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カナリア  作者: みえさん。
Story3 滅亡の系譜
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Story3 滅亡の系譜(1)


 それは、突然起こった。

 人間とは異なる種族『亜精霊種』の住まう土地、アインハイト。

 水の一族が治める西のオステン。

 水族の女と、外見だけは人と変わらない男。

 その二人が、別々の方向から歩いてきて擦れ違う。

 どこにでもある何気ない風景だった。

 ただ一瞬、男と擦れ違う瞬間、女の手が白く光ったように見えた。

 訝った街の者が振り返る。

「ぁ・・・・っ!」

 女が、腕を押さえてうずくまる。

 ごとり、と女の腕が地面に落ちた。

 それは吸い寄せられるように擦れ違った男の掌中へと治まる。

 朱赤色の目をした男。

 髪は灰を落としたような緑色をしている。

 男の手には剣が握られていた。

 不自然にしなる、長い鈍色の剣。

「・・・なるほど」

 男はぽつりと呟いた。

 闇の淵に佇むような、ただ‘ある’だけの淡々とした声。

 悲鳴が上がった。

 思い出したかのように女の腕から血が吹き出る。

 おびただしい血液は大地に落ち土を暗く染める。

 彼の所行に気が付いた者が、威嚇するような顔つきで男に近付いた。

 男の瞳はそれすらも見ていなかった。

 ただ、愛でるように剣柄を眺めていた。

 街の人間が彼につかみかかろうと手を伸ばした瞬間、風が吹いた。

 男を中心に竜巻でも起こったかのような激しい風が吹く。

 人々は反射的に目を瞑った。

 彼らが目を開いた時には既に男の姿は無かった。





 そして、女の腕も。







    1 王の血脈





 エリーは片手を前に突き出し呪文を唱えながら、まるで指揮でもするかのような動きで空中に何かを描き始めた。

 彼女の指先が通った道を示すように青白い光が魔法陣を形作る。

 まるでお手本のように正確に描かれた魔法陣は彼女の詠唱通りに魔力を帯びていく。

「‘・・・盟約に従い我等が敵を焼き払え!’」

 組み上がった瞬間、魔法陣は赤い光を放つ。

 炎がそのまま目標に向かっていく・・・・はずだった。

「あ、あれ?」

 彼女の放った炎は動き出さず、その場で激しく燃え上がる。

 その炎は勢いを増し、エリーの前髪に引火する。

「きゃー!! 髪の毛が燃える!!」

「・・・‘水よ’」

 ぱちん、という音と共に上空から大量の水がエリーに向かって降り注ぐ。まるで罰ゲームのような水量だったが、その水によって魔法で作られた炎は完全に消し去られる。

 後には前髪の少し焦げたずぶぬれの少女が残った。

「えーん、びしょびしょ」

「構成、呪文、発動も完璧なのに、何故失敗するのかしら。これも才能ね、おこげちゃん」

「嬉しくないよぉ」

 服に染みこんだ水を絞ってエリーは息を吐く。

 数日前からアンナに頼み込んで町外れで魔法の特訓を始めたのだが、彼女のコントロールの悪さは変わらない。

 アンナは普段は無茶苦茶な魔法を使いその才能を発揮する機会など殆ど無いが、本来は知識・実力ともにトップクラスだ。もしも彼女が魔術師の協会や‘塔’に入っていたならば上位に位置づけられる程の力を持っている。

 講師としては申し分ない人材だった。

 そのアンナを付けても、エリーのノーコンは一向に良くなる気配を見せない。これはもはや才能としか言いようが無かった。

「その様子だと、また失敗の様だな」

「あら、小鳥ちゃん、ごきげんよう」

「おはよー、カナリア。朝帰り?」

「仕事帰り、だ」

 激しく誤解されそうな単語を力一杯に否定する。

「言い直すところが怪しいわね。どこで何をしてきたのか5W1H3アフロで答えなさい」

「3アフロって何だよっ! ・・・お前、何か不潔なものを見る目で見るな!」

「うえーん、カナリアの変態」

「そう言うのはリン姉弟を示す単語だろうが!」

 例えエリーの想像したような事があっても、彼女にカナリアを非難する権利などない。大体、彼の年齢になってまでそういう経験が一度もない方がおかしい。

 だが、そんなのは年頃の少女には通じない。言い争えば確実にカナリアの方の分が悪くなる。

 彼は話題を変える。

「で、アンナでもダメだったんだな」

 アンナは寝ていたジェラートを頭の上に乗せながら答える。

「ええ、私でももみあげだったわ」

「それを言うならお手上げだ。うーん、最初に教えた奴が妙な組み方教えたか、あるいは血脈のせいか・・・」

「血脈?」

「エリーはオーナディアの聖主と同じ血を引いているだろう? 代々法術を使い続けた家系だから、魔法に関して拒否反応のような事が起こっているかもしれないな」

 エリーは目を丸くする。

「え? 魔法って遺伝するの?」

「したりしなかったりね」

「どっちなの!?」

「魔法使いが良く出るという家系ってのがあるから遺伝はするんだろうな。リン姉弟のような例もあるから、一概に全部が全部という訳にはいかないが」

 キッシュは強い魔力を持つ鎌を使う。魔法を込められた武器を使えるのは魔力がある証拠だ。その点においてキッシュは魔法を使えるということになる。だが、マリンの方は初歩的な魔道具を使うのすらやっとという魔力だった。皆無と言うことは稀だが、マリンの魔力は皆無に近い。

 完全に遺伝すると考えればどちらか一方が強いのはおかしい。

 血筋というのは一つの要素であり、他にも何かあるのだろうと思う。

「ふぅん、何だか詳しいんだね」

 カナリアは苦笑する。

「仕事柄魔法使いを相手にする事があるから必然的にな」

「敵を知るにはまず味方からってやつ?」

「ん? あ? それじゃ意味が・・・ま、いいか」

 とどのつまり、有利に事を運ぶには相手のことを知っておく必要があるということだ。カナリアが魔法に詳しいのには他にも理由があるのだが、実際に役立っているのでそれ以上言う必要はないだろう。

「ね、ね、魔法使いが多い家ってこの辺にもあるの?」

 そうだな、とカナリアは思い付く限りの名前を羅列する。

「有名な所でいくと、竜の血脈であるシェラン王家、ネセセア神の加護のあるラン王家、南の古い魔女の血筋のグーヤ家。アインハイトの亜精霊を除けばそのくらいだろうな」

「もう一つ忘れ物よ‘灰の目の一族’」

 エリーは首を傾げる。

「ハイノメ?」

「灰色の目」

「目が灰色なの?」

「実際には灰色ではないらしいわ」

「でも灰の目の一族?」

「そう、便宜上ね」

「??」

「その昔、灰の王って呼ばれる神をも凌ぐ魔力を持つ男がいたの」

 灰色の目、灰色の髪をもつ者で、彼は「恒星落陽」と呼ばれる大きな力を使い、世界を滅ぼさんとしたために四王・・・竜王、魔王、精霊王、冥王の力で封印されたという。

 その灰の王と同じ血を引く者たちは「灰の目の一族」と呼ばれる。実際に灰色の目をしている訳ではなく、同じ知識の目を開く者、という意味合いが強い。彼らは灰の王には及ばずとも強い魔力を有して産まれてくる者が多いという。そして、知識すらもその血に受け継がれているとか。

「死んだら身体が灰になるとか、その目で見られた者は灰になるまで燃やし尽くされるとか、そんな話もあるわ。真相は貞子ではないけれど」

「定か、だろ。貞子って誰だよ」

「井戸から出てくる少女」

「何だそれは。大体、灰の目は実在するか曖昧なところじゃないか。文献に少し名前が記されている程度だし」

 アンナはうんと頷く。

「そうなのよね、だから私は実在すると思っているわ」

「・・・」

「何で? だって情報自体少ないんでしょ?」

「少なすぎるのよ、まるで誰かが目立たないように消しているように。シェランは竜王信仰の厚いところだから、王宮図書室で調べれば出てきそうなものだけれど」

「だけど?」

「民間人は出入り出来ないんだよ」

 カナリアが口を挟む。

 何故か彼は少し苛立っているような口調だった。彼にしては珍しい、とエリーは思う。

「じゃあさ、私ならどうなのかな?」

「オーナディアに戻って親書作成して来ても許可が下りるかは微妙だな」

「ふーん、そうなんだぁー」

 残念そうに彼女は口を尖らせる。

 魔法の血筋に関して興味を持ったのだろう。だが、一度国に戻らなければいけないという条件は飲みたくなかったようだ。

 さてと、とカナリアは腰に手を当てる。

「俺はそろそろ戻るからな」

「はーい、じゃあまたね」

「街に戻るならリン診療所に届け物を頼んで良い? その包みなんだけど」

 アンナは少し離れた木の根本に置いてある包みを指差す。

 緑色の布で包まれたそれは人間の頭部くらいの大きさがある。

 カナリアは首を傾けた。

「構わないけど、何だ?」

「開けてみて良いわよ。爆発はしないから大丈夫。爆発しても小鳥ちゃんなら大丈夫」

「わー、極悪非道だなぁ」

 そう言いながらカナリアは包みを開く。

 いくら彼女でもこんな街に近い場所で爆発はさせないだろう。包みは開いても爆発はしなかった。代わりに、ごろんとオレンジ色の奇妙な形のカボチャが転がり出る。

 彼はそれを見てたまらず声を上げた。

「うわっ! 何だこの形!」


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