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「ほんと、海人さんって好きですよね八重子先輩のこと」
ふふふって笑いながら思わずそんなことを言っていた。
「萌ー優ーー?」
怒りながら顔を上げるけれど、どこか嬉しそうな顔の先輩。
「おめでとうございます」
綻ぶ顔をそのままに、先輩に心を込めてそう言うと恥ずかしそうにありがとうと言う声が聞こえた。
そこからは、海人さんの謝罪会から一転して『海人さんおめでとう会』に切り変わり、席も入り乱れ始めた。
補佐の隣には遅れてきた補佐の同級生の長井さんが座り、私は少し離れた場所で八重子先輩と真子に挟まれて座っている。
「でも、ほんと二人が結ばれて良かったですよー!」
真田くんのテンションには届かないまでも、遅ればせながら興奮し始めた真子がそういうと、八重子先輩はまた照れながらありがとって言っていた。
あんなに海人さんと付き合ったりってことに抵抗を示していた八重子先輩が、すんなりみんなのお祝いの言葉を受けている現状にホッとする気持ちと、嬉しい気持ちが湧いてくる。
真子も真田君も、そして私もそうだけれど……それはもう、ずっとずーっと二人のことを見てきた。周りのみんな誰もが、二人はお互いに好きなんだって分かっているのにそれを認めない二人。特に八重子先輩に至っては、ちょっとでも茶化そうものなら大激怒していたくらいだった。
だからようやく二人の関係が落ち着いたことが、素直にみんな嬉しいのだ。
「萌優も……あの時、ありがとね」
あの時――が病院のことだというのはすぐに分かる。けれど、お礼を言われると困ってしまう。だって私は何もしていないし、帰るぞと言ったのは補佐だ。
「私何もしてないですしっ」
「ううん。ほんとに。トキ兄と駆けつけてくれたことも、気を利かせて帰ってくれたことも。ほんと全部に感謝してる」
何もしていない私なんかに、そんな風に感じてくれた八重子先輩。なんだか凄く変わった。
今までも周りを見て、周囲に気を配る先輩を尊敬していたけれど、さらにおおらかになったって言うか。その温かさが隣からじわりと伝わってくる。
「私はっ。二人が結ばれてくれて本当に嬉しいですからっ」
お酒のせいか、海人さんと八重子先輩がくっ付いてくれたことが嬉しすぎて、なんだか涙ぐんできてしまった。大好きな二人が結ばれるってどうしてこんなに嬉しいんだろう……なんて思いながら、私は笑った。
――疎外感なんて、感じてる場合じゃない。
私だって、みんなの仲間には違いない。
今はもう劇団活動を止めてばらばらになってしまった私たち。でも……海人さんも、真田君も真子も。そして劇団を支えてくれた八重子先輩も。みんな仲間だった。
それは解散してなお同じことで。変わらないモノ。
ただ、補佐との距離がみんなと違うことで疎外感を勝手に持って、くだらない僻みを持つなんて馬鹿げていた。そんなことに気が付いて、なんだか少し気持ちが前に向く。
「で? アンタはどうなってんの萌優」
ニタッと笑うと、真子がもう逃げさせないと言わんばかりに腕を巻きつけてきた。それに便乗して、反対に座る八重子先輩まで私の反対の腕に体重を乗せてくる。
「やーっぱ、あんた何かあるのね、萌優?」
ニターっって効果音がぴったりな笑みを浮かべた二人に、両サイドをがっちり固められ私の視線は定まらない。
「え? な、何もな」「いわけないよね? 私に黙ってたくらいなんだからねぇ? きーっちり説明してくれるわよねぇー」
これは……真子は、私がトキ兄と出会ってたことを黙ってた件について、かなりお怒りのご様子と見受けられた。
「……は、はい」
項垂れるように頷き、はぁ……とため息を吐く。これは洗いざらい喋るまで解放してくれない気がする。一体何から説明して、どこまで話すべきなんだろうか。
「質問なんだけど」
「何デショウカ?」
まだ話し始めてもいないのに八重子先輩から切り出された質問に、良い予感がしなくて私はなぜかカタコトになる。でもそれを茶化しもせずに、真面目くさった顔で八重子先輩は超ストレートを投げてくれた。
「萌優って、トキ兄が好きだったりする?」
「ングッ!!!」
私はその信じられない質問に、目を大きく見開いて自分の唾で喉を詰まらせた。
「ゲホッ! ゲホゴホッッ!!」
妙なところに唾が入って、さらに続けて咽る。
「萌優ー、そんな焦らなくても」
いきなり大きく咽だした私の背を優しく真子が擦ってくれるけれど、それどころではない。
しばらくゴホゴホするのを止めるのに時間をかけながら、頭の中では言われた言葉がグルグル駆け巡っていた。
――直球過ぎるから先輩!
その直球は自分の時に使ってよ! なんて変なとばっちりを八重子先輩にする。
はぁ……とウーロン茶を飲んで落ち着いてから息を吐いていると、左右からは落ち着いたなら早く言えとばかりの強い視線を感じ、その怖さにガクッと肩を落とした。二人の鬼気迫る目つきに観念した私は、腹を括ってぽつりと呟く。
「……そうです」
――誰にも言うつもりもなかったのに。
ようやく自分で認めたばかりの気持ちを、他人に対しても言ってしまうことで本格的に認めざるを得なくなり、言ったそばから後悔しそうになった。




