21
いつか一緒に目を覚まして、一緒に朝食をとる日が来たらいいな――と思いながら。私の手を取ってくれた、刻也さんにたくさんの感謝をした。いろんな気持ちに気が付かせてくれて、ありがとうって。
目的地に着くと、すでに到着していた八重子先輩と海人さんにニヤニヤ指さしながら見つめられた。
私からしたら、二人が寄り添って立ってることの方がにやけるんだけど、これってお互い様じゃないだろうか? と思うのに、なぜか分の悪い私。ちらりと刻也さんを見上げると、なぜか苦笑い。どうやら二人には勝てそうにない。
しばらくして、真子と真田君が現れて、真子に思い切り抱き着かれた。その様子に戸惑う彼を見て、長井さんが笑いながら現れる。不思議な人だ、相変わらず。
集まったメンバーをひと眺めして、このメンバーで飲み会する日が来るなんて思わなかったなって、なんだか不思議で仕方ない。8年経って、あのころの大先輩と私たちがお酒を飲むなんて。ましてや、その先輩が……当時好きだった人が隣に居るなんて、人生でどのくらいの確率なんだろうと考えると、眩暈がする。そんな眩暈の起きそうな確率が起きた奇跡に、否――やっぱり運命に。
感謝したいと思った。
散々冷やかしを受けて、真子には泣かれてを繰り返して、席が入り乱れたころ、私の隣にストンと長井さんが座った。長井さんは隣にいるだけでちょっと私を緊張させるから、少しだけ苦手だ。
どうして長井さんの方がモテるのか……もしかして、緊張するのは私だけなんだろうか?
「ありがとな、もっぷちゃん」
「あ、あの、長井さん。そろそろもっぷちゃんは卒業したいと言いますか……」
「いや無理だろ。俺の中ではモップちゃんから変えようがない」
「――ですよね」
一大決心をして訴えたのに敢え無く一蹴されて、ガクッと肩を落としながらグラスワインに口を付けた。お祝いだなんて嬉しくて、飲み過ぎているのか頬が熱くなる。
「やっぱり俺のヨミは当たってただろ?」
「え?」
不意にしたり顔でそう切り出され、私は間の抜けた顔で長井さんを見た。
「アイツ、やっぱ救ったのは君だったなって」
「救ったなんて。私の方が、です。たくさん貰ってます」
「そ? じゃあお互いに求めてたものが補えたのかな」
「ははっ。刻也さんの何かを補えたならいいですけど……私にはまだまだな気がします」
「相変わらず謙虚だねもっぷちゃんは」
「そうですか?」
「そういうとこがいいけどね」
久しぶりに華麗なウインクを贈られて、私はドキリとする。この人ってなんだか掴めない。
嫌いじゃないけど……ドキリ、の8割ぐらいは緊張感だから、困ってしまう。
「そういえば、もう金平糖は贈らなくていいのかな?」
「え?」
「ぼちぼち永遠の意味については感じてくれたのかと思って」
「それってどういう……」
金平糖と永遠についての関係性が分からずに首を傾げると、長井さんは人の悪そうな笑みを浮かべた。
「まーだもうちょっとかかるかな」
何を言いたいのかさっぱり掴めない。
「金平糖にどんな意味があるんですか?」
ごくりと唾を飲み込んで尋ねると、教えてくれないと思っていたのに意外にもあっさりと答えは返ってきた。
「いや、大したことはないけど。ほら、アイツロマンチストだろ?」
けれど、想像もしない単語が長井さんの口から出てきて、ゴホッと咽た。
「ろ、ろまん、ちすとぉ!?」
刻也さんの顔からはぴんと来ないその単語に、思わず顔をしかめる。
「いやー、俺にはアイツ以上にロマンチストな男は知らないよ」
「はぁ……」
「ほら、金平糖ってさ、何かに似てるだろ?」
にーっと笑いながら示唆されて、金平糖を脳内に描く。そしてはじき出された回答は……
「星?」
「そうそう」
長井さんは満足げに頷いた。しかし星とロマンチストの関係性も分からない私は、うーんと唸りながら、グラスを見つめた。やっぱり長井さんは掴めない。
「星の輝きってさ、何万光年とかっていう恐ろしい単位を超えてきてるだろ?」
「……はい」
「永遠に近い気がするって」
「は?」
「金平糖を噛みしめてたら、何か分かるかもしれないって言い出してさ」
言いながらぷくくっと笑い始める長井さん。けれど私はそれを笑えない。
だって、話の流れからして、そう言ったのって――
「ククッ。アイツ真面目な顔して食べてやんの。あっはっは。ほんと馬鹿だろ?」
「いや、馬鹿って言うか、なんて言うか」
信じられない答えに、何とも言えない表情を浮かべてしまう。一体、どこの世界に金平糖を食べながら永遠なんてものを考える人がいるのだろうか?
あれは、ただのお菓子だ、お菓子。
「だから言ってるだろ? ロマンチストなんだって」
「ははっ。そういうことに、しときます」
思わずつられて笑ってしまうけど、本気で笑えない。
まさかそんな理由でお菓子を食べる人間が、この世に居たとは。しかもそれが彼とは。
私は複雑な表情を浮かべて、また一口ワインを飲んだ。
「ま、じゃあ結婚するまでは贈るとするか」
「け、け、けっこん!?」
「するでしょ?」
「いいい、いやっ、そのっ」
焦る私を不思議そうな顔をして見つめる長井さん。いえいえ、不思議なのは私ですから、あなたではなくて!! と言いたくなる。




