第3話
周りから遠巻きにされる日々と〝変わり者〟と言われ続ける日々のことを思い出していると、いつの間にか馬の脚は止まっていた。
「あら、着いたのかしら?」
リリィは青年の背中から、ひょっこりと顔を出すと目の前の光景に少し驚いていた。
リリィの目の前には、それは立派な大きなお屋敷が建っていたのだ。
「……なんて、立派な屋敷なのかしら」
そう小さく呟くと、屋敷の入口にある正門がゆっくりと開き始めた。
青年は無言で馬の脚を進める。玄関前まで来ると青年は馬を下り、馬番に馬を預け、リリィをお姫様抱っこで抱え屋敷の中へと入った。
勿論、リリィも宙に浮きながら青年の後に着いて行く。
青年は片手で扉を開け屋敷に入る。リリィも一緒に入ると、リリィは辺りをグルリと見回した。
「……すごい」
既に空は薄暗くなっているのか、廊下のあちこちに燭台が灯されている。
そして、廊下には深紅の絨毯が敷かれていた。
広いエントランスに天井には見たこともないような壁画が描かれていた。
まるで絵本にあるような豪華なお城やお屋敷のようだった。
「わぁ~!」
リリィが感嘆の声を発すると黒髪の執事が現れた。
年は青年と同じか少し下にも見える。黒髪の青年は主に頭を下げた。
「おかえりなさいませ」
「あぁ、黒曜か」
「こく、よう?? 聞いたことのない発音に名前ね。外来人なのかしら??」
リリィは見えないことをいい事に、黒曜を近くでマジマジと見つめる。黒髪に黒い瞳――いや、茶色だろうか? どっちつかずな瞳の色だった。
そして、顔は端整な顔立ちで銀縁の眼鏡をかけた黒曜は、リリィから見ると冷静沈着で真面目な性格に見えた。
「でも、こういう一見クールな人に限って、意外な一面があるのよね。本ではいつもそうだったわ」
リリィは本人の目の前で言う。無論、リリィの言葉は誰も聞こえていない。
だからこそ、レディーでもこうやって思っていることを口に出すことができるのた。
「……くっ」
「???」
黒曜とリリィは、二人して首を傾げ青年を見る。リリィは俯いて肩を震わせている青年に近寄り、心配そうな表情で青年に声をかけた。
「なんなのかしら? ねぇ、どうしたの? 具合、悪いの?」
まるで、子供に問いかけるみたいに言うリリィ。すると、黒曜が小さな溜め息を吐いた。
リリィは今度は黒曜の方を向を首を傾げる。どうやら、二人にはお互い何を考えているかわかるらしい。
しかし、リリィには何がなんだか分からず、青年と黒曜を交互に見ていた。
「貴方に何が見えているか知りませんが、それよりも――」
黒曜は青年の腕に抱かれているリリィを睨むように見つめながら言う。
「なんですか、それは? 全く貴方は……そうやって、直ぐ変なものを持ち帰って来て……やれやれ……」
悪態を付きながら眼鏡をクイッと上げる黒曜に、リリィはムッとなる。
「なっ、何よ、その言い方! まるで、私が変みたいな言い方止めてよね!」
(まぁ、死体を持ち帰ってくる人って確かに変だけど……)
黒曜の言いたいこともわかるリリィは少し気まずい気持ちになる。すると青年が天上にぶら下がっているシャンデリアを見つめながら「ん~、ちょっとね」と、なにやら訳ありそうなことを呟いた。
「それより、彼女を早く寝かせてあげたいな」
「はぁ……わかりました」
そう言うと、二人はは深紅の絨毯の上を歩き始めたのだった。