Story5 太陽が堕ちる日(7)
7 分かれ道
「見つけたわ、あなたね? バビアナが殺し損ねた鳥の族長、トキ」
トキの示した方向から現れた女を見て、キッシュは息を飲んだ。
金髪の、眠そうな半眼の女。彼女のことは知っている。
「リコリス」
武器を握る力が強くなる。
倒せなかった相手。トキの言うように厄介な相手だ。
名を呼ばれてリコリスはちらりと顔を上げる。
「ああ・・・、この間の?」
「まさか再び会うとは思っていませんでしたわ、リコリス!」
「別に会いたいとも思っていなかったし、あなたに用はないわ。私が用があるのはそっちの金髪の男だけ」
リコリスは笑いを浮かべてトキを見る。
完全に眼中にないと言われたキッシュは顔に朱を上らせた。
トキはにっ、と笑う。
「それ人違いアルよ」
「誰!?」
「ワタシ、謎のモロコシ星人ね! トキとか言う色男とは別人ね!」
ヒゲを撫でながら怪しげな言動をするトキに一同は頭を抱えた。
口調を変えて、ヒゲを変えただけの変装では変装の口には入らない。しかもさりげなく自画自賛。騙される人間は騙す側よりよっぽどアホでなければ成り立たない。
そんな嘘で誤魔化される訳がない。
しかし。
「そう言えばヒゲが違うわね」
「え? 騙された!?」
「・・・しっ! 口に出すな!」
トキは険しい表情で指を口元に当てる。
「どうしたの?」
「何でもないアルね。さっき、金髪の格好良い男が向こうに行ったの見えたアルよ、きっとその男ね」
「本当? そっちに行ってみるわ。教えてくれてありがとう、それと間違えてごめんなさいね」
去っていくリコリスをトキは大きく手を振って見送る。
「気にすること、ないあるよー。・・・・・と言うわけで、早くこの場を離れるぞ」
「まさかアレで騙されるとは」
「俺様の変装がそれだけ完璧だったってことさ☆ ・・・・だが、奴はそのうち戻ってくるだろう。そうなったら戦闘になりかねない。今のうちに二手に分かれよう」
その方が良いだろう、とカナリアも同意するように頷いた。
出来ることなら全員が辿り着ければいい。だが、そう出来る可能性は低い。ならば誰か一人でも花の所行を止められる位置まで行かなければ行けないのだ。もっと厳密に言うならば、トキかカナリアかどちらか一方が。
「・・・何故? 彼女と戦闘になるならみんなでかかった方が早いんじゃありませんの?」
「嬢ちゃんも奴と面識あるならあの強さを知っているだろう。戦闘になって生き残ったとしても満身創痍の状態じゃ意味がない」
「満身創痍なんて言葉お前知っていたんだな」
「茶化すな、カナリア。俺は俺ではなくお前に辿り着いて欲しいと思っている」
「トキ・・・」
「俺はモズのような力もないし、お前のような能力もない。ただ一番血が濃いっていう理由で族長をやっているだけだ。だが、鳥は俺の命令でみんな動いている。お前が指揮した方がよっぽど上手く機能するのにな」
自嘲するように彼は笑う。
常に自身に満ちた彼の言う言葉ではないように聞こえた。だが、この言葉を聞くのは本当のところ二度目だ。モズが健在だった頃、自分に何かあれば次の族長にはトキを、と告げた時、彼はカナリアの方がよほど向いていると言った。
だが、モズは首を縦には振らなかった。
その理由はトキもカナリアもよく分かっている。どうしてもカナリアが族長になってはいけない理由があるのだ。
トキはずい、と自分の腰に帯びた二振りの剣の一本を差し出した。
「俺自身が辿り着いたら俺が指揮する。その代わり、お前が辿り着いたらこの剣を持って族長を名乗れ」
「だけど・・・」
「俺が許す」
「・・・・分かった」
剣を受け取った彼を見てトキは満足そうに頷く。
族長の証、鳥の一族の最初の剣士が使っていたとされる剣。けして何でも簡単に切ってしまうような名剣ではないけれど、何百何千年も、へたをすればもっと長い時間朽ちることなく残っている剣。
代々鳥の族長が扱い続けた剣。
「んで、今から戦力を二分する。いいな?」
「二人が決めたのであれば選択肢は私たちにありませんわ」
「同感だな」
「ありがとう、それで、カナリア。どう二手に分ける?」
カナリアは思案するように口元に手を当てた。
「と●●モなら間違いなくキッシュを選ぶな」
「あらん? 私を軟派するつもり? んふ、でもダメよ、私は殿方には興味がありませんの」
「・・・・カナリア、お前はこんな女が趣味なのか」
「こんな女ってなぁ・・・俺は嬢ちゃんみたいなこう・・・身体にも性格にもメリハリがあるのは結構好みだけどな」
「メリばっかりだ」
「まぁ、失礼ね、弟のくせに」
「俺が年下であることを主張するのであれば、それ相応の行動をとってから仰って下さい、お姉様?」
「うわ・・・笑顔のくせに思いっきり抉ったな、兄ちゃん」
「俺は単純に選ぶんだったら女の方を選ぶって話をしたかったんだけど・・・」
それはそれで問題です。
キッシュは腕組みをして問う。
「そう言う言い方をするということは、私ではなくふーちゃんを選ぶのですね?」
カナリアは頷く。
「そういうことだ」
意外そうにトキが彼を見つめる。
「嬢ちゃんこっちでいいのか?」
「ああ、いいんだ。腹はもう据わっている」
意味ありげな問いに、意味ありげな答えが返る。
不可解ではあったが、キッシュもマリンもそれに対して突っ込みは入れなかった。それは追々問いただせばいいこと。今は先に二手に分かれ一方がリコリスを、そしてもう一方がエリー達のいる場所までたどり着かなければならない。
カナリアはマリンの方を向いた。
「一緒に来てくれ、マリン」
「分かった」
「キッシュ、悪いが別行動だ。万が一の事があったらトキを盾にして逃げろ」
「分かりましたわ。全力で逃げます」
「うん、そうしてくれ」
「別に盾になるのが嫌だって訳じゃないが・・・・その言い方、少し傷つくぞカナリア」




