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カナリア  作者: みえさん。
Story5 太陽が堕ちる日(1)
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Story5 太陽が堕ちる日(8)

   8 告白



「聞いて良いか?」

 彼らとは別の道を進み始めて暫く経った。

 黙ってカナリアの後に付いていたマリンはようやく口を開いた。いつ、その質問をするかと構えていたカナリアは安堵の息と共に軽口を吐き出す。

「何でお前と一緒を選んだか、だろ? そんなの簡単じゃん、お前を愛しているからさ」

「お前がそういう言い方をする時は、大抵何かを隠している時だ。今更それで誤魔化したもりか?」

「俺と、お前との仲で、な。まぁ、誤魔化せりゃいいとは思ってたけど」

 マリンを振り返ってカナリアは口ごもった。

「何故?」

「お前が怒るから」

「怒られるような理由か」

「だって、お前、なんだかんだ言ってシスコンじゃねえか」

「・・・否定出来ないな」

「あ、しないんだ」

 カナリアはちらりと笑う。

 普段の彼なら「茶化すな」と切れて誤魔化すか、「気色悪いことを言うな」と全力で否定しているところだ。それをしないところを見ると彼もまた腹を割って話をするつもりらしい。

 そこまで覚悟を決められてしまえば、カナリアもへらへら笑って誤魔化す訳にはいかなかった。

 カナリアは口元から笑みを消した。

「リコリスは十中八九トキを狙ってくるよ」

「あの女、強いのか?」

「恐らく。・・・トキは強い」

「うん?」

「あいつが、二手に分かれる事を提案した。一人で残る選択肢もあったはずだが、キッシュと組むことを拒まなかった。あいつは・・・・あいつも、俺も、俺が確実に連中の元に着ける方法を選択したんだ。例え誰かを犠牲にしたとしても」

「・・・っ」

 マリンの目つきが険しくなった。

 それは、二人が死ぬ可能性もあると言うことを意味している。それを承知で彼は二手に分かれたのだ。カナリアがどんなときも最も犠牲の少ない方法を選ぶことを知っている。トーアで自分だけがあの場から離れたのも、トーアの住人に被害が及ばないようにするためだった。

 分かっているから、責められない。

 第一、付いてきたのは自分たちの判断だ。巻き込まれて相手を責めるのは間違っている。

 それは分かっている。わかっているが、犠牲の側にキッシュを立たせたことは許せない。

 彼女はマリンにとってただ一人の肉親だ。変態で、変質者で、自分勝手わがままの「××」という罵倒語を付けて呼びたくなるような女でも、ただ一人の姉で、親代わりでもあるのだ。

 握った拳に、力が入る。

「殴りたいなら、殴ってもいい」

「・・・・誰が、殴るか」

 カナリアは微笑を浮かべる。

 マリンは視線を外した。見ていれば殴りたくなってくる。罵って、キッシュを助けろと言いたくなる。だが、彼にはそう出来ない理由があるのだ。

 犠牲を最小限にしたがる彼に、犠牲になるかもしれない仲間を救いに行けない理由があるのだ。

 手のひらに爪が食い込んだ。

「誰が責めて楽にしてやるものか。いいか、もしものことがあったらお前、俺が死ぬまでずっと俺の顔を見続けろ」

 キッシュと同じ顔の自分を。

 髪の色こそ違うが、思い出さずにはいられないほどの顔を。

 カナリアは複雑そうに表情を変えた。

「・・・愛の告白みたいだな」

「愛の告白なら、出会ったその日にした」

「真顔で言うなよ」

 ボケでも何でもなく切り替えされてしまうと逆に恥ずかしくなる。

 カナリアは赤面してうつむいた。

「今からキッシュ達のところに戻る選択肢もあるぞ、マリン」

「バカを言うな。俺はそのためにお前に付いてきたのではない。ラネルとラネルを助けるために来たんだ」

「・・・俺、それ突っ込まなきゃいけないか?」

「どこに何を突っ込むというのだ?」

「お前が言うと、嫌らしく聞こえるのは何故だろう」

「それはお前の脳みそが沸騰しているからだ」

「ボケか本気かわからないから、冗談を真顔で言うのは止めてくれ」

 真剣な話をしている時にでもナチュラルにぼけるのはこの医者の厄介なところ。しかも本気かそうでないか判断がつきにくいから余計に厄介さが際だってくる。

 美少年の話をしている時は十中八九本気だろうが。

「エリアードは」

 不意に彼の口から少年以外の名前が出て、カナリアは硬直した。

「エリアードはお前に不信感を抱いていたと言う。それに心当たりはあるのか?」

「ねぇよ。留守にすること多いから、あんままともに話出来ないのは悪いと思っていたが」

「彼女はお前に好意を抱いていた」

 カナリアは肩を竦める。

「あいつは俺を恩人だって思っているんだよ。オーナディアから出てからめまぐるしく色んな事が起こった。まだ夢の中にいるようなもんなんだよ。夢から覚めただけの話かも知れない」

 彼は自虐的な笑みを浮かべる。

 マリンには、どうしてもこれは何かを隠している顔にしか見えなかった。

「それが見ず知らずの人間に付いていく理由になるか?」

「彼女は気を失っていた。こっちを混乱させるために連中がついた嘘かもしれない」

「・・・・・・お前、やっぱり心当たりあるだろう」

「知らねーよ。あったとしても確証無しに話したくもない」

 凍てつくような視線がマリンから放たれた。

 決まりが悪そうにカナリアは頭を掻いた。

「・・・お前、俺何に見える?」

「男」

「いや、女には見えないだろうが・・・そう言う事じゃなくて」

「成人男子」

「お前には、性別年齢以外の括りはないのか?」

「便利屋の成人男子」

「・・・・もういい」

 質問の仕方も聞く相手が間違っていた。

 だが、まともな回答こそ返って来なかったが、そのほうがかえってすっきりしたのも事実だ。

 自分の事を話すのは正直勇気がいる。

 それは自分に自信がないからでもあり、真実に対して自分自身が劣等感に似た罪悪感を抱いているからだ。

 この医者は、きっと「だからなんだと言うんだ」と鼻先で笑うだろう。

 自分自身ですら否定したい部分を、あっさり受け入れてくれるだろう。だから余計に話したくなかったのかもしれない。

 それに予想を裏切って彼が自分を否定したら、おそらく誰に否定された時よりも傷つく。多分、とても甘えているのだ。彼に。

「マリン、俺は・・・うわっ、何だ!?」

 一歩踏み出した瞬間。

 それを阻害するように足場が大きく揺れた。

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