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カナリア  作者: みえさん。
Story5 太陽が堕ちる日(1)
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Story5 太陽が堕ちる日(24)

    24 意思の力




「!?」

 カナリアは振り返った。

 妙な気配がした。

 今まで感じたことのない強い魔力。それはトーアで出会ったネセセア神の纏う威圧感にもよく似ているが違う。

 深い暗黒の気配。だが、それは消して邪悪では無かった。

「どうしたんですか?」

 スズメが心配そうに呼びかける。

「今・・・あ、いや何でもない」

「あの」

「ん? どうした?」

「マリモが、猫耳に変わっていますけど・・・」

「ん? うわっ! なんだこりゃ!」

 カナリアは自分の頭部に付いた猫耳に触れて叫ぶ。

 いつの間に猫耳に変わったのだろう。アンナの仕業だろうか。

「こう言うのはむしろスズメの方がにあ・・・・」

 似合う、と言いかけて彼は耳を澄ませた。

 自分の耳の方ではなく、頭に付いた耳の方が何かの音を捕らえた。中途半端に言葉を切ったために「にゃー」と言ったように聞こえ、スズメが内心「かわいー!!」とか思っているとか、彼には知る余地もない。

「スズメ」

「え? あ、はい!」

「これから何を見ても、俺は鳥の一族の一人だって信じてくれ」

「猫耳でもですか?」

「これは関係ねーよ」

 初めから話しておいた方が楽だろうか。

 だが、今は説明する気力も、時間も惜しい。

 カナリアはスズメの返答を待たずして走り出した。

 音の聞こえた方。

 そこには大きな扉がある。今し方、誰かがその扉を開けたのだろう。半開きの状況だ。カナリアはその扉に滑り込むように突入した。

 そこにいた全員が一斉に振り向く。

 魔法陣の描かれた祭壇に登っていこうとする人々。

 その中にエリーの姿が見えた。灰色の髪の男に守られるようにして歩いている。横には黒髪の女と、それを引きずるようにした山吹色の髪をした男。そしてそれの先頭をきって歩いているのは、緑色の髪をした男。

「アナナス」

 声音には思いの外憎悪が含まれていた。

 男は静かに瞬いた。

「カナリア!」

 エリーがカナリアの姿を見つけ駆け寄ろうとする。それは灰色の髪の男に阻まれた。恐らくこれが王の器。

 引きずられていた黒髪の女がエリーの声を聞いて瞬いた。

「カナリア? ・・・・私の知っている人は、女の人だったわ」

「え? カナリアって性転換したの!?」

「エリーは元女の猫耳野郎が好きなの?」

 銀髪のおかしな質問。山吹色がけけっと笑った。

「男の猫耳にはさすがに萌えねーよな」

「萌とか言うなよ、気色悪い! っていうか、何でお前ら同じ名前っていう発想がねーんだよ」

 カナリアの突っ込みにエリーがぽんと手を鳴らす。なるほど、じゃねーよ、と心の突っ込み。無駄な会話をして時間を費やしたくはない。

 まさか、と黒髪の女がガタガタと奥歯を鳴らしながら漏らす。

「・・・・鳥の者か」

 アナナスは呟くように言った。

「排除をする」

「駄目!」

 黒髪の女が叫ぶ。山吹色とエリーが同時に息を飲んだ。

 アナナスはそれを黙殺し片手を上げた。強い魔法の気配。カナリアは咄嗟にスズメを後ろに隠した。

 ばちん、と魔法同士がぶつかり合う音がした。

 カナリアたちと、アナナス達との間に魔法の塊と塊とがぶつかり合って出来た壁が生まれる。生まれた爆風にエリーが悲痛な声を上げる。

「カナリア!!」

「っ!!」

 カナリアは目を見開く。

 その瞳は赤く染まっていた。奥が闇色に揺れる。その瞳の色は、アナナスの朱赤色の瞳に良く似ている。お互いに血を好むような、赤。

(駄目だ、奴の方が、強い)

 飲まれるような感覚があった。

 持ちこたえろ、と自分自身に活を入れる。

 猫耳がぴくり、と動いてカナリアの頭から剥がれた。刹那、それは魔法の壁に向かって飛んでいく。

 ばちり、と激しい音を立ててカナリアは後方に飛ばされた。魔法がこちらに直撃した訳ではない。消滅の反動で飛ばされただけだ。咄嗟にスズメの身体を庇う。巨大な扉にぶつかり、カナリアは小さく呻いた。

「カナリアさ・・・っ!」

 スズメが息を飲むのが分かった。

 瞳を見たのだ。

 鳥の一族には消して出ることのない赤い瞳。奥に揺れる黒は灰の一族の証。

「お前は」

 アナナスがカナリアの瞳を見ながら言う。

 その目を睨め付けてカナリアは叫ぶ。

「俺は鳥の一族だ!」

「・・・・」

「恒星落陽なんか、起こさせはしない」

 この世界にとって自分が異質であることは物心ついた頃に既に理解していた。力を使うたびに、頭のどこかで「王の復活」を求めてきた。それは自分の本能に、灰の目の一族全てが持つ本能的なこと。

 だけど、自分には意思があった。その衝動を抑え込む意思が。

 モズの与えてくれた安らぎ、アンナの与えてくれた衝撃、リン姉弟の変態、エリーの天然ボケ、トキのおかしさ、マスターの威厳の無さ。何だか羅列すると凄く下らないものに思えるが、それを守りたいと言う意思があった。

 錯覚でも良い。

 大切に思うものを守りたいという意思はカナリアの精神を支えてきた。

「グラス」

 アナナスは小さく呼んだ。はっとしたように山吹色が答える。

「あ、はい、俺が処分しますか?」

「扉を開け」

「ああ、じゃあ、ナスタチウム様をよろしくお願いしますよ」

 彼はナスタチウムの身体をアナナスに預ける。

 彼女はカナリアを見つめたまま小声で「シェリル」と呼んだ。エリーが顔を上げる。彼女に近付こうとするエリーを銀髪が止めた。

「・・・側を離れないで。君のことは僕が守るから」

「イチイくん」

 カナリアはよろめく身体をスズメに支えられながら剣を抜いた。

 王の器、そう呼ばれた彼を殺せば終わる。だが、何故だろう。彼がエリーに向ける表情は穏やかでとても悪いものには見えなかった。

 これを殺せと言うのか。

 ただ、王が蘇る、それだけの理由で。

 脳の隅で、先に行って下さい、と言った鳥の男の声が聞こえる。族長の代理として、彼らはカナリアを信じてくれた。期待に答えるべきだという意思と、目の前にいる敵という明確な意思のない青年を殺したくないという意思が戦っているように思えた。

 カナリアは一歩踏み出す。

「!!」

「カナリアさん!」

「イチイくん!」

 衝撃を覚えてカナリアはその場に蹲った。同時にイチイも蹲る。





 歌が、聞こえた。

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