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カナリア  作者: みえさん。
Story2 伝説の英雄
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Story2 伝説の英雄(4)

     4 具現魔法



 彼女の突然の告白に、最初に我に返ったのはエリーだった。

「え? ええ? 何で竜が??」

「竜じゃないですよぅ、ドラゴンですよ」

「ふぇ? どう違うの?」

「それより何でそんなのが追って来るんだ?」

 竜であれ、ドラゴンであれ、一人の人間を執拗に追いかけてくることはまずない。

 そのものが魔法である竜は人と関わることを嫌い、滅多に人前に姿を現さない。竜人という竜と人の性を持つ者もいるが、彼らですらあまり人と関わろうとしないのが通例だ。人を警戒し、よほどのことがない限りは人を襲うことはない。

 魔物としての性の強いドラゴンは人を襲うことはある。それはむしろ獣としての性質、つまり、縄張り意識や捕食、繁殖の意思によるものであり個にこだわることはほとんど無いと言っていい。

 よほど怒らせるようなことをしなければ追われるなんてことあるはずがない。

「私、動物に好かれる体質なんですよ」

「ああ、それでジェラートさんが獲物を狙っているような目で見ていたのね」

 納得したようにアンナは頷く。

「え? それって好かれるって言うの!?」

「好かれているんですよ。それに、あのドラゴンは弟が描いたものですから」

 ぴくり、とアンナの表情が動く。

 驚愕と畏怖の入り交じったような表情。エリーが彼女のこういった表情を見たのは初めてだった。

 カナリアも同様に複雑な表情を浮かべアンナの方を向いた。

「街の人間を避難させてくれ」

「遊んでいる場合でもないから了解したわ」

「ど、どうしたの、急に」

 急に真顔になった二人にエリーは狼狽する。

 カウンターに脱いだエプロンを置いて、彼はいつもの黒いコートを着ながら彼は答える。その表情には軽いものはない。

「具現だ。これは厄介だぞ」

「小鳥ちゃんは振ったら汁が漏れそうな程に巻き込まれやすい体質よね」

「どこでどう繋がっているんだよ、意味わからねぇよ」

「私、小鳥ちゃんのそう言うところ好きよ。私は依頼をこなしてくるからおこげちゃんと水知らずの人、後のことを頼んだわ」

 そう言い残して彼女は裏口から出て行く。

 彼女に任せれば街の人間の避難は大丈夫だろう。

「おこげちゃんって私の事?」

「じゃあ、私は水知らずの人ですか言い得てますねー」

 リーティアはくすくすと笑う。

 笑っている場合では無いことを分かっているのだろうか。

 彼女は「弟が描いた」と言った。つまり、絵が具現化したのだ。

 絵を具現化する能力は古代魔法と呼ばれる類の魔法。具現化した者は生命を持たない。それは急所を狙って攻撃したとしても無意味なことを意味する。

 元々生命ですらないため、死も苦しみも存在しない。それを止める方法は二つ。原型をとどめないくらいに破壊するか、もしくは動力源である魔力が尽きるかのどちらかだ。

 もしも、術者が意識的にやっているのなら、魔力を送らなければ済む。ただ、術者が無意識だったり、描いたものが暴走してしまったとしたら術者が死なない限り止まることはない。

「弟はあんたを殺そうとしているのか?」

「そんなことは無いです。弟は成人もまだしていない子供ですもの」

「だとしたら早く何とかしないと弟死ぬぞ」

「わかってますよー、だから伝説の剣を捜しに来たんです〜」

「ともかく外に出て・・・・」

 ずん、と街が揺れる。

 外からは怒号のような人の声と、がらがらと崩れ去る建物の音が響く。

 ドラゴンはもう街の中に入ってきていたのだ。街中で暴れさせたらどんな被害が出るか分からない。

 息を飲んで彼は外に飛び出した。

 それにエリー、リーティアと続く。

 外に出た瞬間、彼は絶句した。

「何あれっ!」

 エリーは口元を押さえて叫ぶ。

 コウモリのような翼、黒く光る胴体、鋭く赤い瞳。

 人の数倍。いや、人の十倍以上はあるだろうか。

 背中に羽を生やした巨大ウナギが街を見下ろしていた。



「なんじゃこりゃーーーーー!」

 カナリアは覚えず叫ぶ。

 それはドラゴンには似ても似つかない巨大生物だ。

 身体全体は墨で描かれており、目の部分だけが赤い。幼い子供がドラゴンを描こうとして失敗したような形容しがたい外見。しかも二色だけで描かれているため、完全に落書きが動き出してしまったような感じだ。

 リーティアは相変わらずのおっとりした口調で答える。

「何って、ドラゴンですよ」

「へぇードラゴンってこういう形をしているんだ〜」

「どこがドラゴンなんだ! どう考えてもウナギかせいぜい羽の生えたヘビだろう! 手足すら無いじゃないか!」

「何言っているんですか、どこからどう見ても立派なドラゴンじゃないですか! 私の弟に失礼ですよ!」

 初めて怒りの色を見せた彼女。

 そう言えば彼女、恐ろしく目が悪かった。

 いや、それとも単に弟を溺愛しているだけなのか。

 カナリアは首を振って腰にあったナイフを引き抜く。

「とにかく、あれを街の外に誘導する。このまま戦ったら街が壊滅する。・・・エリー、場が魔力に満ちているから魔法は気を付けて使えよ。最小に押さえて攻撃しろ」

「はーい了解!」

「リーティアあんた魔法は?」

「多少なら使えますけど」

「よし、じゃああんたも手伝え。方向は向こう側だ」

 カナリアは街の人間が逃げる方向とは真逆の方向を示す。

 そちらに向かって走りながら攻撃をして、街の外に誘導する。ドラゴン(?)がリーティアを狙ってきているのなら囮になれるだろう。

 原型をとどめない位に破壊するにも、街中でやるよりはよっぽどいい。

 エリーの魔法は多少不安ではあるが、カナリアの「能力」を使えばフォロー出来るだろう。

 二人が頷くのを確認して三人は同時に走り出す。

 ドラゴンはこちらに気が付いていない。

「エリー!」

「東京特許きょきゃっ!? わわわ、失敗!」

「いきなりか!」

 彼女の手から出てきた炎の球は妙なうねりを見せて酒場の方に向かって突っ込んでいく。

 カナリアはナイフを構えた。

(なるべく温存しておきたいんだが、仕方ない!)

 彼の瞳孔が急激に収縮する。

 ナイフが魔力を帯びる。

 刹那。

驟雨しゅうう!」

 カナリアの真後ろから魔法が発動される。

 雨、と呼ぶには激しすぎる水の塊が炎の球に向かっていく。

 水の塊は炎を包み込み、風と水蒸気だけの軽い爆発を引き起こして消滅する。

 音だけは派手で大爆発のように感じられたが、空中で爆発したために街には被害は全くない。

(やるな、瞬時にあの炎を打ち消すだけの水を集めるなんて・・・よほど使い慣れていると見える)

 カナリアは感心してリーティアを振り返った。

 そして驚愕の声を上げる。

「誰!?」

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