愛、失恋。
〜〜〜♪
「あ、やっとメールきた」
杉山奈々の携帯に、個別に設定していたメールの着信音がなる。
杉山奈々・・・・中学一年生になったばかりの彼女は、長年やっている合唱のクラスが変わった。その時に出会ったのが、
「悟、アイツ、どんだけ忙しいのよ・・・」
大沢悟。同じ中学一年生で、クラスが変わった際に同じになった人だ。
自己紹介の時にアドレスを交換し、メールをするようになってからはや3ヶ月。
奈々は、わざわざメールの着信音とランプの色をほかの人と変えて、悟からのメールを待つようになった。
しかし、悟からのメールはランダムで、朝早く来る時もあれば、夜な夜な来る時もあった。
それでも、奈々は悟からメールが来ることが嬉しくて、たとえ寝ている最中でも、起き上がってメールを返した。
しかし、内容はとても淡白なもので、「そうだな」や、「確かに」といったようなものばかりだった。
けれど一度顔を合わせると、「この前、こんなことがあった」ということや、「俺が好きなアニメがなー、」というように楽しそうに話してくる。
奈々はこんな悟に少しずつ、少しずつ、惚れていった。
そんなある日。
「奈々、今度遊びに行かないか?」
悟から遊びに誘われた。
奈々はびっくりした。まさか悟から「遊びに」という単語が出てくるとは思わなかった。
それも一緒に。
奈々はもちろん、と即答した。
そして数日後。
悟に誘われた日になり、奈々は出かける準備をした。
いつもより念入りに髪をとかして。
いつもより真剣に洋服を選んで。
いつもより少し高めのヒールを履いて。
少し早く、家を飛び出した。
待ち合わせ場所にいくと、まだ悟は来ていなかった。
「流石に少し早かったかな?」
そうつぶやいて、周りを見渡すと
「奈々っ!」
遠くから悟が手を振りながら走ってきた。
そんな悟の姿に自然と奈々の顔がほころび、手を振り返す。
「すまん、待ったか?」
「ううん、まだ来たばっかだよ」
「そうか、良かった」
「そういえば、どこに行くの?」
奈々は悟からまだ行き先を聞かされてなかった。
「あか、オペラだ。いい勉強になるからな」
「あぁ、そういうこと」
オペラは独唱、合唱、管弦楽などで構成され、合唱のいい勉強になるのだ。
これで、悟が奈々を誘った理由がなんとなくわかった。
「じゃあ行くか」
悟が進み始める。それを追いかけるようにして奈々も歩き始めた。
会場は5分位のところにあった。
開演までは少し時間に余裕がある。
悟と奈々は席に座っていつもどうりいろいろな話をしていた。
そのうちに、手をぎゅーなんて握りあったりとじゃれ始めた。
すると、
びーーーーー と、開演の合図が会場内に響き渡った。
「お、始まるぜ」
悟は前を向いた。手を握ったまま。
「え?何?どうなってるの、これ」
奈々と頭は一気に混乱状態になった。
壇上では知らない人が何かを言っている。
「と、とりあえず、離さなきゃ」
奈々は、そっと手を離そうとした。すると悟は逃がすかとばかりにぎゅううと、強く握ってくる。
「え?なに?今なにが起こっているの?」
そんな調子で2時間の公演はあっという間に終わった。
しかも悟は公演が終わった瞬間、あっさりと手を離したのだ。
もうわけわからん。
その夜は、ずっとベットでうずくまっていた。
まだ手の感覚が残っている。
じぃっと手を見ていると熱くなった。
「バカみたい」
呟いて、目をつぶっても全く眠れない。
そのうち、朝になってしまった。
次の合唱の授業の日。
「この前は、ありがとう・・・ありがとう?」
「この前は、楽しかった・・・楽しかった?」
なんていろいろ言いながら教室に入った。
すると真っ先に目に飛び込んだのは悟だった。
「あ、悟、この前は・・・」
「この前はありがとな、奈々」
「あ、うん、こちらこそ」
悟はいつもどおりに、普通に、合唱たいけいに並んだ。
そして授業が終わったあと。
奈々は前々から気になっていることを訪ねてみた。
「そういえば悟って、彼女とかいないの?」
聞くのは、とても怖かった。
でも、あのオペラに行った時から、あの手を握られた時から。
聞きたくて聞きたくて仕方なかった。
でもきっといないだろう。
きっと。
そして結果は。
「あぁ、いるよ」
勝手にいない、と言われると思っていた奈々は目の前が真っ暗になった。
いや、真っ白だったかもしれない。
正直、よくわからない。
じゃあ、あの手を握ったのは結局いつもどおりのじゃれあい、だったのだろうか。
「へぇ、意外」
「いつから付き合っているの?」
口からはなんとも思ってないような言葉が次々と飛び出す。
しかし、その声は若干震えていた、かもしれない。
「じゃあもうわたし、帰るね」
逃げるように足早に家に帰って、ベットに飛び込んだ。
わからない。わからない。悟の心が。そして声が震えていた。気づかれていたかもしれない。気づかれていたらどうしよう。次に会うのが恐い。
次の週から奈々は合唱の授業を休みがちになった。
笑顔を保つのがやっとだった。
悟が喋っていたら、適当に笑ってやり過ごした。
だから、知らなかった。
悟が。悟が・・・・。
夏休みまえ、最後の授業。
奈々は2回ぶりに合唱の授業に行った。
悟の姿は当然のごとくそこにあった。
「久しぶり」
「そうだね、それよりも悟・・・」
最近では日常になっている、ココロを隠す笑顔。
悟にはこのココロの中身を感づかれちゃ、いけない。
それでも一秒でも長く、一緒にいたくて。
なのに、悟の口から出てきたのは、意味のわからない、事実だった。
「俺、この授業が最後なんだ」
え?最後?最後って何?意味が、わからない。
「奈々、どうしたんだ?先生も言ってただろ?」
「あぁ、そうだったね。そんなこと、言ってたね」
声の、体の、震えが止まらない。
やばい、泣きそうだ。
それでも、私はいつもどおりの言葉を紡い出す
「まぁでも、楽しかったよ、ありがとう」
そう、いつもどおりの口調で、淡々と。
私は最後まで、素直になれなかった。




