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永遠に触れたくて  作者: 桜倉ちひろ
結:結ぶ恋
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 止まらない鼓動の速さに、体がどうにかなりそうだってこの時すでに思ったけど……これは序盤だったとこの後知ることになる。

 優しい口づけの後、手の平が、指先が、唇が私の体の至るところを触れて回って、身体が熱くなって止まらない。こんなの知らないって何度も思って、熱に浮かされたみたいに意識がぽわんぽわんする。

 自分でも触れたことのない部分に手を伸ばされると、恥ずかしさで死ぬって思っていたのに、刻也さんの手がまたいたずらにうごめいて止まってくれないから、私はあられもない声を上げてばかりだ。

 間に何度もキスをして、何度も肌に触れているうちに、もっとくっつけたらいいのにって気持ちが湧きあがってくる。 こうやって、人は交わっていくのかもしれない……何て思っていたら、いくぞ、って言われてこくんと頷いた。

 「い、っ……た」

 想像以上の痛みと重みに、涙が滲む。ぼやける視界に映るのは刻也さんだけで、私に痛みを与える人だけれどたまらなく愛しい。

 「ゴメンな、萌優。……愛してるよ」

 囁かれた言葉と彼の熱さにくらくらしながら、私はようやく彼と心も身体も繋がった。そして、やっぱり心に想うのは「大好き、です」って、ただその気持ちだけ。

 抱きしめたい衝動にストップをかける必要はもうない。腕を背中に回してギュウっと抱きしめるとより彼を感じて、ただこの人の傍にずっと居たいと思った。

 これから先彼を抱きしめるのは、どうか私だけにして――そう願いながら、私は意識を手放した。



 そんな私たちの日々は温かく過ぎていき、私の誕生日があったり、海人さんと八重子さんが無事結婚したりなんてことがあって――なんと今は、昨日挙式を終えて新婚旅行に来ている。私の誕生日の後、あれよあれよで結婚することに決まったからだ。

 私なんかでいいの? とかいろいろ思ったけれど、ただ私一人を望んでくれたことが嬉しくて、迷いもなくプロポーズも受けた。海人さんの結婚式の直後、勢いで話が進んでいき、気付いたときには私は白いドレスを着せられていた……ような気がしなくもないけれど。

 長井さんが言うには「モップちゃんはともちゃんに上手いこと丸め込まれてるよ」らしい。

 それと言うのも、今日、6月10日の時の記念日が彼の生誕の日でもあって、どうしても今日がいいという刻也さんの我儘により結婚を無理やり早めたからだ。とは言え、仕事で部署は離れた寂しさはあるけれど、私の毎日は幸せいっぱいだ。

 砂浜を刻也さんと手を繋いでいる今も、柔らかで温かい幸せが胸に広がってたまらない。

 願わくば、ずっと傍に居たい。そう思っていた、ずっと。

 だからそれが叶って、今は幸せ以外の言葉が見つからないくらいだ。

 「なぁ、萌優」

 手を繋ぐ刻也さんがぴたりと足を止めたから、隣を歩く私の足も自然と止まる。沈む夕日が海に反射してキラキラ光って、綺麗だなって思いつつ振り返った。

 「なんですか?」

 「1年前の今日、何してたか知ってるか?」

 「1年前? いや、さすがに分かんないです」

 「ククッ……だと思った」

 笑いながら私を引き寄せて、後ろから抱きしめる。ワンピースの裾がひらりと揺れて、ふわりと風が足を通っていくのが気持ちいい。

 「覚えてるんですか?」

 「覚えてるよ」

 斜め上を見上げて尋ねると、誇らしげな顔をした刻也さんから返事が返ってきた。

 1年前?

 6月……

 うーん、総務に馴染んできて、会社妻とまで呼ばれた当たりかな?

 しかし本当に妻になるだなんて、みんなびっくりしてたな……なんて思いながら、皆の驚きの表情を思いだしてくすっと笑う。

 「え、そんなにおもしろいことあったか?」

 「いえっ。会社妻じゃなくて、ほんとに妻になったらみんな驚いてたなーって思って」

 「そっちかよ」

 「ごめんなさい。脱線しちゃって」

 ぺろりと舌を出すと、はぁーっとため息を吐かれた。

 「いいよ。苦労するのは分かってたから」

 なんて笑いながら言われた。

 「く、苦労って、そんなにっ」

 「いーの。お前はそのまんまで」

 「もぉー、そんなことないのに」

 ぷ、と頬をふくらますと指先を頬に刺されて潰される。

 潰された頬に、ちゅっとキスをされればそれで満足してしまうんだから、私ってどうしようもなく刻也さんに転がされている気がする。

 「一年前の今日。萌優が初めて家に来た日、だよ」

 「え?」

 「俺の誕生日。萌優、俺の横に居た」

 「嘘!?」

 「ホント」

 ニヤッと笑うその顔に戸惑う。だって、あの日は本当にたまたま一緒だった。

 海人さんが事故に遭って、それで病院に駆けつけたら実はトキ兄は自分の上司だって分かって。初恋の人なのに、また上司の刻也さんに惹かれてしまって……なんて。

 そんな、あの日が一年前の今日!?

 「ケーキ、美味かった」

 「まさか、あの……!?」

 「そうそう。すし屋の」

 「知ってたら、もっとちゃんとしたの用意したのに」

 「いいんだってば、あれで」

 またもクスクス笑う彼とは対照的に、私の表情は曇る。

 「ごめんなさい。気づかなくて」

 「いいよ。三十路の誕生日なんてわざわざ言わないから」

 左腕を私の腰に回しながら、頭を撫でてくれる。その手の温もりが心地よくて、ついつい力を抜いて体を後ろに預けてしまった。そうするとさらにぎゅっと抱きしめられる。

 「あの日すごく近くに萌優を感じて、初めて俺の目にお前が女に映った。そしたらもう止められなくなってた。でもどうしたらいいんだって、ずっと悩んでたよ。本当は……もっと前から、お前に惹かれてた気がするけどな」

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