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カナリア  作者: みえさん。
Story2 伝説の英雄
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Story2 伝説の英雄(2)

    2 水分のない娘



「はー、生き返ったぁー」

「!?」

「誰!?」

「若返った!?」

 水を飲み干した老婆は、もはや老婆ではなかった。

 その姿は二十代前半くらいの若い娘。ふわふわとした長い青い髪に、青い瞳。露出した肌はみずみずしく艶々輝いている。

 その明らかに不自然な変貌にアンナすらも驚いた。

「うそー! 何で水だけで若返るの!?」

「アンナ! 水瓶に何を入れたんだ!?」

「失礼ね、何も入れてないわよ・・・まだ」


 ・・・・まだ。


「あ、アンタ大丈夫か!? 他に何か変調は・・・」

「あー、大丈夫ですー。少し水不足だっただけで。体質ですから」

「水不足であんな風になるの!?」

 もはや体質以前の問題の気がするが。

 青い髪の女はおっとりとした口調で続ける。

「持ってきた水を切らしてしまいまして、どうしようかと思っていました。本当に助かりましたよー」

「いや、ま、それなら良いんだけど」

 何か腑に落ちない感じもするが、アンナが原因でこんな事になった訳ではなければそれでいい。マスター不在中には出来れば問題を起こしたくない。

 というか、せめて自分の常識の範囲内の問題であってくれと切に祈る。

「あのー、助けてもらったついでに聞くんですけど、銀の麦ってどこにありますか?」

 エリーがにこにこ笑って答える。

「銀の麦ならここだよー?」

「ああ、じゃあマスターは?」

「今は彼よ」

 アンナに指を差され、彼女はカナリアの方を見る。

 そして暫く凝視した後、酷く驚いた様子で声を上げる。

「まぁ! 師匠ったら、暫く見ない間にこんなに若く・・・」

「なるか」

「あれぇ・・・よく見たら師匠じゃないですねぇー」

「よく見なくても分かるでしょ!? 背の高さとか違うし」

「いやまず髪の色が違うし」

 エリーとカナリアの突っ込みに彼女はにこにこしながら答える。

「私近眼ですから」

「あら、それなら仕方ないわね」

 さも当然というアンナの口調。

 すかさずカナリアが突っ込む。

「納得するなよ」

 もうどこから突っ込みを入れて良いのか判らない状況にカナリアは溜息をつく。

 代理一日目でこんなに疲れてしまっては精神が保たない。これはマスターに報酬の上乗せを頼まなきゃ割に合わない。

 頭の中で正当な料金を計算しながらかれは話を戻す。

「それで、マスターに何か用が?」

「ああ、そうでした。ちょっと捜し物をしていてぇ、師匠ならご存じかと思って尋ねて来たんですけど・・・」

「彼は遠い異国の地に旅立ちました」

「お前は何でいつもマスターをどっかに行かせたがるんだよ。そんなに嫌いなのか!?」

「何言っているの、親子愛よ」

「親子? じゃあ、あなたは師匠のお母様」

「何でそうなる!?」

 激しく間違った近眼の娘の言葉にカナリアは突っ込みエリーは爆笑する。

「あはは、本当に目が悪いんだねーえーっと・・・」

「ああ、申し遅れましたぁ、私、リーティアと言います。どうぞよろしく」

(リーティア?)

 彼女の名前を聞いてカナリアは少し首を傾げた。

 どこかで聞いたことのある名前だ。

 前の依頼人の名前だっただろうか。珍しい名前でもないからはっきりと思い出せなかった。

「私はエリーだよ、よろしく☆ ええっと、女の人の方がアンナで、黒いのがジェラートさんとカナリア」

「ああ、どうも、お世話になりますカナリアさん」

「・・・カナリアは俺だ」

「あはー、リーティアっておもしろーい!」

 猫に挨拶をするというお約束のボケをした彼女にエリーは再び爆笑する。

 ジェラートはカウンターの上でじっとリーティアを見つめていた。見知らぬ客が来てもカウンターの上に居座ったままでいるのは珍しい。普段ならば人に構われることが嫌いな猫はアンナの側にいるかどこかへ出かけていくかのどちらかだ。こうしてずっと観察しているのは珍しい状態だった。

「ねぇ、ところでさ、捜し物ってなーに?」

 興味津々といった様子で尋ねる。

 リーティアは身振りで答える。

「平べったくて薄い刃物と、長い柄の付いた盾です」

「随分アバウトだな。名称とかないのか?」

「ええっと、伝説の剣、伝説の盾って呼ばれていますけど」

 それも随分とアバウトな話だ。

 この世界に伝説と呼ばれる武器や防具がいくつあると思っているのだろうか。

「それって、コレクションか何かにするの?」

 ジェラートを抱き上げながらアンナは問う。

 そのものに力でもない限り、「伝説」と呼ばれるものは大抵過去の偉人や英雄が使った程度のものだ。

 殆どの場合金持ちの道楽としてコレクションにされている。

 それに、わざわざ古い癖のある武器を使わなくても、もっと使い勝手のいい武器があるのだ。伝説の武器などただの飾り物に過ぎない。

 カナリアも以前依頼でいくつかの古い武器を探したことがあったが、見つけた先も、依頼の先もどちらも好事家だった。

 使用目的で武器を探している人間は、大抵有名な武器職人のものを求めるものだ。それは武器商に頼めば何とか手に入るもので、便利屋に依頼するほどの事でもないのだ。

 もっとも、古くとも新しくとも良い武器は高額だ。普通の人間が買いあされるものではない。

「えーっとですねぇ、コレクションではなく・・・・」


 ごぶぎゅるぴるぴー


 突然の変な音に一同は固まる。

「・・・?」

「?」

「??」

「あ、ごめーん、お腹鳴っちゃった☆」

 てへ、と舌を出してエリーは笑った。

 どうやら腹ごしらえの方が先のようだ。

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