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第4話

 青年は客室に入ると、天蓋付きのベッドの上に優しくリリィの体をそっと寝かせた。


(割れ物でも扱ってるみたいな感じね)


「ふふっ。誰かに大切に扱われた事なんてあまりないから、何か嬉しいわ」


 リリィは口元に手を当てクスリと笑う。すると、傍にいた黒曜がリリィの体を一瞥した。


「それで、この女性は誰なんですか? 見たところ、着ている物は嫁ぐ際に着るドレスに見えますが……まさか、(さら)って来たんですか?」

「そんなわけないじゃないか。ははっ、黒曜は面白いね」

「…………」


 睨むように主人を見る黒曜に、青年はふわりと優しい笑顔を浮かべた。


「彼女はね、森の中――崖の下に落ちていたんだよ」

「だから拾って来たと?」

「うん、そう♪」


 まるで子供みたいに無邪気な笑顔を向ける青年。

 それを見た黒曜は、眉間に皺を寄せ苦い顔をした。


「あのですねぇ……犬猫じゃないんですから。先程も申し上げましたが、変なものは簡単に、そうやって、持ち帰らないでください」


 一言一言に強調を付け、黒曜は冷静な表情で青年に言った。

 青年はそんな黒曜に苦笑いをしながら「相変わらず、言葉に容赦が無いなぁ」と呟く。


「それは、レオン様がそういうお気楽な性格をしているからです」

「レオン? この方、レオンっていう名前なのね」


 二人の会話をずっと聞いていたリリィは、青年の名前を初めて知り、ふと何かを思い出そうとした。


「ん? レオン……レオン……どこかで聞いたような」


 腕を組んで考えるリリィ。その頃、黒曜とレオンは話しを続けていた。


「話しを戻しますが、彼女はいつお目覚めに? いつまでも、ここに居られると困ります」

「あぁ、そのことだけど、彼女は起きることはないよ」


 ニコリと微笑むレオンに黒曜は少し驚いた表情をした。


「というと、まさか――」

「うん、そのまさか♪」


 どうやらレオンは黒曜の言いたいことがわかったらしい。黒曜が最後まで言葉を言いきる前にレオンは返事をした。

 レオンの返事に黒曜はまた深い溜め息を吐く。


「……はぁ。本当に貴方様にはほとほと困りますね……。まぁ、落ちていたという単語で(おおむ)ねの予想はしていましたが」

「え、そう? 有り難う♪」

「褒めてません」


 肩を少し落としレオンに呆れた表情でいう黒曜は、気を取り直すように眼鏡をクイッと上げる。


「ということは、また、剥製(はくせい)ですか?」

「え!? は、剥製!?」


 さっきまで考えていたリリィは異様な言葉が耳に入り、慌てて二人を見る。そんな驚くリリィのことは知らず、黒曜は話を続けた。


「それとも、黒魔術の生け贄ですか?」

「い、いい生け贄!? 黒魔術!?」


 驚くリリィと反対にレオンは誰もが魅力しそうな微笑みでリリィの体を見た。


「ふふ、今回はそんな事しないよ。だって、彼女……まだ、生きているからね」

「生きて――えぇぇぇっ!?」


 レオンの突然の言葉にリリィは淑女らしからぬ口を大きく上け、驚きの声を出した。

 リリィは自分の霊体を見る。幽霊だからか、足はなく、体はやはり半透明のまま。リリィは自分のこの状況がわからず、その場で慌てふためいた。


「え、え!? なら、ここにいる私は何!? 私は誰!? 私は、リリィよね!? ……う、うん……落ちた時の事も覚えているし、問題無いわ。よし! 私はちゃんとしたリリィよっ! 大丈夫!」

「くっ……ふふふっ……」


 レオンはまた下を俯いて肩を震わせると黒曜は呆れた様子でレオンを見る。リリィは〝黒魔術〟〝剥製〟という言葉にピンと来て、中々思い出せなかったことをようやく思い出しハッと我に返った。


「ま、まさか……レオンって、あのレオン伯爵!? 狂伯爵と言われる方!?」

「ピンポーン、大正解」

「…………え?」


 リリィの言葉にレオンが返事をしたため、リリィは呆然とした表情でレオン見つめていた。


「……え? えっと……目が合っているわよ、ね? こっちを見ているわよね? え? え?」


 リリィには訳が分からなかった。

 レオンは完全にリリィの方を向いて返事をし、しかも、今はバッチリと目が合っているからだ。

 リリィはニコニコと笑っているレオンを震える手で失礼とわかりながらも指をさした。


(も、もしかして……)


「あ、貴方……私が見えているの?」

「そうだよ♪」

「やはり、居ましたか。……はぁ」


 楽しそうに微笑んでいるレオンとは正反対に黒曜は呆れた様子で溜め息を吐く。リリィは、レオンの言葉にワナワナと口を開き「えぇぇぇ!?」と、また驚きの声を上げた。


「その反応とてもいいね♪」

「相変わらず、嫌な性格をしていますね。レオン様」

「そう?」


 黒曜と話をするレオンにリリィは慌てて話に割り込む。


「ちょ、ちょっと待って! なっ、なら、今までの私の言葉を全部聞いていたの!? 聞こえていたの!?」

「うん、そうなるね♪」


 その言葉にリリィはまたもや呆然とし、そして段々顔が赤くなっていった。

 リリィはレオンから顔を逸らし、挟み込むように頬に両手を当てる。


「……嘘。私、誰も聞いていないし、そもそも聞こえないと思ったのに……」


(う~、恥ずかしいぃ~!)


「もう、穴に埋まって死にたい気分だわ……」


 そう小さく呟くとリリィはガクリと項垂れた。

 すると、レオンが優しい笑みを浮かべ「大丈夫。君は、死んでいるのと同じだから」と、リリィに言った。


「…………」


(嬉しくないわ……全然、嬉しくない……)


 ジト目でレオンを一瞥すると、リリィはまたハッとなった。

 レオンの言う言葉に疑問を持ったのだ。


「って、ちょっと待ってください! 死んでいるのと同じ? それに、さっきも生きているって言ってたし……一体、どういう事なの?」


 リリィは苦い顔をしながら骸と思っていた自分の体を見る。


「そもそも、どうして貴方には……えっと、フリート伯爵様には私が見えているんですか?」

「そうだねぇ。どこから話そうか? とりあえず、座って話そうよ」

「では、私はお茶の用意をしてまいります」


 そう言うと、黒曜は長話になりそうだから飲み物の用意しに部屋を出て、レオンは客室を出て自分の自室へと向かった。

 扉を開けながらレオンはリリィに声をかける。


「こっちだよ、おいで」


 リリィはこのよく分からない状況を理解したいため『狂伯爵』と言われているレオンの後に着いて行き、部屋を出る際、リリィは眠っている自分の体を最後に少しだけ振り返りチラッと見たのだった。


(一体、何が起きているの?)


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