愛ってなに?
午前0時
今日もあの子がコンビニに入ってきた。
いつものように僕を2・3度チラチラっと見てから、サンドイッチを片手に雑誌を選ぶ。
散々手にとって・・でも買いはしない。雑誌を読むふりをして、ウロウロ30分は粘って帰る。
流行りに流されたな感じもなく、どちらかといったら自然すぎるくらいで、長い髪の毛からのぞく顔は、スッピンなのにびっくりするくらい可愛らしい・・でもちょっと挙動不審なのが気になるけど、それもなんだか可愛く思えて。
必ず僕のレジに並んで、目が合わないようにタイミングを計りながら、僕を見てる。
自意識過剰? なのかなって最初は思ったけど、こう半年も続くとそうだって確信してる。
彼女と話したい!
もっと知りたい!
そんな気持ちは毎日募る。だけど、僕も話しかけられずにいて・・・毎日目が会うだけで、幸せだった。心の中では、何回も何回も話す練習してみたけど、無意味に終わってる。
「はぁ〜情けね〜」
仕事終わりに毎日つぶやいては、明け方の漫画喫茶に向かった。
学校が始まるまでは、こうやって時間をつぶしてる。大好きな漫画を誰にも邪魔されずに堪能できるし、眠ければソファーで横にもなれる。
僕の大好きな時間の過ごし方。
のんびりソファーで横になってボーっと人生を思い返してみた。
一度だけ本気で好きになって付き合った女の子がいた。優菜ちゃんって名前どうりの優しくて、よく気がつく女の子。
大学に入りたてで、仲良くなった友達の同級生。何度か皆で遊ぶうちに告白されて、付き合うことになって。
もしかしてこれが愛してるって気持ちなのか? と自分でも心が毎日高鳴ってた。彼女を思うだけで寝れなくって。毎日電話やメールをした。
一途な気持ちが楽しくて、優菜ちゃんの喜ぶ顔が見たくて、それが生きがいになってた。
そして、付き合って3ヶ月目
彼女の誕生日が近くなってきた。
前から雑誌で彼女が可愛いって言ってたネックレスを買おうと、こっそりラブホテルでアルバイトを始めた。
ラブホテルって僕は行ったこともなくて、正直暗いイメージがあったんだけど、内装なんかもデザイナーがデザインしたものらしく、言われなければラブホテルなんてわからないくらい綺麗で。芸能人やお金持ちそうなお客さんも多くて、給料もよかった。
「この調子じゃ、ネックレス以外にも指輪なんかも買えそうだな」
はりきって働いていた。仕事は結構厳しくて、最初は辛いなと思ったんだけど、掃除のおばちゃんや、先に働いてた先輩なんかとも仲良くなり、わりあい楽しく働けるようになってた。
そんなある夜
彼女とデートしてた僕は、彼女を駅まで送って、「もう寝るから」なんて彼女に言いながらいつものようにアルバイトに出た。
下見したネックレスのお店のカタログを見ながらニヤニヤしてしていた。彼女が欲しいって言っていたネックレスに○印を付けて、彼女に渡す瞬間を毎日想像したりして。
今日は土曜日って言うのもあって、宿泊時間前にも関わらず、沢山のカップルが入ってきていた。
「あーもう今日もいっぱいだねぇ〜」
掃除のおばちゃんも忙しくなるのを予想して早めの準備にいそしんでいた。僕もそろそろ受付交代の時間なので、カタログをしまって休憩室を出た。
受付に入るなり「あっみてみろよ〜あの子また来たぜ!!」
前々からアルバイトしていた先輩が、カメラ越しに言った。
先輩は前から働いてて、女の子に目がなくて、いつも可愛い女の子の話ばかり。お客でも女性のことだけは毎日かかさずチェックしていた。
「またかぁ〜」
ほんと女に目がないなーと、僕も苦笑いしながらふと目をやると・・・
50代半ばのお金持ち風のおじさんの隣に、すらっと背の高い若い女性。
あれ?
「えっ?優菜!!」 思わず声が出た。
その女の子は優菜に見えた。いやっ多分見間違いだ! 映るカメラを必死に目で追った。
「もしかして、あの子知り合い? なら注意したほうがいいぜ! 若いのにいつもおやじと入ってくるからさー絶対援交だぜー。可愛いのにもったいないな〜援交するなんてちょいキツイぜ。」
先輩の言葉を全部聴き終わるまでに、気が遠くなるのを感じて、ガックリと椅子にうなだれた。
背の高い若い女は優菜に間違いなかった。
ダメ押しに、先輩がおもしろがってアップに見えるアングルでも見せてくれちゃったりしたので、間違えようがない。
先輩によると、ここ最近は来ていなかったが、以前はちょくちょくお金持ちっぽいおじさんと来ていたらしい。
人生が終わった・・・
そんなショックと絶望感
それ以来アルバイトも辞めて、彼女とも連絡を取らなかった。いやっ連絡とる勇気がなかった。あっさりしたもんで、彼女から連絡してくることは全くなかった。アクセサリーのカタログ はビリビリに破いてやった。
毎日泣いて顔が腫れていたので、大学の友達は心配したが、いっさい理由は話さなかった。
僕は彼女にキスさえ出来ずにいたのに。
それがいけなかったのかな? なんて何度も後悔したけど、もう後の祭り。でも、何度も何度も抱きしめてキスしたい! と思ったんだけど、彼女にふれたら壊れてしまいそうな気がして出来なかった。
それだけ大切に思っていたのは間違いない。
「もしかしてフラれて泣いてるとかー? 信じらんな〜い時代遅れな男〜!!」
高校生の妹には笑われた。
僕は、それ以来、女は信じない事を心に決めた。
大学では友達が「コンパコンパ!」 と騒いでるのを尻目に、どんなに誘われても参加しなかったし、告白されることもあったけど、全て断った。
友達は「お前! もったいないな〜」 なんて言ってたけど、正直興味すらわかなかった。
知りたいとも話したいとも思わなくて。
「女は裏切る生き物」 そんな言葉の釣り針が心にグッサリ食い込んでて、取れる様子もなかった。
そんな僕が、何故か最近気になる女の子。
毎日午前0時にコンビニに現れる、不思議な子。
午前の女神・・・なんて勝手に呼んでいた。
彼女が現れると、とたんに心が明るくなってくる。今の僕には女神のようだなって。言葉に出すと恥ずかしいけど、心の中だから平気だ。
友達には絶対秘密。
言ったらばかにされるだろうし、僕が女の子に興味がないって勝手に気をもんでたりするから、バレたらやっかいだ。
女の子に興味がなくはない。もちろん僕だって恋愛したい。愛したいし愛されたい。ただ、信じるのが恐いだけ。もう傷つくのはまっぴらなんだよ。
見てるだけなら彼女は裏切らない。そしてー傷つくこともないから。