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あんまり子供っぽいと思われたくない。
でもめっちゃ気合入ってますってのもヤダ。
でも力入れないとベリーショートの私は、もんちっちみたいになる。ただでさえ背が低いし。
自分のコンプレックスをうだうだと羅列しながら、好きな服を並べていく。
スカート? ボトム?
馬鹿みたいに何着ようって悩んで、そんな時間さえウキウキする。初めて……初めて、好きな人を思い浮かべながら服を選んで、それが幸せだって感じた。やっぱり、恋が悪いわけじゃない。――多分、だけど。
散々悩んだ挙句、膝丈の落ち着いた感じの黒のボトムにキャミを着てカーディガンを羽織った。超、大人し目で無難な感じ。だけど……
「目立ちすぎて、ないよね?」
私の場合は、胸が目立つので鏡を見て自分の胸元に目線を落とす。
羨ましいなんて、とんでもない。これは最悪な代物だ。
もう捨て去った過去のはずなのに、幻聴のように『……触りたかっただけ』と言われた言葉が蘇ってきて、私は耳を塞いだ。
――違う、違うっ。
何が違うのか分からないまま、私はギュッと目を瞑って頭を振る。男の人の目が、胸ばかりに注目してるわけじゃないと思ってる。でも、もし補佐がそんな目で見ていたとしたら?
なんて馬鹿な想像をしたら怖くなった。
可愛らしいキャミを脱ぎ捨てるように脱ぐと、ただのTシャツに着替える。幸せが一瞬で潰れて、悲しくなった。私はいつになったら、こんなコンプレックスから抜け出せるのだろうか……
脱ぎ捨てたキャミソールが、やたらと色褪せて見えた。
指定された駅前に着くと、奇妙な集団が出来上がりつつあった。やたらと妙に目立つ人間が多いその集団は、明らかに自分が呼び出された飲み会のメンバーだ。
「もゆっぺ!!」
大声で私を呼ぶ声が聞こえて視線を向けると、予想通り真田君がいた。
「おつかれー」
と言いながら近寄りつつも、真田君の正面に立った瞬間にべしっと彼の額を叩く。
「大声でもゆっぺ呼ぶな!」
これはもう私と彼の間での恒例のやり取りになっているけれど、私としてもいい加減大声で呼ばれるのは勘弁してほしい。けれどそれは一生治らないんだろうって分かってもいる。
お互いに視線が合ってニヤリと笑うと隣でくすくす笑う声がした。それは昔から変わらず彼の隣にいる彼女で、私の一番の友人でもある朝野真子だ。
「萌優、久しぶりっ」
「まこっ」
中学の時と変わらず、いつもと同じように彼女に抱き着く。
異動してからというものドタバタしていてなかなか会う機会がなかったから、本当に久しぶりの再会になんだかすごく気持ちが高ぶっていつも以上の力で抱き着いた。
真子の傍は凄くホッとする。真田君が真子を選んでいつも傍に居ることに、少し嫉妬してしまいそうなくらいだ。
「よ、久しぶりだな」
私が真子のいるこの状況に心地よくなっていたら、背後から聞きなれた声が飛んできた。私が好きな、少し低いけどよく通る耳に心地よい声だ。ピクリと反応して顔を上げると、私が何かを言うより先に真田君が私に耳打ちしてきた。
「もゆっぺ、あの人っぽくね? トキ兄。……あ、もゆっぺはもしかしてあの日に会えた?」
「え? 何言ってる……っ!」
まずい。そうだ、マジで忘れてた。
トキ兄の連絡先は知らないけどO型だから声かけてみたら? なんて真田君に言った。
でも、私の上司が実はそのトキ兄でしたーっていうあり得ない展開については……言ってない。あの日真田君と別れた後、トキ兄が来たことについても何も話していない。
八重子先輩が、真田君にもちゃんと連絡入れておくからいいって言われて、私から特にしなかったからだ。何とも落ち着かない気持ちになって、冷や汗と呼ばれるだろう奇妙な汗がたらーっと背に流れた。
疾しいことは100パーセントない。けれど、何かといろいろ抵抗ある。ほら、再会して私はまた彼を好きになっちゃった……とかの辺りは特に。真子にはまだ何も言っていない。
その重大な事実に今になって気が付いた。
どうしようって頭の中であれこれ悩んでいるうちに、背後に誰かが立つ気配を感じた。私の背後に立つその人を見て真田君が、あ……と漏らす。間違いない。今背後にいる彼は――
「江藤……昨日は悪かったな」
昨晩、私がおやすみなさい、と就寝前の挨拶をした上司だ。
びくりと体を震わせてから恐る恐る振り返ると、やはり間違いなくそこには私の上司様が立っている。それは現在、私が密かに思いを寄せる人であり、且つ、トキ兄とみんなに呼ばれるその人で間違いない。いつもの……会社でのパリッとした姿とはまた違ったラフなスタイルの補佐が、いつもの固さが少し抜けた表情で私を見下ろしていた。
「ぁ……、いえ、あの。こちらこそっ……連絡頂いて、すみませんでした」
真田君にも真子にも説明していない状況で、微妙な空気になっているのを感じながら昨晩のお礼をする。補佐はそれを聞いてふっと笑うといつも通りの調子で私に話をしてくれた。




