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永遠に触れたくて  作者: 桜倉ちひろ
転:絡まる恋
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15

 そのトキ兄が言う「集まらないか」のメンバーは、海人さんにとって先輩のメンバーになるとすれば、いくら私が海人さんや八重子先輩、そしてトキ兄と知り合いとはいえ、そこに入っていくのには抵抗がある。

 『気にするな。迷惑かけて海人が謝罪したいだけらしいから。江藤の同級生の……真田、病院来てたんだろ? 彼もそうだけど、他にも鎌田や彼が電話をかけたみたいで随分心配かけたらしいぞ」

 「うわ、そうなんですか?」

 『そうらしい。ほんとにお騒がせな奴だ』 

 クスクス笑う補佐に、私もつられて笑う。海人さんの一件では本当にドキドキもハラハラもさせられたけれど、終われよければ全てよし、だ。

 「じゃあ私が行っても」

 『いいに決まってるだろ? 細かいことはまた海人に送らせるから』

 「はい、分かりました」

 嬉しさでまた勢いづいて返事をする。そのあと急に、補佐から声が聞こえなくなった。

 ――やっぱり、電波悪い?

 また耳から携帯を話して電波を確認するけれど、悪くはない。もう一度携帯を耳に当てると、何かに悩むような声が聞こえてきた。

 『江藤。あの……今日は、どうだった?』

 「今日? 飲み会、ですか?」

 今日って何のことだろうと思って尋ねると、補佐からの返事がなかなか返ってこない。間違ったことを言ったのかと気になって、少し眉間に皺がよる。自分でも怪訝な顔をしているのが分かったけれど、補佐の声が聞こえてこない。

 だんだん怖くなってきて、今度はゆっくりと顔が青ざめていった。

 「補佐……?」

 不安の入り混じる声で呼びかけると、ハッと息を飲むのが聞こえてきた。

 『あぁ、そうだ』

 ようやく聞こえた声にホッとして、楽しかったです、と当たり障りのないことを言うと、そうか、って返ってきた。

 ――私、何か変なこと言ったのかな?

 いつものハキハキしゃっきりした感じが全くない補佐に戸惑う。そう言えば……鈴木係長が、補佐と電話してたなって思い出した。相手が誰かをハッキリ言ってくれなかったけれど、あれは間違いなく補佐だったはずだ。

 「鈴木係長が」「何か言われたのか!?」

 食って掛かるような声に、私はびくりと身体を震わせた。何か聞かれたら困るようなことでもあるの?

 「えっと……補佐が、補佐になった話、とか」

 『それだけか?』 

 「はい?」

 『あー……いや、いいんだ別に』

 「?」

 さっぱり掴めない補佐の言葉の数々に増々疑問が増えて、首を傾げるしかない。

 意味の解らないまま会話の途切れてしまった私を余所に、いつも通りの調子に戻った補佐が最後の挨拶をしてくれた。

 『じゃあ江藤、明日な』

 「あ、はい。電話、わざわざありがとうございました」

 『いや……それは、別に』

 また歯切れの悪い補佐に戻って、私はまたしても首を傾げる。今日の補佐はさっぱり分からない。

 『しっかり休めよ。じゃあ、おやすみ』

 補佐の言葉一つ一つに引っかかっている私を置いて、補佐はさっと就寝前の挨拶を口にする。

 おやすみ。

 その一言だけで、私の気持ちは一気に急上昇する。

 「お、おやすみなさい」

 補佐にも同じように返すと、ふっと笑う声が小さく聞こえてプツリと通信が切れた。

 一日の最後に補佐と繋がれた。それだけですっごく幸せだ。

 ドキドキするのを感じたまま、もう切れてしまった電話に名残惜しさを感じながら携帯を閉じた。そうしてもう一度同じ言葉を、閉じた携帯に向かって声にする。

 「おやすみなさい」

 それだけできゅうっと胸が締め付けられて、でもそれが堪らなく嬉しくて頬が上がってしかった無い。

 恋なんてしなければ良かった。

 補佐になんて出会わなければ良かった。

 そんな気持ちはすっかり吹き飛んで、私の頭の中ではクツクツと笑う補佐の顔が浮かんでいた。

 ――やっぱり私、永友刻也に出会えて幸せだ。

 例え、この気持ちが報われなくても。

 この一瞬は、確かに幸せだって思えた。


 ――――――


 翌朝、海人さんから今日の参加者に一斉送信されたメールが届いた。同時受信者名を見ると、確かに私の知る面々がいる。真田君に、真子まこもいてホッとした。

 それにしても、海人さんから連絡が来るんだったら、どうして昨日補佐からわざわざ連絡が来たのだろうか? 今までだって直接海人さんとは連絡をとっていたし、わざわざ補佐を経由して教えてもらうような内容じゃない気もする。

 一体、なぜ?

 首を傾げて、数秒考えてみたけど何にも浮かばない。

 「ま、考えても仕方ないか。やめやめっ」

 頭をブンブンと振って、私はそのことについて考えるのを中断した。海人さんから補佐を通じて連絡しておいてくださいなんて、言うわけがない。となると、補佐が自分から言うって言い出したことになる。

 ――それって、どうしてなの?

 そこまで考えて、怖くてその先を想像するのを止めた。

 あんまり深く考えない。そうしなきゃ、また馬鹿みたいに都合のいい勘違いを私はしてしまうから。  


 そんなモヤモヤを抱えながら、出かける時刻が近づいてきたころ。そういえば私服姿で補佐に会うのって初めてだってことに気が付いた。

 補佐の家で、補佐の普段の姿は見て来たけれど、私自身は仕事の後だったからいつもスーツだった。

 ――なんかすごく恥ずかしいかも。

 好きな人に自分の私服を見せるって、滅多にないことだからこそドキドキする。

 ――うわー、言っちゃったよ好きな人って!!

 脳内の独り言に自分で突っ込みながらベッドの上でジタバタする。一通りバタバタしてから、体を起こしてはぁーと息を吐いた。

 「何着よう……」

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