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カナリア  作者: みえさん。
Story5 太陽が堕ちる日(1)
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Story5 太陽が堕ちる日(20)

    20 姪っ子




「彼女はトキの姪だよ」

「姪? 甥はいないのか?」

「すぐそう言う質問に転じるのがお前だよなぁ。いるにはいるが、ヒバリは彼女の兄さんだからお前の範囲じゃ・・・・何だよ、あからさまに残念そうな顔ずる事無いだろう?」

 残念と言うよりは嫌そうな顔をしている。

 二人のやりとりにスズメは困ったように首を傾げた。

「あの?」

「ああ、悪い。まだ小さい時に会っただけだから覚えていないよな。俺はカナリアだ」

「カナリアさん?」

 少女は不思議そうに瞬いてから、思い出したようにぱっと表情を明るくさせる。

「ああ、あの寝相がとっても悪かったカナリアさん!」

「俺の印象はそれかよ」

「確かに一度見たら忘れられない程個性的な寝相ではあるが」

「す、すみません!! あんなアクロバティックな寝相を披露してくれたのは、後にも先にもカナリアさんだけなんで」

「フォローになってねぇよ」

 どっちにしたってカナリアの寝相は悪いと言うことだ。

 そう、それは激しく記憶に焼き付くほどに。

 ところで、とスズメは居住まいを正す。

「そちらの方は」

 彼女の瞳はマリンを見ていた。

 剣でカナリアを仲間と判断したようだが、彼は戦いに向いている格好をしているわけではない。ここにいることは異質に見えるのだろう。訝るような、観察するような目。

「ああ、こいつはマリ・・・じゃなかった。ファーマ・リン医師だ。今回、亜精霊種の子供を助けるために同行している仲間だ」

「亜精霊種の? ・・・それはミスティアの子のことですか?」

「ラネルを知っているのか!?」

 マリンは覚えず怒鳴った。

 彼女は少しうつむき表情を曇らせた。

「・・・・私たちの仲間が保護しました。ですが・・・」

「何だ? 言ってみろ」

 彼女は言いにくそうに目を伏せてからすぐに表情を戻した。まるで任務を遂行する軍人のように感情を伴わない表情だった。

 感情を殺していないといられない。それはカナリアにも覚えがあった。

「本人の申告では、消滅までにそれほど間がないそうです。私が最後に彼を見たのが数時間前ですから、あるいはもう・・・」

「すぐに案内しろ!」

「ですが」

「命に関わる! 俺ならまだ救えるかもしれん」

「!」

 彼女の表情に優しいものが戻る。

「・・・ご案内します」






 彼女の案内した場所は目的地にしていた湖から少し離れた位置にある洞窟だった。湖の半分を囲うようにして出来ている崖の南端。その岩肌を抉るようにして出来た空洞だった。中には僅か霊力のようなものが漂い、奥には薄緑に光る水が渺々と奥まで広がっている。

 その湖の畔に数人の男女の姿が見えた。

 そのほとんどがスズメ同様に山吹色か金色に近い髪をしている。カナリアのような黒髪の姿は一つも無かった。

 近付くと、彼らは一瞬警戒する素振りを見せるが、カナリアの腰にある剣を見るとすぐに表情を緩ませた。

(随分と、意味のある剣なのだな)

 マリンは一見何の変哲もなく見える剣を見やった。

 この剣がなければ、この洞窟に入ることを拒まれていただろうと容易に推測出来る。カナリアが自らを「雑種」と呼ぶ理由が分かる気がした。

「スズメさん、その人は新しい族長ですか」

「彼は・・・」

「込み入った話ならば後にしてくれ」

 マリンは話を折って奥に進む。

 光る水の中に、ラネルの姿があった。

 トーアで連れ去られた少年。

 記憶にある彼の姿と変わらない。ただ、身体の全ての色が抜け落ち、薄緑の水と同じ色をしていた。個の消滅が近い証拠だ。形を保っているのは彼が水を司る亜精霊種の中でも特別な家「ミスティア」の血を引いている子供だと言うことと、ここの水に含まれる僅かな霊力のためだろう。

 水辺に座ると、水の中の彼が少し目を開いた。

「まっていたですよ、かなりあさん」

「・・・・これは、ひどいな」

 マリンは覚えず呟いた。

「俺ではなく、カナリアを待っていたとは」

「どういう意味だよ、それ」

「そのままの意味だ」

「あたまぐるぐるするです。そんなに保たないですよ」

「分かっている、しゃべらなくて良い」

「伝えたいことが、あるですよ」

「大丈夫だラネル。それは、後にしよう」

 マリンは微笑んだ。

 その笑みに違和感を覚えたのか、カナリアが耳打ちをする。

「・・・・まずいのか?」

 カバンを開きながら頷く。

 中には複数の魔薬と道具が詰め込まれている。ラネルを救うために持ってきたものだった。

「何とか間に合ったようだが、この状況では一番強いものを使う必要がありそうだ。正直気が進まない」

「副作用ですか?」

 スズメの問いにマリンは頷いた。

 魔薬はそもそも副作用がある。強い薬となればそれが顕著に表れる。長い間亜精霊種の住む場所に出入りをしてきたマリンは何とかその副作用を抑えるために様々な調合をくり返しようやく副作用の少ない魔薬を作るに至った。

 だが、完全にその副作用が無くなったわけではない。それに、相手がラネルだから、もう一つ彼独特の薬の効果というものが現れてしまうのだろう。

「気が進まないが、やるしかあるまい。カナリア、お前、魔薬の知識は?」

 カナリアは苦笑する。

「・・・一般人よりは豊富だぜ」

「非合法な知識でもかまわん。手伝え」

「りょーかい」

「まずはシンパナーで・・・」

「収斂剤だな」

「任せた」

 カナリアに指示を出しながらマリンは魔薬の最終調合に入る。様子を見ながら強い薬を使う必要があれば再調合できるようにとそれなりの準備をしてきて正解だったようだ。出来ることならば使いたくはないが、ラネルの命には替えられない。

(それにしても)

 彼はちらりとカナリアの方を見る。

 正直彼の魔薬の知識を期待していなかったが、薬品の知識も、調合の知識もその辺のまじないしなんかよりもずっと正確かもしれない。

 これだったら、彼に調合の手伝いの依頼をしても良かったと、今更ながら思う。レバンに戻ったらマスターに頼み込んで一ヶ月くらい彼を拘束して新薬の開発を進めてもいいかもしれない。

(まずラネルを救ってからの話だがな)

 マリンは気を引き締めて調合に取りかかった。

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