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眩暈がしそうなほどの勢いに、酸素が足りなくて苦しさをバシバシ肩口を叩いて伝える。
「ふ、ぁ……と、ときなり、さ」「まだ」
一瞬だけ離れた唇は呆気なくまたくっついて、彼の唇はまた私の唇を食べる。
「あ……っ」
やっぱり彼の指先は時々いたずらが得意だ。あ、と思った時にはすでに遅くて、いつの間にやら私のセーターの中にその手ごと滑り込んでいた。
いつもながら、いつの間に? と思ってしまうほどの鮮やかさ。その手慣れた感じに些か不満を抱きながら、すっかり慣らされてしまった甘いキスに思考が薄らいでしまっていた。
――まさか、このまま!?
焦るけれど、私は背後の背もたれと、圧し掛かるように私を制圧する刻也さんの重みとで逃げる余地がない。
プチン
またしても鮮やかに、私の胸を締め付けるものが外されて、私はさらに赤面する。
「ま、まって!」
「やだ」
「だ、だってココ……っ、ん、ぁっ」
「待てない」
随分待たせてしまったことは分かってる。
2週間前、あんな形で中途半端に終わらせてしまって、彼に変な火をつけた。それでなくても付き合い始めて5か月が経っている。この年で、付き合い始めていくらなんでも遅すぎる、ってツッコまれても仕方ないって自分でも自覚してた。でも、やっぱり……
力で抑え込まれたら到底勝てないのは百も承知だけど、このままここで流されるわけにもいかないって気持ちが働いて、私の全力を持って、刻也さんの体を押して離そうとした。でもわざとらしく体重を掛ける彼は、もう顔がいつもの補佐の面影もないほど男の顔をしている。
「まだ駄目か?」
「え、えとあのっ、そういうわけじゃ」
「じゃあいいだろ。もう待ちきれない」
掠れた声でそんなことを言われたら、身体に熱が灯る。私だってもう、刻也さんの全てを受け止めたかった。ただ、ココじゃ嫌だってだけで。
「あのね。ここじゃなくて、その……」
ベッド、行きませんか?
なんて自分の口からは恥ずかしくて言えない。けれどそんな私の意向を察してくれたのか、刻也さんは私の腕を引っ張り上げると、いとも簡単に抱き上げて廊下を歩きはじめた。
「ひゃあああっ」
叫ぶ私を余所に、嬉しそうな顔をして歩く刻也さん。人生でお姫様抱っこを経験させてもらえるなんて思いもよらなかった。けど、これってしがみ付いていないと恐ろしいほど怖い。
「お、下して。ある、歩けますからっ」
そう訴えるけれど、全く聞こえないのか刻也さんは私を見ない。もう何も言えなくて、ぎゅっとしがみつくと丁度耳元に私の唇があたる。
――覚悟を決めるしかない。
だって、私に触れたいと願う彼の気持ちに触れて、私の気持ちも身体も高ぶっているのは事実。このまま彼に流されたいって思っているのが本音だ。
寝室に入り、どさり……と下されたのは、もう何度目かの彼のベッドの上。彼の首に巻きつけた腕を離す前に、私は唇の触れた耳元で囁いた。
「私の全部、もらってください」
そう言って腕を離すと、刻也さんはふわっと優しく微笑んだ。
「萌優」
私の名前を呼ぶ彼の声が、ただただ甘い。
ペタリとベッドの上に座る私を両足で囲うように座ると、刻也さんは右手を私の頬に添えて引き寄せ再び口づけをした。先ほどと違う柔らかな口づけに、少しの物足りなさと、初めてへの緊張感でドキドキが高まっていく。
唇に、頬に、鼻に、瞼に、目尻に、こめかみに。
たくさんのキスの雨が顔中に落ちてきて、まるで発熱した時のように顔に熱が集中する。それを受け止めながらも恥ずかしさにきゅっと目を瞑ると、最後には優しい彼が尋ねてくれた。
「萌優、いいのか?」
耳朶を柔らかく食みながら囁くところが憎い。耳の奥まで届くその声にゾクゾクしながらコクリと頷くと、破壊力の有りすぎる声で続けて囁く。
「好きだ……」
それだけで、私の心臓が壊れそうなほどに鼓動を打ち始めてしまう。
いっぱいいっぱいの私は、何も言えずにそのまま押し倒されて、ぽすっと体がベッドに沈んだ。真上に見る刻也さんの瞳はとても柔らかいのに怖くて、私はこれから肉食動物に食べられるウサギみたいな気持になった。つい怯えて震えると、彼はふわりと笑って私の額にキスをする。何度も触れる柔らかさに、思考がふにゃふにゃしてしまう。
そっと大きな掌が、服の裾から侵入すると、ゆっくりとまくり上げられるその感覚にドキドキしながら、私は抵抗することなく彼の服をきゅっと握りしめた。それで何か変わるわけでもないけれど、怖いことなんかじゃないんだって自分に言い聞かせたくて彼に触れた。
ゆっくりと上に上がってくるセーターの中から、彼の指先が私の腕に触れる。それを合図にそっと肘を折ると袖が抜けて、そのまま頭からすっぽりと脱がされた。恥ずかしさのあまりキョロキョロと目を泳がせると、今度は唇にちゅうってキスが落される。




