Story5 太陽が堕ちる日(11)
11 ショコラフォンデュ
「なるほど、バビアナが殺し損ねるわけね」
剣を素手で受け止めて女は笑った。
予測通り、彼女は戻ってきた。狙いはトキだけだ。それをカナリアも分かっていたのだろう。だからキッシュを残していったのだ。
「だけど、私は強いわ。アナナス様には劣るけれど」
女はふふっと笑う。
トキも笑った。
「俺も強いよ。まぁ、ヒバリには敵わないがな」
「あら、族長が最強じゃないの? 残念だわ」
彼女はトキから離れ、間合いを取った。
強さを感じる。だが、先だって戦ったバビアナに比べれば随分と劣る気がした。だが、一筋縄ではいかないのが灰の目の一族。
強いと言い切るからには何か特殊な能力があるのだろう。
トキは彼女の様子に注意しながら腰に手を当てた。
「主人公が最強じゃない方が物語面白いだろう?」
「あなた、主人公のつもりでしたの?」
「嬢ちゃん分かってないな。この美貌、この才能、主人公になるために産まれてきたようなものだろう?」
うーん、とリコリスが唸る。
「美貌とかはともかくとして・・・確かに馬鹿で熱血は主人公要素として確立しているわよね。ただその年齢でオバカだというのはどうかと思うけど」
「うるせーよ、謎のモロコシ星人に騙されたお前が言うなよ」
「あんな巧みな変装、見破れる訳がないじゃない!」
「・・・あれ、巧みだったんですの?」
「ほらー、だから言っただろう? 俺の変装は完璧だって」
どこをどう見たら完璧と言えるのだろう。
リコリスは頬を赤らめて咳払いをした。
「ともかく! あなたのこと殺させて貰うわ、鳥の人。私たちの邪魔をされると困るのよ」
「俺も、俺様の代で王が復活するのはごめんだな。俺様の名前に傷が付く」
「そう言う問題ではない気が致しますけど」
突っ込みを入れながらキッシュは鎌を振りかざした。
一度彼女と戦闘しているから、その強さの程を知っている。力が強い上に、異常なスピードを持っている。
あのスピードがある限り二対一でも勝てる見込みは少ない。
ふと、リコリスの姿が消える。
(?)
まるで空間を移動したかのように彼女はトキの目の前に姿を現した。
「くそったれがっ!」
トキが剣を振る。
彼の剣はリコリスに当たったように見えた。
しかし、
「!?」
剣は完全に宙を薙ぎ、そこに相手の姿はない。
「後ろ!」
キッシュは叫んだ。
トキが振り向く。
どん、と重い音がした。
多々良を踏むように移動したトキが今までいた位置をリコリスの拳が通過する。それは勢い良く地面に突き刺さり、半球体の穴を開けた。
キッシュはリコリスに向かって切り込んだ。
一瞬遅く、刃先は彼女の髪を掠めただけで終わった。
リコリスは小さく笑う。
「あら、見直したわ、お嬢さん」
「私は、キュスラ・リンですわ!」
鎌を振り切ってキッシュは魔力を溜めた。
手のひらに集中させた力は柄を伝うようにして刃先に集まる。魔力を帯びて鎌の形が徐々に変化を始めた。飾り気のなかった鎌に古代文字と独特な装飾が加わっていく。
リコリスの拳には確かに魔力が籠もっていた。あの力はそれによるものなのだろう。だが、速さの正体が掴めない。
本当に空間を移動する能力なのだろうか、それとも。
「嬢!」
トキが叫んだ。
目の前にリコリスが迫ってくるのが見えた。
瞬間的に鎌を地面に突き立てる。
地面に魔法陣が描かれた。
円陣は電撃のような力を垂直方向に向けて吹き上げる。
「!!」
目の前のリコリスの姿が消えた。
代わりに遥か後方に間合いを取って佇む彼女の気配を感じた。
(・・・・今の?)
トキが駆け寄ってきた。
「おい、嬢ちゃん今のは・・・」
「ショコラフォンデュの力を解放しましたの」
「しょこたん?」
「コスプレしている人ではありませんわよ、この鎌の事ですわ」
口元に手を当ててリコリスが叫ぶ。
「な、なんて美味しそうな名前なの!?」
「いや、突っ込むところはそこじゃないだろう。鎌なのになんで甘い名前が付いているんだ?」
トキの突っ込みも大きく間違っている。
「これはイーア・ガンが私の為に作った私専用の鎌。甘い名前なんて私にぴったりではなくて?」
キッシュの受け答えも何か間違っている。
「お嬢、礼の武器職人の知り合いだったのか?」
「んふ、私のお父様は顔が広かったのですわ」
「え? あなたのお父さんはせん●い博士だったの!?」
「・・・・それ顔がでかい人ですわよ。私の父親が、あんな1.5頭身な訳がありませんでしょう?」
「いや・・・それより博士って誰だよ」
「一応天才ロボット工学者よ。結構有名よ。七つ集めると願い事が叶うもやっ○ボールを発明した人を父親に持つのよ」
「あなたの知識、どこか間違っている気がしますわよ」
「ああ、そうね、産みの親だから母親になるのね、えっと確か名前は鳥何とかかんとか。・・・あら、その人も鳥の一族かしら? という事はあなたも鳥の一族?」
どうしてそう言う発想に至るのか。
キッシュは額に手を当てた。
「違いますわよ。そもそも博士は私の父親ではありません」
「キュスラってあのフルーツみたいな鳥よね?」
「そりゃキウイだ! つーかお前、人の話聞いていないだろう」
「・・・トキに突っ込まれるなんて・・・あなたとても頭が悪いのではなくて?」
「まぁ、失礼ね! 私、真剣に考えているのよ」
「お嬢、俺に対しても暴言・・・」
「真剣に考えているのならばなおさら悪いですわ」
「無視かよ」
「人の話を聞かないのは老化現象ですわよ」
リコリスは思い当たる節があるのか「うっ」と小さく呻いた。
「お嬢もそうだろうが」
キッシュはトキを睨め付ける。
「聞こえてましてよ、トキ。女性に年齢の話をするのは御法度と決まっておりますでしょう?」
「そうよ、あなた失礼よ!」
「何で俺が責められるんだ!? 俺様女難?」




