第7話
「あ! ごっ、ごめんなさい!」
リリィは摘んでいた手を慌てて離すと、レオンは頬を手で摩った。
しかし、その顔は嬉しそうに笑っていた。
「これは面白い……とても面白いよ!」
「レオン様」
「ん? 黒曜なんだい?」
傍でずっと見ていた黒曜はレオンの名前を呼ぶ。
「レオン様の発言からにして大体は予想がついていますが、私にも詳しいご説明を」
「あぁ、そうだったね。君も混乱してるだろうけど大丈夫?」
レオンはリリィに優しく声をかけた。
「は、はい……」
リリィが小さく頷くと、レオンはソファーに背を預け座り直し黒曜にも説明するように話し出した。
「じゃぁ、軽く説明するね。まず、霊体は体の魂なんだ。霊体になると、普通はこちらから触れることもそちらから触れることも出来ない。でも、君は僕に触れることができた。だけど、僕からは出来なかった」
「つまり、彼女は異例ということですか?」
黒曜の質問にレオンはコクリと頷く。
「そうなるね。念力みたいな力で物を動かせたり出来る霊もいるんだけど、これはそういう類の力ではないみたいだ」
レオンの言葉に、リリィは透けている自分の手を見下ろした。
「一体、私は……」
「君にも僕にも分からないことが、今の現状沢山ある。その為の研究だよ。どう? この屋敷に居てくるかい?」
「…………」
リリィは顔を伏せながら悩んでいた。
彼と元の体に戻れるようにしていく未来か、それとも、もう今世では終わりにする未来かを。
すると、「あ、そういえば」と、突然、思い出したかのようにソファーから立ち上がったレオンは、執務机の引き出しをなにやら漁り始めた。
しかし、リリィはそんなことは気にも止めずに、ずっとどうしようかと考えていた。
(元の体には戻りたい……。だけど、戻った所で……私は……)
「あったあった。ねぇ、君、手を出してくれるかい?」
「え?」
リリィは俯いていた顔を上げる。いつの間に隣に来たのか、リリィの隣にはレオンが座りレオンは楽しそうな表情で微笑んでいた。
リリィはレオンに言われるままに右手を彼の前に差し出す。すると、カシャンという音が聞こえた。
「あの……これ、何ですか?」
リリィは自分の腕に付いているソレを見る。ソレは金で出来た細い腕輪だった。
レオンはにこやかな笑みを浮かべる。
「これはね、僕の信頼するお店がくれたアイテムだよ♪」
「……はぁ」
リリィは曖昧な返事をすると黒曜が「あぁ、それは例の……。まぁ、それを使うとは思っていましたし、拒否権なんて無いのも分かっていましたけど」と、言った。
リリィは黒曜を見ると、自分の腕に付いている腕輪を見る。
「え? え?」
混乱しているリリィにレオンは腕輪についてリリィに説明をし始めた。
「これはね、ある〝術〟が掛けられていて霊でもこれを身につけることができるんだよ。そして、これは腕輪を付けた者――つまり、僕にしか外せることができない。僕が付けているこの指輪と同調して、呼び寄せることも出来る便利な幽霊アイテムだよ♪」
そう言いながらレオンは自分の人差し指にはめている金色にアメジストの宝石が埋め込まれている指輪をリリィに見せた。
リリィは口をあんぐりと開け、呆然とレオンが身につけている指輪と自分が身につけている腕輪を交互に見ると「えぇぇぇ!?」と、驚きの声を上げた。
もはや、何度目の驚きの声なのかもわからない。
レオンは驚くリリィの姿に「あははっ!」と、笑っていた。
「笑い事じゃありませんっ! 早く外して下さいよ!」
「それはできないなぁ。黒曜も言ったでしょう? 拒否権なんて無いって」
「そ、そんなぁ……」
(なら、悩んでた私が馬鹿みたいじゃない……)
落ち込むリリィとは反対に、レオンは嬉しそうな表情でリリィを見て「これから宜しくね、麗しの幽霊姫♪」と、リリィに向かって言ったのだった。