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永遠に触れたくて  作者: 桜倉ちひろ
転:絡まる恋
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11

 生まれてこの方、誰かに告白された記憶はない。

 今の言い方だって、付き合ってもいいよ? ってだけで、私が好きとかそう言うのじゃないよね。うんそうだ、絶対に軽いノリで言っただけで変な意味はないはず。

 「まったまたぁ。そういう冗談はもっとマジなときに使ってくださいよぉー」

 無理矢理笑い声をあげてそう言うと、タイミングよく幹事らしい人から、そろそろ出るぞと声がかかった。

 「……あ、もう時間か」

 石田さんがそう言ってくれたことにホッとして、私はいそいそと立ち上がる。

 立ち上がりながら石田さんをチラリと見ると、真剣にじっと私を見つめていたさっきの表情は消えて元通りの明るい石田さんに戻っていた。だから私は、やっぱり冗談なんだって安堵して店を出た。

 店を出てからもそのまま石田さんがあれこれと話しかけてくれた。もりやんが近くに居なくて気を遣ってくれたようだ。

 石田さんは雰囲気のせいか若手のイメージがあるけれど、珍しく飲み会に参加していた神野さんを引きこんで「俺の方が先輩なんだよ、えっへん」なんて言って笑わせてくれる。

 それに神野さんがブツブツと言い返そうとしたとき、営業のベテラン女性の先輩が割り込んできて、神野さんをひっ捕まえて離れて行った。

 「うわ、神野さん可哀想」

 「え?」

 「あの人、やたら若手狙いで怖いんだよね最近」

 そう言って石田さんは離れていった先輩を見た。私もそこに視線を向けると、もりやんが言っていた神野さん狙いの人ってのはどうやらあの人かと納得する。

 やたら引っ付こうとしているのを懸命に神野さんが避けている姿が見えて、少し同情してしまった。

 「でも俺は有難いけどね」

 「どうしてですか?」

 「だって。神野さんって萌優ちゃんには優しくない?」

 「そうですか?」

 「なんか雰囲気が柔らかい気がするんだよな。ま、俺が勝手に対抗意識持ってるだけかもだけど。あ、そうだ携帯教えてよ」

 ――対抗意識って何?

 なんて考えている間にさっと話題を変えられて、私は思考を中断させられた。

 「あ、はい」

 会社の先輩なわけだし、まぁ石田さんは悪い人ではない。

 そう思って特に抵抗なく携帯を取り出すと、未だにフィーチャーホンを使っていることにお互い喜んで、赤外線でアドレス交換をした。

 ――補佐のアドレスを知るまでに何か月もかかったのにな……

 なんてふと過って切なくなる。

 補佐は、上司。だから、それが普通。

 自分に言い聞かせて、登録し終えた携帯を鞄にしまった。


 自由参加で2次会はカラオケと言われたので、私は辞退した。今日は営業有志の集まりだし、私がそこまで割り込んでいくのもちょっと抵抗がある。一緒に石田さんも辞退しようとしたけれど、もりやんが引きずって連れて行ってしまいそれを笑いながら見送った。

 見送っていると、背後からポンと肩を叩かれて私は驚いて振り返る。そこには元上司で、今日私を無理矢理引きこんだ張本人である鈴木係長が居た。

 「江藤、俺と帰ろうか」

 「す、鈴木係長! もう、びっくりするじゃないですか」

 「ははは、すまんすまん」

 「いや、すまんとか思ってないでしょ!?」

 そう言いながらバシッと腕を叩くと、いてぇ、折れた! なんて言って過剰な演技をしてくれる。

 こういうところが鈴木係長の好きなところだ。

 「駅まで一緒に行こうぜ江藤」

 「はいはい、お供させていただきます」

 そんな軽口を叩きながら、私は久しぶりに鈴木係長と肩を並べて歩き始めた。

 係長と二人で話すのは久しぶりで、去年の営業に居た頃の話や今の営業の話題なんかで盛り上がっていたら、あっという間に駅の近くまで歩いていた。

 「そういや、永友元気か?」

 もうすぐ改札が見えてくる、そんなところに来て突然補佐の名前が出てドキリとした。

 元気か? って、なんだか親しげなその物言いに、意外なものを感じる。

 「お前、今あいつと仕事一緒にやってるんだから知ってるだろ?」

 「一緒にはしてますけど……補佐と親しいんですか?」

 「あぁ、同期なんだ」

 「えぇええ!?」

 係長の同期が補佐? なんだか違和感ある。

 なんて思いながらちらと係長を見ると、じろりと睨まれた。

 「お前今、なんか失礼なこと思っただろ」

 「え、え? そ、そんなこと」

 「馬鹿たれ。分かりやす過ぎ」

 そう言って私の脳天にチョップを食らわせる。その攻撃に頭を傷め涙目で痛みを訴えるのに、係長はふふんって顔をして得意げに言った。

 「言っとくけど。俺は同期の中でも出世株な方だからな」

 「え、嘘」

 「お前な。何気に失礼な奴だな」

 「あわわっ、今のなしで」

 ついつい係長だと思って気が緩んで言いすぎてしまい、私は両手で口を塞いだ。

 けれどそんな私を怒るなんてことをする係長では当然なくて、けっどうせ俺なんてよう、なんて芝居じみた拗ね方をする。それにノリツッコミしながらようやく落ち着いた頃、係長は教えてくれた。

 「いっとくけど、永友が補佐になったのはどうしようもなくなった結果の仕方なしで起きた措置だからな」

 「どうしようもなくなった結果? 一体、どういうことですか?」

 補佐のこととなれば、私はつい過剰反応してしまう。

 それは……もちろん、直属の上司だからってことも大きいけど、それだけじゃないことは自分が一番よく分かっている。

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