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「ゆっくり、大事に、するから」
その顔を見て目と目が合うと、実は私だけが怖いんじゃないのかもしれないって思った。大事にしてたのは、私だけじゃなくて、刻也さんも同じだから。だから……もしかしたら態度以上に、彼も同じくらい緊張しているのかも――なんて。そう思ったら少しほっとして、頬が緩んだ。
すっと手を伸ばして、彼の頬に触れると私も手を滑らせて彼の左耳をやわやわと弄ぶ。ぴくっと震える彼が何だか嬉しくて、ふわりと微笑んだ。
「おねがい、します」
その言葉を受け取ったとでも言うように最後にもう一度キスが落されると、私のスウェットのズボンが剥ぎ取られた。ゆっくりと太ももを滑りながら脱がされていくのが恥ずかしい。
素肌を滑っていく手が、温かくて大きくて、やっぱりぞわぞわしてしまう。上も下も剥ぎ取られて、残りはキャミソールと下着だけにあっという間にされていた。
「ぁ、あ……っ、ん」
満足に息も出来ないほどの深いキスがまた始まって、だけど彼の手は止まることを知らない。気が付けばたくし上げられたキャミソールのせいで、素肌が夜の空気に触れて震えた。
彼の指先が、また私の体をなぞるように脱がせていくからどこもかしこも爆発しそうなくらい体が熱い。柔らかな部分をゆっくりと包む手が、優しく私の快感を呼ぼうとしている。先の敏感な部分に触れられて、なんだか分からない刺激が体に走ったかと思ったら彼の唇がそれを食んでいく。
「ん……っ、や、ぁ」
こんな刺激、私は知らない。
こんな感覚、私は触れたことがない。
堪らなく私の身体から何かを呼び起こそうとするその刺激に、私の身体はどうにかなってしまいそうだ。恥ずかしさに声を耐えていたら、ちゅっと音を立ててそこから彼が離れた。
「ごめん、萌優。中、入ろうか」
掛布団の上に転がっていたのを思い出してくれたみたいで、私の体を起こして布団を捲ってくれた。
布団に入ると、ホントにしちゃうんだ……なんて想いが押し寄せてきて、さらにドキドキする。すでに着崩れた下着姿の癖に今さらかも、とか思いながらもそれでもまだ初めてだから緊張が止まらない。
バサッ
布団に足を踏み入れる私の横で、彼がシャツを脱ぎ落とした。彼のその行為も見るのは二度目……だけど、恥ずかしくて堪らない。履いていたジーンズもあっさり取り払って、刻也さんは私の隣に滑り込んできた。足先に彼の素足が触れてピクッと反応してしまう。
恥ずかしさに背を向けたのに、彼の手が伸びてきてゆっくりとキャミソールをブラと共に剥ぎ取られた。
「萌優……」
私を呼びながら、項にちゅっと触れる唇。少しずつ下降して触れるそれが、離れた場所から次々に熱を持って戸惑う。
「ん………っ」
自分の意志とは無関係に零れ出そうになった声を、慌てて手の平で封じる。自分の声ですら恥ずかしさを煽るだなんて思ってもみなかった。
「んんっ!」
ザラリとした感触が背中に走り、予想だにしなかったその責めに抑えた手のひらの隙間から声を漏らした。
「こっち、向かないか?」
そっと私を促すように、彼の大きな手が私の右肩を掴んだ。ドキドキが最高潮に達し、恥ずかしさに目を伏せながらそっと向い合せになる。彼の胸板が眼前に広がって、さらに気が振れそうになった。
どうしていいか分からなくて、両手を口元に添える。震える手を精一杯押さえつけながら、どうしようどうしようって思っていたらギュッと抱き寄せられた。
どこもかしこも、触れる部分が素肌で……恥ずかしくて、触れる部分全てが熱を持ちそう。それなのに、どこか心地よくて安心する。
――これって、刻也さんだから……?
「あったかいな」
私を抱きしめる刻也さんの声が、頭上から聞こえた。
「え……?」
「いや、お前あったかいなーって思って」
「そうですか?」
「俺さ。こんな風に思ったことなくて」
「……」
「いざ、萌優を前にしたら震えてきた」
「そんな」
「大事過ぎて、怖い」
ぎゅうっときつく抱きしめられて、思わず息を止めてしまう。刻也さんは昔私以外の人と……なんて想像したくないから、言葉が出なかった。でも、それもあって今の刻也さんがいて、そして今は私だけを想ってくれている。想い過ぎて指先を震えさせる彼に、私は愛しさがこみ上げてきた。
そっと左手を脇の下から差し込んで背中に回す。ゆっくりとその背を撫でてぎゅうっと抱き着いて、胸元に額を擦りつけた。
「大丈夫ですから。私、頑丈ですこれでも」
私が表現できる精一杯で、彼に大丈夫だと伝える。
本当は少し怖い。もう二十歳も過ぎてって言われようと、初めては何かしら怖いのが世の常だ。
小さく震えてしまわないかとドキドキしながら、さらに体を寄せると安堵の息を吐いて、刻也さんがフッと笑った。
「ん……そうだな」
今度は額にキスが落ちてきて、そのまままたバサリと布団が音を立てたと同時に、私の上に彼が跨る。
「なるべく、努力するけど」
「どりょ、く?」
「泣かせたら、ごめんな」
「っ――!」
言われたことの意味が分かって、少しパニック気味に赤面した。
真っ暗闇で見えないと思うけど、それでも恥ずかしくて両手で顔を塞いでしまう。
「顔、見せて」
両手を取られると、メガネを外した彼の顔が至近距離に現れた。




